俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。
一番辛いのは夏だった。聖火の燃料費は出させるが、室内の温度は延々と上がり続け、対するエアコンの電気代は例年の3倍となった。部屋を温めながら冷やす。むちゃくちゃだ。
とはいえ、全く悪いことばかりじゃなかった。春先の頃、冬がぶり返したような寒い夜は、聖火鍋や聖火ケバブなどを楽しむことができた。聖火で焼いただけで聖なるパワーがエンチャントされて料理が美味くなった気がした。聖火鍋が吹きこぼれて火が消えたこともあったが、バックアップ聖火を取っておいたので事なきを得たのも、今となっては良い思い出だ。
バックアップ聖火といえば、我が家に聖火が安置されたと聞いて、何人かが聖火を分けてほしいと家にやってきた。当然話題になって即座に厳重注意の上禁止事項となったが、今でもこっそり火を分けてもらおうという人が来る。
分けたところで減るものじゃなし、どんどん分けてやっているから、分けた聖火から更に聖火が分けられ続けていることだろう。まるでゴールの無い聖火リレーだ。オリンピックは延期になっても地下聖火リレーは勝手に無許可開催されているのだ。
この様子なら、もし俺の聖火が消えたとしても、分譲聖火を持っていると宣言する者が出てくるだろう。そうなればそいつは英雄だ。消えたはずの聖火が消えていなかったとなれば、不正聖火株分け者から火を守り抜いた英雄へとクラスチェンジというわけだ。
しかし、そんな心配をよそに、今日も聖火は部屋の真ん中で燃え続けている。季節はもうすぐ秋だ。聖火で焼いたサンマも、エンチャントされて美味いに違いない。
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