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ハロウィン記念とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~ハカセはカボチャのお姫様?~】

「ようやく着いたな!」
胸にサラシを巻き、竹の軽鎧に身を包む長身の女エルフは、ギザギザの歯をむき出しにして町の入口に掲げられた祭りの看板を見上げる。彼女はバンブーエルフのメンマ。竹林に住み、竹とともに生きるエルフだ。
「お祭り!お祭り!」
横ではしゃぐのはクソバカエルフのハカセだ。

ボサボサの金髪に簡素な貫頭衣でニコニコ笑うハカセは、クソバカエルフなんて名前の種族だが、実際はかなり賢い。ただ、陽気で無邪気で何段かカッ飛んだ思考ゆえ、その叡智を理解することは少々難しい。今日も何か考えていそうだが、笑顔の奥の深淵は謎に包まれている。

「カボチャ祭り……」
ミスリル銀の保管箱を背負うズングリとしたエルフが看板を見上げてつぶやく。
「ポテトもあゆといいんだけゆ……」
この舌っ足らずなエルフはポテサラエルフのポテチ。顎の力が弱く、ポテトサラダを主食とするエルフだ。

彼女たち3人は、細かい種族は違えど、ヒューマンならざる旅エルフである。引きこもりがちなエルフは時おり旅に出て、他のエルフとパーティを組み、外の世界の知識や文化に触れ、同時に自分たちが無害な隣人であるということを伝えているのだ。

「そんじゃ、しばらく自由行動だ。日が暮れる前にエルフの酒場に集合な」
「ほいほーい」
「んゆ」
バンブーエルフのメンマの声に、クソバカエルフのハカセとポテサラエルフのポテチが答える。ここは大きな街だ。それぞれに見たいものや買いたいものがあるが、一緒に回っては流石に時間がかかりすぎるのだ。

そして、このような大きな街には、旅エルフが多く訪れる。あるエルフはメンマたちのように旅の経由地点として、またあるエルフはパーティを求めて。そうした様々なエルフが多く集まる街には、エルフたちが集まる宿屋、通称”エルフの酒場”が自然とできあがる。

そんなわけで、今日一日は3人が自由に街を見て回ることになったのだ。
「さあて、まずはなんといっても名物のカボチャだな」
メンマが町の中央に向かって進んでいくと、いくつものカボチャの屋台が並んでいる。
「おっちゃん、このカボチャ、硬いか?」

メンマは1軒の屋台に目をつけ、店主に声をかける。
「ハハ、うちのカボチャは硬さが自慢でね。1年経っても腐らないよ!旅のお供に買っていくかい?」
店主は陽気に答えると、カボチャを手に取り、木の棒でコンコンと叩く。身が締まったガチガチの音だ。
「……そいつはいいや。とりあえず1つくれないか?」

「まいどあり!」
店主がりんごくらいの大きさのカボチャを手渡すと、メンマはそれを受け取り、いきなり齧りついた。
「はんっ!」
「お、お客さん!歯が折れちまうよ!」
店主は慌てて止めようとするが、メンマは口に力を込め続ける。
「んんぬぅっ!」
バコォッ!

メンマが硬質カボチャを噛み砕いた!
「ひ、ひええ!」
そのままボリボリとカボチャを噛み砕くメンマ。
「うん、なかなかいい歯ごたえじゃねえか。おっちゃん、これカゴにいっぱい買うよ」
メンマは食感に満足して笑う。バンブーエルフはバンブーを食べるが、旅の中ではなかなか硬い食べ物にありつけない。

「ま、まいどあり!」
店主はカボチャをゴロゴロとカゴに詰めてメンマに渡す。
「いやあ、久しぶりに歯ごたえのあるもんにありつけたぜ。ありがとな!」
メンマは代金を支払うと、次のカボチャ屋台を物色しはじめた。
「さあて、他にめぼしいものは……」

……一方その頃ポテチはというと、道具屋台を物色していた。
「さあさ!鉱山エルフのミスリルナイフだよ!これで切れないカボチャはないよ!」
「ウルシエルフのお椀はいかが?何年使ってもカビ一つ生えない木のお椀だよ!」
「パームエルフのパーム布!とにかく頑丈!」

様々なエルフと取引してきたであろう商人たちが様々な店を開いている。彼らは自らエルフの里に赴き、商いを行う。このようなヒューマンとエルフの友好関係があるのも、数百年に渡って旅エルフがヒューマンと交流を重ねてきた歴史の成果なのだ。

しかし、ポテチはそれらの道具には目もくれず、ずんずんと先に進む。そして1件の店にたどり着く。
「見つけたゆ」
ポテチがたどり着いたのはポテサラエルフの道具を扱う店だ。
「ポテサラエルフのポテサラ道具だよー」
店主はあまり活気がない。

それもそのはず。専門的すぎる道具というのは、あまり需要がない。同時に、必要とする者は必死に呼び込みをしなくても相手の方からやってくるのだ。
「よいしょ……」
ポテチはミスリル銀の背負い保管箱を足場にして棚を覗き込む。
「ポテト潰しはあゆ?」
「はいはい。もちろんありますよ」

店主は大小様々なポテト潰しを並べる。
「んゆ……」
ポテチはそれらをじっくり眺め、いくつかを手に取り、素振りをして感触を確かめる。
「んー、これ。……と、あとこれも貰ゆ」
「ありがとうございます」
ポテチは悩んだ末、2つのポテト潰しを買った。

ヒューマンの目にはどれも同じポテト潰しに見えるが、ポテサラエルフにとっては1つ1つに癖があり、自分にあったポテト潰しを選ぶことは重要なのだ。……実は、ポテチはここに来る前にカボチャでポテサラを作ろうとして、あまりの硬さにポテト潰しを破損してしまったのだ。

ポテサラエルフはポテサラを作る際、食べやすくグズグズにするための魔法を使う。しかし、その魔法を持ってしても、カボチャは強敵だった。まさか、ポテト潰しが負けるとは思わなかったのだ。2つ買ったのは、そんな”まさか”が次にあったときのために備えてだ。

とはいえ、ポテサラ料理に対する好奇心はポテサラエルフの本能のようなものであり、止めることはできない。むしろ、外の世界の料理に触れて経験を積むことこそ、ポテサラエルフが旅に出る大きな目的の一つといっても過言ではないのだ。たとえそれが失敗の経験だったとしても、次に生かせる。

「あとはポテトがあえば良いんだけゆ……」
ポテト潰しを手に入れたポテチは食料品屋台の方に移動する。しかし……。
「ゆゆゆ……」
右を見ても左を見ても、売っているのはカボチャばかりだ。
「料理屋の仕入れに期待すゆしかないゆね……」
困り果てたポテチは飲食店街の方に向かっていった。

……一方その頃ハカセはというと。
「わはははー。カボチャおばけだぞー」
カボチャをくり抜いたお面をかぶって子どもたちを追いかけ回していた。
「きゃははー!カボチャおばけだー!」
「うわはは!逃げろー!」
子どもたちは笑いながらハカセから逃げ回る。これはカボチャ祭りの文化の一つだ。

流浪のエルフであるクソバカエルフは、各地を旅して知識を得ることを大きな目的とする。それは使命感などではなく、森の賢者たるクソバカエルフの知識欲とも言える本能なのだ。
「カボカボカボー!」
「きゃははー!」
一見すると遊んでいるように見えるが、身を持って経験することで文化を学んでいるのだ。

「うわはははー……あれぇ?」
いつの間にかハカセは狭い路地に迷い込んでいた。不慣れな街で走り回れば迷う。当然の結果ではあるが、クソバカエルフはそんなときでも動じない。
「うーん……」
どうしようかと考えているその時だった。
「どいてどいて!」
「んえ?」

ハカセの来た方角とは逆の方から1人のカボチャおばけが突っ込んできた!
「うわああ……っと!」
ハカセは思いっきり地面を踏み抜き跳躍!狭い路地では左右に避けられないと判断して飛び上がったのだ。
「え、ええ?」
逆に突っ込んできたほうのカボチャおばけがびっくりする。その声からして女性のようだ。

「ほむほむ……」
地面に着地したハカセは、逃げてきたであろう女性のカボチャおばけの様子を見る。
「……わかった!ここは任せて、逃げちゃって!」
女性の様子からクソバカエルフの叡智が高速演算を開始し、だいたいのことを理解したのだ。
「え?」
「いいから早く!捕まっちゃうよ?」

「あ、ありがとうございます!」
女性のカボチャおばけは丁寧なお辞儀をすると、そのまま路地を駆け抜けていった。それを見届けたハカセがしばらくそこでボーッとしていると、お迎えがやってきた。
「こんなところにいらっしゃいましたか!さあ、明日の準備がありますゆえ、宿に戻りますぞ!」
「ほーい」

ハカセはカボチャをかぶったまま元気に返事をすると、身なりの良い迎えの者達と一緒に大きな屋敷へと向かっていった。

……それからだいぶ時間が立って夕暮れ時。
「ハカセのやつ遅いな……」
「あいつの事なら心配ないゆ。何があってもそう簡単にやられはしないゆ」
「まあ、そりゃそうだけどな」
メンマとポテチはエルフの酒場で食事をとっていた。
「それにしてもポテサラがあって助かったゆ」

「カボチャ祭りとは聞いていたが、まさかポテトが売ってないとはな」
「あやうくポテサラ不足でヘロヘロになるところだったゆ」
カボチャ祭り中はとにかくカボチャが売れるので、商人たちはここぞとばかりにカボチャを持ってくる。ゆえに、カボチャ以外の食材、特にイモ類などは店に並ばないのだ。

しかし、エルフの酒場には多くのエルフがやってくるので、それに備えて様々なエルフの食材が常に備蓄されている。もちろんポテトやバンブーもだ。
「ま、ハカセのことはアタイにまかせてくれ。もう少し起きて待ってるよ」
メンマはバンブーをバリバリ食べる。
「んゆ。ポテチはポテト作りがあゆから今日は先に寝ゆ」

「おう、おやすみ」
メンマに見送られたポテチは酒場の外に出ると、郊外の畑に移動した。エルフの酒場にポテトが備蓄されているとはいえ、その量は少数だ。ゆえに、これからひと晩かけてポテサラ魔法でポテトを増やす必要がある。
「それじゃ始めゆ」

ポテチは酒場から預かってきたいくつかのポテトを畑にポイポイと投げると、ミスリル銀の背負い保管箱を地面に下ろし、中からいろいろな食材の”食べられなかった部分”を畑にまいていく。そして、ポテチは不思議な形の杖を構える。それはポテトを潰す調理器具の形に似ていた。

「ムニャムニャ……ムニャムニャ……」
ポテチはヒューマンには聞き取れないムニャムニャ声を出しながら杖を振り、畑の周りを歩き始める。ポテサラ魔法の呪文によって畑はグズグズに耕され、投げ入れた生ゴミは高速腐敗して、肥料となり畑に染み込む。

「ムニャムニャ……ムニャムニャ……」
ひとしきり呪文を唱え終わると、ポテチは畑の中心に立ち、ズブズブと畑に埋まっていった。ポテサラ魔法の一つ、急速ポテト成長畑魔法だ。大地と肥料と自らの魔力を栄養に、急速にポテトを育てるのだ。

こうして収穫したポテトの一部は、次のポテサラエルフのためにエルフの酒場に備蓄される。残りはこれから旅するポテチの食料だ。
「スヤスヤ……」
一仕事終えたポテチは柔らかい土の布団に包まれてぐっすりと眠った。

……場面はエルフの酒場に戻る。すっかり夜もふけたが、酒場の外はカボチャ祭りの前夜祭で賑わっている。どうやら、メンマが聞いて回った話によると、明日の昼がカボチャ祭りのメインイベントだということだ。
「にしてもハカセ遅いな……」
メンマは笹をツマミに竹酒を飲みながらぼんやりと待つ。

メンマもそろそろ寝てしまおうかと思ったその時だ。エルフの酒場の扉が開き、1人のカボチャおばけが姿を現した。
「あ、あの、メンマさんって、いらっしゃいますか?」
「ん?アタイがメンマだけど、アンタはいったい……」
「えっと、その、ハカセさんという方のことでお話が」
「なんだって?」

……メンマはカボチャおばけを部屋に招きいれた。ただならぬ雰囲気であったが、ただの怪しいやつというわけではないのは、狩猟者のカンで分かった。
「あー、何から聞いたもんかな?とりあえず、ハカセは今どうなってんだ?」
メンマはどこから状況をつかもうか困惑していた。

「ハカセさんは、その、私の身代わりに……」
「身代わり!?ってことはヤバいのか?」
「い、いえ!少なくとも明日のイベントまでは無事なはずです!」
「どういうことだ?」
メンマはますます混乱した。もともと複雑な話は苦手なのだ。いつもはハカセとポテチが話を噛み砕いてくれるが、今はいない。

「えっと、実は私、南の領主の娘でして、明日のイベントで挨拶をすることになっているのです」
「領主の娘ぇ!?」
あまりの発言に驚くメンマ。
「しっ!こ、声が大きいです!」
「あ、ああ。すまねえ……」
メンマは冷静になるように深呼吸し、カボチャおばけをよく見る。

領主の娘となれば、つまるところ貴族だ。今の身なりはハカセと同じようなボロボロの貫頭衣だが、これはあくまでカボチャおばけの衣装なのであろう。カボチャマスクから流れる金髪はよく手入れされていて輝き、腕や足には傷一つない。
「言われてみれば……」
同じ衣装でもここまで違うものかと唸る。

「それで、ハカセと入れ替わったってのは、どうして?」
「はい。実は私、明日のイベントで暗殺されてしまうようでして……」
「暗殺ぅ!?」
あまりの発言に驚くメンマ。
「しっ!こ、声が大きいです!」
「あ、ああ。すまねえ……」
メンマは冷静になるように深呼吸し、椅子に腰掛け直す。

「私、聞いてしまったのです。私は一人娘ですから、私が死ねば、領地を受け継ぐ権利は他の者に渡ります。カボチャ祭りの挨拶ではどうしても開けた舞台に立ちますから、そこを狙うのだと」
「なるほど、それで逃げてきたわけだ」
「はい。ハカセさんは私と入れ替わるときにこれを」

カボチャおばけは1枚の紙切れを見せる。それには『エルフのメンマ』とだけ書かれていた。
「なるほどな。それでアタイのところに来たってわけか」
「はい。夜もふけてくれば、エルフの皆様はこの酒場に集まるはずですから、ここに来ればメンマさんに出会えると思いまして」

「なるほど。流石はハカセだぜ」
メンマはニヤリと笑う。
「え、なにかおかしなことでもありましたか?」
「いや、なあに、ハカセは安心ってことが分かったら、今頃どうしてるか考えちまってな、ククク……」
「は、はあ……」

「ま、とにかく、ハカセがアンタの身代わりになったってことなら、アンタはハカセの代わりにこっちにいてもらわないと色々まずい。今日はここに泊まっていってくれるな?」
「は、はい。それはもちろんです。ですが、その、ハカセさんは……」
「なあに、大丈夫だよ。今頃うまくやってるさ」

……一方その頃、ハカセが連れてこられた豪華な部屋では。
「うわはーい!ベッドふかふかだぁ!」
ひとしきり豪華な食事を食べたハカセが無邪気にベッドで跳ねていた。
「そ、それではごゆっくり……」
「ほいほーい!」
苦笑いを噛み潰す従者はゴキゲンなハカセに頭を下げて部屋を出る。

部屋から十分離れた場所で、従者はなにやら偉そうな男に手招きされて物陰に入る。
「あれは一体誰なのだ!」
「さ、さあ……」
「さあではないわ!」
この偉そうな男こそ、暗殺計画の首謀者である。
「まったく、どう見ても別人ではないか!気品のかけらも見えぬ!」
ごもっともである。

「し、しかしですね……」
「フン。まあ、背格好が似ていることは確かだ」
偉そうな男は少し考え、言葉を続けた。
「どうせ明日はカボチャマスクで顔など見えぬ。計画は実行する」

「とはいえ、マスクを取って顔を見られたらすぐにバレてしまうのでは」
「そこは計画を変更する。少しは頭を使い給え。マスクごと顔を吹き飛ばしてしまえばよいのだ。死んだことにしてしまえば、たとえ本物が出てきたとして、他人の空似だとしてしまえばそれまでよ」

「はっ。では、そのように……」
従者は震えて頭を下げる。この男は、自分の目的のために、罪のない謎の女を殺そうというのだ。それが従者にとっては恐ろしくてたまらなかった。だが、ここで逆らえば死ぬのは自分……。従者は息を殺して、明日の計画変更を伝えるために狙撃手のもとへ伝令に出た。

……そして翌朝!メンマとカボチャおばけ(領主の娘)は、カボチャ祭りのメイン舞台近くに待機していた。舞台の周囲には多くの人が集まり、壇上からは司会の声が聞こえる。
「えー、はるか南の領土からこの街にカボチャが伝えられたのは遡ること50年前。今年はそれを記念する年でもありまして……」

司会の言葉が続く中、メンマは周囲を警戒する。
「あやしいやつは見当たらねえな……」
暗殺計画とはいえ、物陰からいきなりグサリというわけにはいかない。暗殺者にとってのチャンスはターゲットが舞台に立つときだ。圧倒的に目立ち、かつ、護衛は最小限。しかし、それを狙う殺気が見えない。

「……それでは、はるか南の領土よりお越しくださったカボチャの君(きみ)より、50年を記念してお言葉をいただきたいと思います!どうぞ!」
司会の言葉に観客たちの拍手が沸き起こる。
「なに!?もうか!?」
こうなったら、いつ攻撃が来るか、メンマは意識を集中するしかない。

万雷の拍手に迎えられて舞台に現れたのは、カボチャおばけ(ハカセ)だ。貴族らしからぬ軽快なステップで壇上に躍り出て、大きく手を振る。
「やっほー!みんなー!楽しんでるー!?」
予想外の登場に、観客たちは少し困惑する。
「なんか、思ってたのと違うっていうか……」
「ええ、でも、可愛らしいわ」

「領主様の娘といえば貴族様だろ?」
「貴族様って言っても、おとなしい人ばかりってわけじゃないんじゃないか?」
「そうかな?」
「そうだよな……」
「そうだな……!」
いろいろな困惑はあったが、皆それぞれが祭りの雰囲気に飲み込まれており、正常な判断が鈍っていた。

「みんなー!楽しんでるー!?」
もう一度カボチャおばけ(ハカセ)が壇上から声をかける。
「「「「「ワーッ!」」」」」
完全に空気に飲み込まれた観客たちは歓声を上げる!
「えへへー」
ハカセはカボチャマスクの中でニヤニヤする。まんざらでもないと言った感じだ。

「えー、それじゃあ……」
カボチャおばけ(ハカセ)が舞台の中央に立ったその時だ!ゴバキィッ!!カボチャおばけ(ハカセ)の頭部に何かが飛来!カボチャマスクが木っ端微塵に砕け散り、カボチャおばけ(ハカセ)が盛大にぶっ倒れる!
「きゃああ!」
「うわああ!」
「なんだなんだ!」
大パニック!

「そんな……ハカセさん……」
カボチャおばけ(領主の娘)はカボチャマスクの中で涙を流す。だが、メンマはニヤリと笑う。
「撃ってきたやつの場所がわかったぜ」
「で、でも!ハカセさんが!」
カボチャおばけ(領主の娘)がメンマにすがりつく。
「なあに、舞台を見てみな」

「え……?」
カボチャおばけ(領主様の娘)が舞台を見る。
「もーう、いててだよー……」
ムクリと立ち上がるハカセは完全に無傷!
「え!?ええ!?」
驚きと喜びで悲鳴を上げるカボチャおばけ(領主様の娘)。
「ハカセはとにかく頑丈なんだよ。なんたってクソバカエルフなんだからな」

クソバカエルフが森の賢者と呼ばれる所以は大きく2つある。1つはその知識量。そしてもう1つは、圧倒的な魔力量を持ちながらも、魔力の扱いそのものは賢くないというところだ。ハカセは自分が撃たれることを分かっており、文字通り"バカみたいな魔力"で全身を覆い、強化していたのだ。

舞台上のハカセの無事を確認すると、メンマはバンブー弓を引き絞る。狙うのは遥か遠く、屋根の上の狙撃手だ!
「……くらえ!」
バンブーエルフ特有の剛力で引き絞られた弓は超速の矢を放つ!……それは正確に狙撃手に届いた!
「グギャア!チクショウメ!」
狙撃手は弓を捨て、巨大な蛮刀を構えて大跳躍した。

「まずい!こっちに来やがる!」
メンマが人混みをかき分けて舞台上に駆け上る。それと同時に、大柄な狙撃手も舞台上に降り立った。大きな羽を生やした魔物は切れ味鋭い刀を構えている。
「あー!ガーゴイル!」
ハカセが魔物の名前を言い当てる。
「なるほどな、どおりで殺気がわからねえわけだよ……」

ガーゴイルは羽の生えた悪魔のような姿をしているが、石像に擬態する能力も併せ持っている。矢を放つ直前まで石になって気配を隠していたのだ。
「グギャギャ!コウナリャ直接ブッ殺シテヤル!オマエラ!デテコイ!ゴアアアアア!!」
ガーゴイルが咆哮を上げる。仲間を呼ぶ気だ!

「こりゃあ、ちぃとマズイかな……」
メンマは周囲を警戒する。……しかし、増援は一向に現れない。
「ナンダッ!?ドウシタッ!?」
ガーゴイルもあたりを見渡す。いつの間にか観客たちは遠巻きに逃げており、舞台の前はポッカリと空間が空いていた。

本来ならその空間に仲間のガーゴイルが現れるはずだったのだが……。奇妙な静寂の中、ゴリッ……ゴリッ……と、なにか硬いものを引きずる音が会場に響いた。
「コノ音ハ……マサカ……!」
観客の波をかき分けて出てきたのは、一人の小柄なエルフだった。そのエルフは砕かれた石像の足を引きずっていた。

「ポテチ!」
「まったく、ハムにもならんかったゆ」
「ナンダトォ!?」
最も驚いたのはガーゴイルだ。
「寝込みを襲おうとするやつが悪いんだゆ」
「わーい!ポテチつよーい!」
「何があったんだ?」
メンマが問う。

「こいつら、ポテチの畑を荒らして魔力を奪おうとしたゆ。ポテチのポテト半分くらいダメになってしまったゆ。仕方がないからハムにでもしてやろうかと思ったら石になっちまゆし、持ってきたゆ」
ポテチの顔は静かな怒りに満ちている。

ポテサラエルフにとって、ポテトを台無しにされることは最大限の侮辱であり、侵略行為である。明け方に寝込みを襲われた怒れるポテチは、ポテサラの杖を振り回し、ガーゴルの子分たちを文字通り粉砕していた。その後で二度寝をしたので、到着が遅れたわけだ。
「ポテトの恨み、許さんゆ……」

ポテチは階段を踏みしめて舞台に上る。メンマ、ハカセ、ポテチ。エルフ三人娘がガーゴイルを迎え撃つ!
「オノレ……コレデモクラエ!」
ガーゴイルが巨大な蛮刀でハカセに斬りかかる!
「させるかよ!」
メンマがバンブー槍で防御!ガキィンッ!まるで鋼鉄同士がぶつかったような音が響き渡る!

「バンブーを舐めんじゃねえ!オラアッ!」
バンブーエルフの持つバンブーは通常のバンブーより強度が高い。更に、バンブーエルフはそのバンブーを魔力で強化することにより、鍛えられた鋼に匹敵する強度を持たせることができるのだ。
「ヌエエイッ!」
ガーゴイルはそのまま力で押し潰そうとする。

メンマもバンブーエルフ特有の剛力で耐える!
「ぬぐ、がああああ!」
とはいえ、耐えるので精一杯だ。
「ツブレロォッ!」
更に力を込めるガーゴイル。圧倒的不利な力比べの状況だが、メンマはニヤリと笑う。
「ヘヘッ、アタイばっかり見てていいのかい?」

「ナニ……グァッ!」
突然ガーゴイルの体勢が崩れる。
「ナンダコレハァ!」
ガーゴイルの足元の石版がグズグズに崩れており、右足だけが大きく沈んだ!
「ポテトの恨み、思い知るがいいゆ」
ポテサラエルフの魔法はカロリーを大量に消費することで、岩盤だろうとグズグズにすることができるのだ。

ポテチはすかさずポテトマッシャーのような杖を大きく振りかぶる。
「んゆ!!」
ガーゴイルの足を強打!これを食らってまともな状態の骨はそうそう無い。ガーゴイルの足も砕け散った!……かに見えた。
「んゆ!?」
「カカカッ!バカメ!ソウ簡単ニ折レン!」

小型のガーゴイルであれば、たとえ石化していても粉砕できたであろう一撃だった。だが、このガーゴイルは大きすぎて、ポテチの攻撃が通らない!
「んゆ!!んゆ!!」
「カカカッ!ムダムダ!」
何度叩いてもガーゴイルの足は折れそうにない。しかし、ガーゴイルも動けない。足止めは完璧だ。

「今だ!ハカセ!」
ガーゴイルの攻撃を耐えていたメンマが、ハカセの後方まで飛び退く。
「ナンダト?」
「いっくぞー!」
ハカセは膨大な魔力を両手のひらに圧縮し、腰のあたりで包み込むように構えを取る。

クソバカエルフは魔力の扱いが苦手で、基本的に膨大な魔力をぶっ放す使い方になる。しかし、接近戦状態では仲間を巻き込んでしまう(メンマは実際に何度か巻き添えを食らった事がある)。それを避けるために生み出された魔技が、『魔力の一方向集中放射』である。

ハカセはまだこの魔技に不慣れなため、ちょいと集中する必要がある。全てはこの一撃のための時間稼ぎだったのだ。
「ヤバイ!マズイ!」
ガーゴイルが飛び立とうと羽を広げる。しかし、飛び立てない!
「逃さんゆ……」
ガーゴイルの足を掴むポテチの体は半分が地面に沈み、テコでも動かぬ楔となっていた。

「やっちまえハカセ!」
ハカセの両手に練られた魔力が光りだす!
「クーソーバーカー……」
ハカセが両掌をガーゴイルに向かって突き出す!
「波ーーッ!!」
魔力の奔流が一方向に進む”波”となって、ガーゴイルの体を貫く!クソバカ波!
「グアアアアアッッッ!!」

ガーゴイルは石となり、そして砂となって崩れ落ちた。
「名前はアレだがやっぱり強いなクソバカ波」
「えへへー」
「で、この状況、どうするゆ?」
ポテチが地面から這い出てくる。会場はまだざわついてる。と、舞台の上に上ってくるカボチャおばけが1人。
「みなさん!聞いてください!」

カボチャおばけはカボチャマスクを取る。領主の娘が素顔を現した。
「あの方は!」
「見たことあるぞ!」
「本物だ!」
「じゃあ最初のアイツはなんだったんだ?」
怒涛の事態にさらに混乱するが、堂々と壇上に立つ本物の迫力に、次第に落ち着きを取り戻していく。

「この方は、私の命の恩人です。ハカセさんは私が魔物に狙われていると知って、身代わりを申し出てくれたのです。そして見事、魔物を返り討ちにして、この祭りを守ってくれました!皆様!盛大な拍手をお願いいたします!」
ハカセも調子を合わせて大きく手を振る。

「「「「「ワアーッ!!」」」」」
本物の貴族が持つ迫力だろうか、観客たちは納得して、万雷の拍手喝采を壇上に浴びせた。
「みんなー!ありがとー!」
分かってか分からずか、ハカセはニコニコ顔で手を振って答える。

……一方その頃、舞台裏。
「おい、お前が黒幕だな?」
「な、何を言っているのです!?」
黒幕の偉そうな男を問い詰めるメンマとポテチ。
「この札でガーゴイルに指示を出していたことは分かってるんだゆ」
ポテチはガーゴイルの足から、奇妙な紋様の書かれた札を剥ぎ取っていたのだ。

「そ、そんなもの、ワシは知らんぞ!」
しらばっくれて逃げようとする黒幕。だが。
「お前の部下が洗いざらい全部証言してくれた。おとなしく来てもらおうか」
そこには従者をとっ捕まえた騎士団達が道をふさいでいた。
「こ、ここまでか……」
黒幕はうなだれ、お縄となった。

……翌日。
「今回は本当にありがとうございました」
祭りも終わり、領主の娘たちは馬車で南の領地に帰る前に、メンマたちに別れの挨拶をしていた。
「なあに、良いってことよ。これもアタイたち旅エルフの役割だからな」
「んゆんゆ」
「うんうん!」

「お礼と言ってはなんですが、私達の国へ来たときはおもてなしさせてください。お待ちしております」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
「それでは、また……」
別れの挨拶を済ませると、馬車は走り出した。

「さあて、アタイたちも次の街を目指して出発するか」
「ポテトが欲しいゆ」
「それなら北がいいよ!ポテト祭りだよー」
「ポテト祭りゆ!?」
ハカセの言葉にポテチが目を輝かせる。
「そーし、それじゃあ北に向かって出発するか!」
「「おー!」」
三人のエルフの旅はまだまだ続く!

ハロウィン記念とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘~ハカセはカボチャのお姫様?~】

おわり

(感想ハッシュタグは #エルフ三人娘 だと拾えるので嬉しいです)

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