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新幹線に、なりたかった。

心が、折れた。

自分の駄目さに気づいて、打ちひしがれた。

ぼーっとしながらも、考えることはやめられない。

ぼんやりと、思う。

すぐにひとっとびでいける人は、すごいと思う。そういう人を、羨ましいと思う。

すごくかっこいいし、いいなと思うし、私もあんな人たちみたいに才能があったらなあって、数え切れないほど考えた。今でもよく考えるよ。

そして、そのたびに、自分の凡人さに絶望した。

所詮私みたいなのがちまちま積み上げたってさ。意味ないんだって。誰も見てない。誰も期待してない。誰にも求められない。


ぷいとそっぽを向いて、うずくまる。


自分がどうしたいのかが分からなくて、友達に相談した。

何のために書いてるのか、原点に戻ってみたら? と言われた。


『何のために書いてるの?』

私は即答する。

『楽しいから。書きたいから』


でも、それじゃない。

今欲しいのは、もっとその奥にあるもの。その先にあるもの。




私は過去作を読み返した。短い作品もあれば、長い作品もある。純愛ストーリーもあれば、ぞっとするホラーもある。何十個もある。何十個もあった。

読んでみると、驚いた。

どれもこれも、すごくよく書けてる。

身内の贔屓目ではなく、専門家視点で見て、そう思う。

短い中に、ちゃんと起承転結が組み込まれている。ちゃんと物語を畳めている。

それが、すごい。すごいと思った。すごくよくまとまってると思った。その技術がすごいと思った。

もちろん、当時の自分はそんなこと考えてない。ただ必死に、自分の中から次々と生まれてくる物語を書き留めていただけだ。

よくぞ、こんなものをこんなにたくさん、と思った。

そして、気づいた。

私は、自分のちまちまとした努力を蔑ろにしていた。積み上げた過去を、暗闇に隠したかった。

ひとっとびでいける人が羨ましかったから。

生まれて初めて書いた小説で華々しくデビューしたり、その作品が大ヒットしたり。

コスパよく活躍できる人。かけた時間や努力に対して、リターンが馬鹿でかい人。

そんな人が、羨ましかった。

天才が、羨ましかった。

なれないと分かってるのに、ほしいと願ってしまう。

悲しいかな。それが人間の――いや、私の性なのかもしれない。

ひとっとびでいけることをかっこいいと思った。だってかっこいいから。とてもかっこいい。羨ましいし、羨ましいし、羨ましい。

でも私はひとっとびではいけない。その馬力が、今の私には備わっていない。


安全運転、各駅停車、鈍行列車。



私は、新幹線にはなれない。



それが悔しいよ、とても悔しい。涙が出るぐらい悔しいよ。

なんで、なんでよ。なんであの人ばっかり。

私だって、私だって、私だって……



私には、才能なんてない。才能があったら、今、こんなことで悩んでない。

少しでも、自分に才能があるかもしれないと浮足立った私をぶん殴りたい。

ないよ、ないない。あるわけない。ないない、ないです。ありません。

駄目だよ。勘違いしちゃ、駄目だよ。

天才になりたいからって、天才のふりをしようとしちゃ、駄目だよ。

あんたはそんな人間じゃない。もっと現実を見なきゃ。

何もできないのなら、せめて自分の立ち位置を見間違わないようにしないと。



もう二度と、自分のことなんて、信じたくない。

期待すると、悲しくなる。

駄目だったときに、悲しくなる。

だから、期待なんて、したくない。




でも、自分の力を信じてみたい。



誰かの何かを変えられる、そんな美しい物語を、生み出したい。

そんな作家になりたい。

誰かの心を揺さぶる、世界にたった一つの、最高の物語を生み出したい。

読んでほしい。私の作品を、読んでほしい。

期待するのは怖いけど、信じてみたい。 



過去作を読む。文字を追い、ページをめくる。

私が新幹線だったら、この子たちは、この世にいない。

この子たちは、今、ちゃんと生きてここにいる。

それは、私が書いたからだ。

私が、生み出したからだ。

何者でもない、過去の私が、がむしゃらに書いていたからだ。


涙が出る。

 

この子たちには、価値がないのか?

アクセス数もない、いいねもない、膨大なネットの海に飲み込まれている、たった一つの、小さな作品。

誰かに期待されるわけでもない。誰かに喜ばれるわけでもない。

それでも、書いていた。ここまで、書いてきた。

こんなにたくさん、書いてきた。



この子たちには、価値がある。



他の人がどう思うかなんてことは、知らないよ。知らない、分からない。

もしかしたら「面白くない」とくそみたいな言葉を投げつけられるかもしれない。(言われたことはないけど)

でも、私は過去の私を誇りに思うよ。

この子たちに、価値はあったと、自信を持って、胸を張って言いきれる。

なぜなら、この子たちがいなかったら、今の私はいないから。

ミステリーがうまく書けなくて、50万字という大ボリュームの物語にアワアワして、これが正解なのかと死ぬほど迷いながら、がむしゃらに書き続けて。

よくぞここまできたじゃないか。

私が初めて書きあげた作品は、たったの3000字だよ。

3000字が、50万字だよ。

すごいよ、すごい。よく頑張ってる。よく頑張ったよ。

ミステリーはまだまだかもしれないけど、起承転結はちゃんと書けてるよ。

だって私は、たくさんの物語を生み出してきた。

たくさんの物語を生み出して、たくさんの物語にピリオドを打ってきた。

たくさんのキャラを書いてきた。いろんな人生を描いてきた。

だから、ここまでこれた。

もちろん、まだまだだよ。まだまだこれから、乗り越えなきゃいけない壁はたくさんあるよ。

でも、ここまでこれたことに、自信を持つべきだ。

あの子たちを誇りに思うなら、あの子たちを生み出してきた私という人間も、誇りに思うべきだ。

新幹線じゃない私を、誇りに思うべきだ。

積み上げてきた過去を、物語を、私自身を、誇りに思うべきだ。

その道のりを、歩み続けた自分を、誇るべきだ。


そうだ。

私は、すごい。

本当に、すごいんだ。




でもね。

きっとまた、悲しくなるときはやってくる。

どうせ自分なんて、と。あの人に比べたら、と。

おんなじことを、何回も、何万回も繰り返す。

だから、そのたびに思い出してあげないと。


あなたは、すごい

ってことを

自分に教えてあげなきゃいけない。

だから、残しておく。

ここに残しておく。

荒っぽいけど、残しておく。

また、自分の凡人さに絶望したら、この記事を読むんだ。

ぐちゃぐちゃで、どろどろの自分と向き合って

それでも頑張ろうとする、頑張りたいと思う自分のことを信じて 


また、前を向こう。 


転んだら、立ち上がればいい。

立ち上がれなくて、ぼうっと座っててもいい。

起き上がりたくなったら、起きればいい。


それで、いい。


前に進めるのなら、それでいい。

また物語を生み出せるのなら、それでいい。

自分の書いた作品に、涙を流せるならそれでいい。

何度でも言うよ。

あなたは、すごい。

すごかったし、すごいし、これからもすごい。

だから、大丈夫。

絶対、大丈夫。

今やっていることに、価値はある。 

結果が出なくても、価値はある。

価値があるから、大丈夫。

分からなくなったら、思い出そう。

読み返そう。過去の私が紡いだ物語たちを。

自分がどれだけすごかったのか

それをちゃんと思い出そう。

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