毎日桜回線【871文字】 #桜回線 #魅力的な台詞ではじまるお話 #毎週ショートショートnote #ショートショート
「松竹梅回線の他に期間限定で
桜回線も選べます。」
散歩癖がある俺に
心配した女房は
耳が落ちそうになるくらい
「携帯電話を持ってたら安心するのに」
と言い続けていた。
あまりに言われるので
初めてスマホなんてモノを
契約しに来た。
「桜回線ってのは何か違うのかい?」
「恋人、夫婦、家族、
1名様に限り無料で通話可能なプランです」
「女房にしか、かけないからソレで」
と桜回線に決めて
登録やら使い方を教えてもらい
スマホデビューした。
早速真新しいスマホを
タップする。
【1】に女房の番号を
登録してもらったので
このボタンを押せばいい。
「もしもし?」
「俺だ。」
「オレ?」
「俺だよ。俺だ!」
「オレオレ詐欺ですか?」
「亭主の声もわかんねえのか?」
「あら!貴方なの!」
「今日は上野公園に来たが
まだ蕾ばかりで枝見てるようだ」
「あらあら、花見じゃなくて枝見ですね」
「今日は目黒川にきたが、
気の早いヤツが少し咲いてるだけだな」
「今日は川見になっちゃったわね」
「今日は蕾が膨らんできたぞ!」
「あら素敵。今日はどこへ?」
毎日妻が飽きるほど
電話をかけた。
面会できない病室にいる妻。
桜回線がパンクするくらい
ずっとかけ続けた。
桜が満開になり、夜桜や宴会。
日差しが強い夏も毎日出かけては
海の音やセミの音を聞かせた。
すぐに日が落ち始め
コオロギが歌う様になった。
肌寒くなると、どこに行っても
クリスマスソングばかりだと
文句を言う俺に、笑う妻の声が
スマホから流れた。
ひとりで餅を焼き、
雑煮を作った写真を送りつけてやった。
公民館の豆まきに、はしゃぐ子供達や
大きなひな壇も写真に撮って送った。
【1】の部分だけが
すり減るくらい桜回線で妻と話した。
また枝見の季節になった。
だが、まだ桜は咲かない。
ようやく桜が満開になった。
両脇の桜が風で揺れるたび
桜の花びらが目の前を通り過ぎる。
【1】は押さなくなった。
その代わり、隣にいる妻の手を握って
2人で桜を見上げる。
※
410文字と違うオチに
なっているのですわ( 。˃▿˂ )੭ꠥ⁾⁾ww