桜の薫り #深煎り入学式 #毎週ショートショートnote #ショートショート
深煎り入学式の薫りが、制服に残っている。開花の遅れた桜の下に立つと桜餅を食べる祖母の姿を思い出した。
スマホを向ける両親。必死にシャッターを押す姿に自然と笑みが溢れる。春風に煽られ舞いちる薄桃色の花びら。
祖母の庭にも美しい桜の木があった。毎年、縁側で桜餅とお茶を楽しんだ。
「綺麗だね」
と言うと
「おじいちゃんが守ってくれてるからね」
と嬉しそうに話をするのが毎年の恒例だった。
庭仕事が趣味で、遊びに行くといつも木々の世話をしていた祖父。季節によって変わる庭の花々も美しかった。
無口な祖父だったが草木には声をかけているのが印象深かった。しかし祖父が段々と体調を崩し庭の手入れが難しくなった。
手入れのできなくなった庭にあった盆栽などは、園芸店に引き取ってもらったが、桜の木だけは残してほしいと言葉を残して祖父は亡くなった。
今年、祖母がなくなり家の取り壊しが始まる。
桜の木の下、祖父母の秘密が発見される前に今夜掘り起こし行く予定だ。
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