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skeb依頼とくべつ読み切り痛快SF時代劇【発狂頭巾アトミック~七夕スペシャル:核の川に掛かる橋~】

※これはSkebの依頼で書いた短編です。

(これまでのあらすじ:原子力江戸歴XXXX年。先の原子力奉行、吉貝狂四郎は不慮の事故によって命を落とす。だが、時の平賀アトミック源内と杉田バイオ玄白の手によって体内に小型原子炉を埋め込まれて息を吹き返す。かくして、夜な夜な世が裁けぬ悪を裁く発狂頭巾アトミックとなったのだ。)

今日も今日とて平和な原子力江戸の町を歩く岡っ引のハチが、巨大な竹を背負って歩く吉貝を見つける。
「あ!吉貝の旦那!どうでしたか?青竹の様子は?」
「おお、見ての通り、これよ」
吉貝が背負う竹は光り輝く青竹とは程遠い、漆黒の竹であった。

「こいつはいったい……」
「詳しいことは杉田バイオ玄白先生に聞かねばならん。丁度いい。今から行く故、ついてこい」
「へい!」
吉貝とハチは重い竹を背負って江戸城へと向かう。

……場所は変わって江戸城地下奥深くの研究室。青いの核御紋が淡く光るフスマを開けて吉貝とハチが入室する。
「ヒヒッ、待ってたよ……」
陰険な笑いで二人を出迎えるのは、バイオ奉行の杉田バイオ玄白だ。彼女は4本の腕で様々な実験道具を持ち出している最中だった。

「それでェ……?こいつが核の川上流の竹かいな……」
杉田バイオ玄白は吉貝の背負ってきた黒い竹をまじまじと見つめ、何やら叩いたり触ったり舐めたりして状態を確かめる。
「フーム……アトミックの味が全然しないねェ……」

杉田バイオ玄白は奥のフスマの方を振り返り、大声で平賀アトミック源内を呼ぶ。
「おい!平賀のじいさん!出番だよォ!」
少しするとフスマが開き、白髪メガネのジジイが現れた。平賀アトミック源内だ。
「まったく、そんな大声出さんでも出てくるわい……」

「じいさん、アトミックならあんたの領分だ。こいつをちょいと見てみてくれねェかい?」
「ほう、青竹にしては随分と黒いな」
アトミック奉行の平賀アトミック源内は何やら機器を取り出し、竹に近づける。
「うーむ、全く反応せんな」
平賀アトミック源内の機器はアトミック含有量ゼロを示している。

「だよねェ……」
「やはりか……」
杉田バイオ玄白と吉貝は深刻そうに頷く。
「え?どういうことですかい?」
一人取り残されたハチが問う。
「このままじゃ、今年の核七夕は中止ということじゃ」
平賀アトミック源内が淡々と答える。
「ええ~!?一大事じゃないですか!?」

原子力江戸に伝わる歴史上の出来事として重要なものの一つに、『核の川汚染事件』がある。数百年前、とある原子力採掘場で事故が発生し、大量のアトミック成分が川に漏れ出した。川は昼夜問わずぼんやりと青く輝き、その様子から”天の川”をもじって"核の川"と呼ばれるようになった。

原子力江戸っ子となった人類は川が汚染されようが問題なく生存できるが、野生動物は別だ。生態系が破壊され、そのまま放っておけば凶暴なバイオ生物が自然発生する恐れもあった。そこで、時のバイオ奉行とアトミック奉行が協力し、アトミック成分を吸い取って青く光る青竹を生み出したのだ。

青竹は汚染された土壌のアトミック成分を吸い取り、核の川は元の清き川となった。それがちょうど7月7日のことだった。七夕の日と重なったこともあり、以降アトミック江戸では7月7日に青竹を切り出し、核の川べりで夕涼みに興じるという祭りとなった。

ところが、今年は青竹が一切光らず、漆黒の竹となってしまっていたのだ。
「じゃがのう、核の川上流にはまだまだアトミック成分がふんだんに含まれておるはずじゃ」
平賀アトミック源内が核演算器をハジいて計算する。向こう数百年は余裕があるという結果であった。

「となると、野生のバイオ生物がアトミックを食い尽くしたか、だねェ……」
杉田バイオ玄白が不安げに、同時にどこか好奇心に満ちた顔で呟く。
「お、おっかねえこと言わないでくださいよ!」
ハチはビビるが、横で話を聞いていた吉貝は目の焦点が合わず、上の空だった。

「おい、吉貝……吉貝や!」
「ん?おお、どうかしたか」
平賀アトミック源内の声に、吉貝の意識が戻ってきた。
「しばらくはワシらで調べる。お主はもしもの時に備えて稽古でもしとれ」
「うむ。そうさせてもらおう。ゆくぞ、ハチ」
「ヘイ!」
吉貝は一礼すると、黒竹と共に江戸城地下を去った。

……場所は変わって江戸城外れの広場。
「キエエエエエエエエエエ!!」
吉貝の叫声一閃!地面に立てた黒竹に向かって袈裟懸けの切り下ろしを叩き込む。だが、
「ぬう……やはり斬れぬか……」
黒竹は傷一つ付いていない。それどころか、吉貝の持つ刀の方が折れそうになっていた。

「旦那ァ、こいつぁもう斬れませんよ。刀が何本あったって足りはしやせんぜ」
黒竹は恐るべき硬度を誇った。アトミック成分が抜けたことにより身が絞まったのか、青竹数本をまとめてたたっ斬る吉貝の剛力を持ってしても斬れなかったのだ。

「ええい、次だ。次の刀をよこせ」
「そんなこと言っても旦那、もう次が最後の一振りですぜ」
ハチの後ろには大八車があり、その周囲には黒竹に負けて駄目になった刀が無数に転がっていた。空はすでに日が傾き、時間も目一杯というところだ。
「仕方あるまい。これが最後だ」

吉貝は刀を真横に構える。
「キエエエエエエエエエエ!!」
吉貝の叫声一閃!地面に立てた黒竹に向かって真横から伐採斧のように刀を叩きつける。だが、
「ぬう……やはり斬れぬか……」
黒竹は傷一つ付いていない。それどころか、吉貝の持つ刀が完全に折れてしまった。

「旦那……」
いつもは陽気なハチも、さすがに少々気まずい。
「ハッハッハッ!なあに、気に病むなハチ。どうあがいても斬れぬとわかっただけでも十分よ。それに、相手は黒竹ではなくバイオ生物。そいつを斬れれば何も問題はない」
吉貝は予想外に明るく言うと、黒竹を引っこ抜いて担ぐ。

「用事がある故、先に帰らせてもらう。ハチは杉田先生たちに報告を頼む」
そう言う吉貝の瞳はぼんやりと青く光っているようにも見えた。
「ヘイ!」
こういうときの吉貝は、良くも悪くも何かやらかす。それを分かっているハチはむやみに止めようとせず、優しく吉貝を見送った。

……翌日の昼頃。
「旦那!大変だあ!」
吉貝の住む発狂長屋にハチの声が木霊する。
「どうしたハチ、そんなに慌てて」
寝起きと思しき吉貝がぬるりと姿を現す。
「核の川の竹林で人斬りでさあ!」
「なんだと!」
吉貝の目が見開かれる。ハチの一報で完全に目が覚めたのだ。

……吉貝とハチは急ぎ現場に向かった。
「ホトケはどうだ?」
すでに先に駆けつけていた同心が現場検証を行っており、吉貝に報告する。
「おう、吉貝の旦那。ご覧のとおりでさあ」
同心が筵を捲ると、見事に一撃で斬り殺された町人の死体が姿を現した。

「うひゃあ!こりゃあひでえ!バッサリだ!」
ハチは驚くが、吉貝は冷静に分析する。
「真正面から一撃、背を向けて逃げる前に斬られたってことだ。相当な早斬りの技の持ち主か、あるいは……」
「あるいは、なんなんです?」
「あるいは、完全な不意打ちか、だ」

「不意打ち?こりゃどう見ても顔見知りの犯行だとは思うがなあ」
先に調査していた同心が意見する。確かに、顔見知りであれば怪しまれること無く刀の間合いに入り、殺すことができる。同心の意見は間違ってはいない。だが、吉貝は何か別のモノを"視"ていた。

体内に小型原子炉を埋め込まれた吉貝は、時折常人には見えないものが"視"えることがある。電子の揺らぎを感じてか、あるいは原子炉の極度演算が見せるのか。過去視、未来視、あるいは遠見や透視とも言えるものが、吉貝には視えるのだ。もっとも、狙ったタイミングで視えるわけではないので、頼ることは難しいのだが。

「ハチ、今夜はここで寝る。支度を頼む」
現実に帰ってきた吉貝がしっかりとした言葉で言う。
「わかりやした!」
当然、ハチは吉貝が何を視たのか全くわからない。だが、やると言った以上、吉貝は間違いなくやる。吉貝が原子力同心として蘇る前からの付き合いであるハチには、阿吽の呼吸であった。

吉貝とハチのやり取りを見た他の同心たちも、ここは二人に任せようという空気になる。彼らもまた、昔からの吉貝とハチの名コンビっぷりを信頼しているのだ(同時に吉貝の暴走に巻き込まれないように逃げているのだが)。

……そして時刻は経過し、夜。
「ンゴゴゴゴ……」
吉貝は盛大ないびきを響かせて寝ていた。
「まったく旦那はよく眠れますよ……」
吉貝とハチは一刻おきに寝ては起きての半寝ずの番を取っていた。空には満月が上り、竹林を薄っすらと照らしていた。

体内小型原子炉の稼働状況で強制的にスリープモードに入れる吉貝とは異なり、ハチはほとんど眠れていなかった。
「はぁーあ、それにしてもきれいな月だ。一つ詩でも詩いたくなっちまう。……”満月の”……いや、ありきたりだなあ」
ハチが俳句の一つでも詠もうとした、その時だ。

ガサッ。
「……!?」
奇妙な草の音にハチも声を潜める。そのまま小声で吉貝を起こす。
「だ、旦那!起きてくだせえ!」
吉貝はカッと目を開き、目覚める。まるで狸寝入りをしていたかのような素早い目覚めだ(本人にはその自覚が無いくらいぐっすり眠っていたのだが)。

「来たか」
吉貝はムクリと起き上がると抜刀の構えを取り、音のする方を警戒する。
「だ、旦那ぁ……」
吉貝の後ろに隠れてビビるハチ。ガサッ、ガサッ、ガサッ……。足音は確実に近づいてくる。しかも、歩行のリズムから察するに、完全に殺意を持っていることが吉貝には理解できた。

ガサッ、ガサッ……。
「……キエエエエエエエエエエ!!」
吉貝の叫声一閃!足音の正体が間合いに入ったと同時に、渾身の抜刀術で斬りかかる。だが、
「ぬう……やはり斬れぬか……」
吉貝の持つ刀が完全に折れてしまった。
「あ、ああああ!」
相手の姿を見たハチは驚愕した。
「た!竹の化け物!」

然り。吉貝の刀を折ったのは、人の姿をした黒竹の人形のようなバイオ生物。その姿は全身が竹ながらも、歴戦の武士のような佇まいで竹光を握っていた。
「なるほど、その姿では不意打ちなど容易なものよ」
吉貝は竹バイオ生物の姿を見据える。

「旦那!どうするんですか!?黒竹は刀じゃ斬れねえんでしょ!?」
「案ずるなハチ」
吉貝は腰の鞘から第二の刀を抜く。
「え、いや、旦那、それは……」
ハチがうろたえるのも無理はない。
「それは……竹光じゃあないですか!」

「おうよ、だが、ただの竹光ではない」
吉貝は竹光を正眼に構える。いつの間にか、吉貝の頭部は頭巾で覆われていた。
「真剣で斬れない相手に竹光って、狂ってますぜ旦那」
「狂ってる……だと……?」
ハチの”狂っている”という言葉に激しく反応する吉貝。

世に巣食う悪党たちに江戸伝説めいた噂があった。どんな悪事も見逃さない”青い目の侍”がいるという噂。狂人じみた剣術で死体の山を築く、恐るべき始末人がいるという噂。そして、青く光るウラン刀を振るう剣士がいるという噂。……その全てが、現実となって竹バイオ生物の前に立ちふさがった。

「埋蔵ウランを吸い尽くしたバイオ竹か、はたまた採掘場の亡霊か……どうあれ人斬りをやっちまったってんなら……」
吉貝が、否、発狂頭巾が、手ずから削り出した黒竹の竹光を握りしめ、声高々に吠える!

「狂っているのは、お前の方だ!!」

カァーッ(例の音↓)!!

発狂頭巾の瞳が青く輝き、渾身の力で黒竹光を握りしめる。みしり。体内原子炉の高出力による柄を握り潰しそうなほどの握力が、黒竹光と化学反応を起こす。アトミック成分が枯渇した黒竹に、発狂頭巾の核エネルギーが補給され、おお、なんということか。今や竹光はただの竹光に非ず。

青く輝く竹光はもはや、チェレンコフ光を纏った魔剣となったのだ!
「ギョワーッ!!」
発狂頭巾がアトミック竹光で黒竹侍に斬りかかる!
「ギギッ」
黒竹侍は奇妙なうめき声を発しながら、チェレンコフ光ブーストで後方に跳躍回避!

「ギョワーッ!!」
発狂頭巾の竹光が青い軌跡を描きながら黒竹侍に追撃。黒竹侍は発狂頭巾の太刀筋を察し、同じくチェレンコフ光竹光で防ぐ。
「ギョワーッ!!」
「ギギッ」
「ギョワーッ!!」
「ギギッ」
「ギョワーッ!!」
「ギギッ」
月に照らされた薄暗い竹林に、二閃のチェレンコフ光が交錯する。

「ギョワーッ!!」「ギギッ」
「ギョワーッ!!」「ギギッ」
「ギョワーッ!!」「ギギッ」
二人の剣戟は恐るべき速度で加速する。その動きはあまりにも早く、もはや青い光は残光の球体となり、二人の侍を包みこんでいた!
「ギョワーッ!!」「ギギッ」「ギョワーッ!!」「ギギッ」「ギョワーッ!!」「ギギッ」

延々と続くかに思われた剣戟の応酬は、突然終わりを告げた。
「ギョワッ……」
吉貝の右肩に黒竹侍の竹光が深々と刺さる。ああ、もはやこれまでか!

そんなわけがない!
「ギョワーッ!!」
叫声一閃! 発狂頭巾は体内原子炉を急速稼働!劇的な核分裂で細胞分裂を活性化して右肩の傷を高速修復!そのまま油断した黒竹侍に全力の袈裟斬りをぶちかます!
「ギョワーッ!!」

発狂頭巾の一撃が、黒竹侍を真っ二つにした。本数にして十数本の黒竹を一撃。鋼の刀では到底なし得ない偉業であった。
「ギギ……無念……」
最後に意味のある言葉を残し、黒竹侍は倒れた。

決着はついた。
「ギョワーッ!!」
だが、発狂頭巾は竹光を納めない。否、納められないのだ。
「ギョワーッ!!」
急速新陳代謝によって、体内原子炉は限界まで稼働していた。このままでは暴走してメルトダウンだ。その時!

「旦那ァ!!」
発狂頭巾の背後に突進する男が一人。ハチだ!その手には制御棒短刀が握られている。
「臨界御免!!」
ハチが制御棒短刀を発狂頭巾の背中から腹に貫通するように突き刺す!
「ギョワーッ!!」

発狂頭巾に突き刺さった制御棒短刀が、いい感じに体内原子炉の核反応を中和する。
「ギョワー……」
発狂頭巾の狂度が低くなったところで、ハチは制御棒短刀を引き抜く。傷口は細胞分裂によってすぐに塞がった。
「旦那、しっかりしてくだせえ!」

「お、おお、ハチか……」
発狂頭巾は……吉貝は、安定した稼働状況で竹光を納刀した。
「いつもすまねえな」
「へへ、ソレは言わねえお約束ってもんですよ!」
吉貝とハチはにこやかに笑い合った。

……数日後、原子力江戸歴XXXX年7月7日。核の川べり。
「いやあ、今年も無事に核七夕が開催できてよかったですねぇ!」
ハチは夜店で買ってきたウランギの蒲焼きを食べながらのんきに笑う。
「まったく、一時はどうなることかと思ったけどねェ」
杉田バイオ玄白は二本の腕で酒を飲みながら、もう二本の腕で望遠鏡を持ち、星を眺める。

「ガハハッ!しかし、不思議なこともあるもんじゃ!ワシもまだまだ未熟じゃのう!」
平賀アトミック源内も酒を飲み、笑う。今回の黒竹侍は突然変異のイレギュラーだった。竹林の様子を見に行って斬られた町人はバイオ事故扱いで保険が適用され、バイオ手術で生き返った。

「ヘェ?老い先短いじいさんでも、まだまだ勉強不足でございますかァ?」
杉田バイオ玄白が意地悪そうに笑う。
「ガハハッ!人間、生きてる限り生涯これ勉強よ!ガハハハハッ!」
平賀アトミック源内は嫌味などどこ吹く風で豪快に笑う。

「ハハハ!ま、旦那も今日はゆっくり飲んでくだせえや」
ハチが吉貝に酌をする。
「うむ。こうして皆で祭を楽しめる姿こそ、平和な江戸の姿よ」
吉貝は盃に注がれた酒を一気に煽ると、核の川を見る。川では渡し船が対岸まで繋がり、小さな浮橋となっていた。

「こちらとあちらを繋ぐものとは……実に美しいものよ……」
吉貝は空を見る。満月が過ぎてもなお輝く月光が、夜空を明るく照らしていた。

原子力江戸の町が闇に染まる時、闇を晴らす青き危険な光あり。誰が呼んだか発狂頭巾アトミック。ああ、チェレンコフ光が、今日も平和な町を照らす。

skeb依頼とくべつ読み切り痛快SF時代劇【発狂頭巾アトミック~七夕スペシャル:核の川に掛かる橋~】

おわり

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