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『4分33秒』カフェ【1562文字】 #カフェ4分33秒 #毎週ショートショートnote

※暗い、暴力的な表現があります。
苦手な方はご注意下さい。

噂を頼りにこんな山奥へ来たが
どこにも店らしきものはなかった。

「死者に会える」カフェ
そんな噂を聞いたのは、
俺が刑務所に収監されている時だった。
服役中で、親父とお袋の葬儀に
出ることができなかった。
そして俺のせいで自ら命を断った弟の
葬儀さえも出ることができなかった。



あの日、俺は妻を自らの手で殺めた。
DVの延長だった。
ただその日は、妻が口答えしたのが
気に食わなかった。
逃げ出そうとする妻を玄関で捕まえると
押し倒し馬乗りになって、首に手をかけた。
抵抗された事で、脅しのつもりだったが
むきになってそのまま
体重をのせ更に圧力をかけていった。


学校から帰って来た小学生の娘が
玄関を開け、倒れる母親と
俺をみて悲鳴を上げた。
娘の悲鳴で俺は妻の首から手を離したが
すでに妻の身体は動かなくなっていた。

悲鳴を聞いたアパートの住人が
通報し、俺は放心状態のまま
警察官に捕まった。

取り調べ、精神鑑定、裁判。
有罪を求刑され
刑務所に収監された。


結局山奥で、夕暮れ近くまで探したが
目的の店は見つからなかった。
噂は噂だったのかと諦めて帰る事にした。

今更会って謝ったところでみんなが
許してくれるとは、思わないが、
自分の気持ちが少しでも
晴れるかもしれないと期待していた
部分もあり、がっかりと肩を落とした。




「カフェをご利用ですか?」
来た道を戻ろうとする俺の後ろから
女性が声をかけてきた。


振り返ると
『カフェ4分33秒』と書いた看板の
小さな店があった。


彼女は店員だったらしく、
出会った頃の妻のような
優しい笑顔で店の説明をしてくれた。
首からストップウォッチを下げた俺は
彼女に扉を開けて貰い店の中へと
入って行った。


カウンターで、ホットコーヒーを
受け取り指定された席に向かう。
席には、親父とお袋、弟が座っていた。


席につくなり、俺は彼らに謝った。
葬式に行けなかった事
俺のせいで辛い思いをさせた事
昔から悪さをしていた事
時間が来るまで俺は謝り続けた。
3人は黙って聞いていてくれた。


首から下げたストップウォッチが鳴り
見ると、残り33秒と表示されていた。

俺は親父達に軽く挨拶すると
コーヒーを持って出口に足を向けた。

そんな俺に、親父が
「今度は俺の話を聞いてくれないか?」
と今更言ってきた。お袋と弟も
「私も久しぶりに話たいわ」
「兄貴に言わなきゃ行けない事があるんだ」
と言ってきた。

残り時間は25秒を表していた。

「悪い。また来るからさ」
俺は苦笑いしながら3人に言って、
生ぬるいコーヒーを
右手で持つと出口へ向かう。

出口付近は人が多く、俺の右肩に
誰かが打つかった。
普段だったら、殴りたいところだか、
今回は、時間がないので振り返らず
大きな舌打ちしてから
コーヒーを左手に持ち替え、コーヒーの
ついた手のひらをズボンに擦り付けた。


出口の男性店員に首から外した
ストップウォッチを店員に渡そうとすると
「あちらの女性達とは、
話さなくてよろしいのですか?」
と俺にきいてきた。


振り返ると、首に俺の手形が残る
あの日の妻が立っていた。
その横に、店の前で会った女性店員もいた。


俺は急に体が重くなり立っているのが
辛くなった。足が動かない。
時間がない。焦って震えてくる。
なのに俺の足は動いてくれない。


妻はゆっくりと俺の目の前までくると
「あなたと話がしたいの」
と言いながら俺の右手首を握った。
俺は震えが止まらなくなった。

女性店員が、俺の左手首をつかむと
持っていたコーヒーが床に落ち
足元を濡らした。
「お父さんやっと会えたね」
女性店員が笑いながら俺に声をかけた。

俺は娘の笑顔を思い出した。







ここまで読んで頂いき
ありがとうございます&すいません。
前回と同じカフェの話ですが、
いつもの様に書くと、こんな感じに
なってしまいました(笑)




#毎週ショートショートnote
#カフェ4分33秒


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