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バンブーエルフ1ヶ月記念とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘】

太陽は真上に昇り、もうすぐお昼時という穏やかな草原。ガサガサと草むらを跳ねるのは1匹のウサギだ。そして、それを竹の弓矢で狙うエルフが一人。
「……シッ!」
エルフの放った矢は風に乗り草をかき分けウサギを一撃で仕留めた。
「いよっしゃ!」

木の高さほどある竹馬がシュルシュルと縮み、射手が降りてくる。胸にサラシを巻いて竹の軽鎧に身を包む長身の女エルフは、ギザギザの歯をむき出しにして笑いながらウサギを回収する。彼女はバンブーエルフ。竹林に住み、竹と共に生きるエルフだ。
「これでハムができるな」

バンブーエルフは仲間の待つ焚火に戻る。仲間と言っても、待っているのはずんぐりとした低身長のエルフ一人だけだが。
「おーいポテチ!ウサギとったぞ!」
ポテチと呼ばれたオーバーオールのエルフは、エルフ特有の長い耳をピクリと動かしてバンブーエルフの方を振り返る。
「ウサギ!久しぶりにハムが作れゆ!」

ずんぐりとしたエルフはミスリル銀の背負い保管箱から使い込んだ包丁を取り出すと、テキパキとウサギをさばき始めた。焚火には鍋がかけてあり、ポテトがグツグツと煮えている。
「今日はハムポテサラゆ」
この舌っ足らずなエルフはポテサラエルフ。顎の力が弱くポテトサラダを主食とするエルフだ。

そんな二人のエルフに近づく人影が一人。
「ふがふが」
びしょ濡れの貫頭衣に身を包み、金髪ロングで容姿端麗、両手で魚を持ち、おまけに口にも魚を咥えてやってきたのは、もうひとりの仲間だ。
「ハカセの方も大漁だな」
「ふがふが」
ハカセと呼ばれたエルフは魚を加えたまま無邪気に笑う。

元々、バンブーエルフはポテチと二人旅だった。だが、いつの間にか流浪のエルフであるクソバカエルフが一緒について来ていた。……クソバカエルフなんて名前だが、無邪気でいいやつである。なにより、外の世界に慣れていないバンブーエルフたちにとって、放浪者というのは心強いのだ。

「魚は後でハムにすゆからよこすゆ」
ポテチが両手を広げるとハカセが無造作に魚を放り投げる。ポテチは造作もなく魚を受け取ると、ミスリル銀の背負い保管箱にポイポイ投げ入れる。この保管箱は魔法がかかっており、見た目以上に大量の物が入る。食材を多く運ぶポテサラエルフの旅の必需品だ。

「メンマ、ハムの用意を頼むゆ」
「あいよ」
バンブーエルフのメンマは竹の燻製器を組み立てる。ポテチと旅をしながら、持ち運びができるいろいろな調理道具を竹で作るようになったのだ。魚を手放したハカセは周囲の放浪……もとい警戒にでる。

……しばらくしてポテトが茹で上がり即席のハムが出来上がると、ポテチは何やらムニャムニャ言いながらポテトサラダを作り、それを3人で食べた。いつもの食事風景だ。食事が終わると諸々の荷物を片付けて今後の相談をする。
「それでハカセ、本当にこっちの方角で良いんだよな?」

「あってるあってる!でっかいハムの予感がする」
ハカセは笑って答える。
「予感……ねえ……」
メンマは少し不安になるが、しかしこれまでハカセの”予感”が外れたことはない。クソバカエルフ、別名”森の賢者”。その高度にぶっ飛んだ思考は他の種族には理解しがたいが、しかし、確かなのだ。

「まあ、行くだけ行ってみゆ。ポテトはまだいっぱいあゆから心配ないゆ」
「それもそうだな」
のんきなポテチの雰囲気に飲まれるようにメンマも納得し、ウサギの骨をクッキーのようにバリバリと噛み砕く。
「よーし!行くか!」
「「おー!」」
三人は街道を外れた獣道をずんずんと進んでいった。

……それから何時間か歩き、夕方になろうとしたときだった。
「お!村が見えるぞ!」
偵察用竹馬を伸ばしたメンマが遠くを見る。この距離なら日が暮れる前に辿り着けそうだ。
「やっと見つけ……ん、なんだありゃ?」
「どうしたゆ?」
険しい顔をするメンマにポテチが問う。

「……!ヤバイぞ、ゴブリンだ!」
メンマが見たのは数匹のゴブリンに襲われる村人の姿だ。
「ポテチ!ハカセ!先に行ってるぞ!」
「んゆ!」
「ほいほーい!」
二人の返事を待つが早いか、メンマは竹馬をしならせ、驚異的な歩幅で村に向かった。

……時間は少し経過して、場面は村。
「ゲヘヘッ!ありったけの食い物を出しなと言ったんだ!まだ隠してるダロォ!?」
「さっさと出さんとこの娘を持ってくゾォ!?」
あらかた食料を奪ったあとに二匹のゴブリンが私欲を肥やそうと村人を脅していた。
「きゃーっ!」
「や、やめてくれ!もう何も無いんだ!」

「ゲヘヘ、お前たちニンゲンは何でも溜め込みやがるからナァ。さっさと出したほうが身のためグギャアッ!!」
脅しているゴブリンの一匹に突如竹矢が突き刺さる!
「ゴギャアッ!!」
だが、致命傷には至らなかったようだ。
「チクショウ!タフな野郎だぜ!」

村人が声のする方を振り向くと、悪態をつきながら次の竹矢を構えるエルフの姿が。メンマだ!
「ゴブリンども、これ以上やるってんなら容赦しねえが……どうするよ?」
メンマは威圧的に竹槍を演舞のごとく振り回す。あまりの速度に風圧が発生し、ゴブリンを圧倒する。

「オ、オボエテヤガレ!!」
恐れをなしたゴブリンたちは人質の娘をほっぽりだして即撤退!
「た、助かりました……」
村人はメンマに感謝の言葉を告げるが、複雑な表情だ。
「いいってことよ!ナハハハ……ハ?」
最初は豪快に笑ったメンマだったが、村人たちの重い空気を感じてシリアスな表情になった。

「なんかよう、ワケアリって感じだな?」
「ええ……実は……」
「ああ、いや、待った」
話を切り出そうとする村人をメンマが止める。
「もう少ししたらアタイの仲間が来るからさ。そしたら話、聞かせてくれねえか?」
「お仲間が……はい!わかりました!」

……その夜、村人たちは広場に集まりポテチの作ったポテトサラダを笑顔で食べていた。
「うわあ!おいしい!」
無邪気に喜ぶ子供。
「ありがたや……」
数日ぶりのまともな食事に涙する大人。感情はそれぞれだが、誰もが喜んでいた。

「皆様、本日は誠にありがとうございました。私が村長のオーサです」
村長が三人に挨拶をする。
「アタイはバンブーエルフのメンマ。それでこっちがクソバカエルフのハカセ」
「よろしく~」
「ポテサラエルフのポテチだゆ」
三人が改めて自己紹介をする。

閉鎖的なエルフが旅をする理由はいくつかある。その理由の一つが「自分たちの存在を知らしめること」だ。旅をしてヒューマンを魔族から助けることで、敵対的ではないことを広めるのだ。その成果があってか、森焼かれ事件はここ数百年は発生していない。

もう一つの大きな理由が、「世界を知ること」だ。閉鎖的なエルフたちは放っておけば多種族とも交流せず、一生を生まれた地域で過ごす。するとどうなるか?大昔の大戦では、巻き添えを食らってエルフの森が焼かれるまで大戦そのものを知らなかったのだ。ゆえに旅でヒューマンの情勢を知るのだ。

世界を知ること、これはヒューマンを知ることのみにとどまらない。他のエルフを知るために種族を超えたパーティを組み、お互いを通称で呼び合い文化交流をすることや、世界の魔物と戦い己の強さと弱さを知ることも含まれる。ゆえに、ヒューマンの村が魔物に襲われているとあれば、放っておけない。

「ゴブリンたちは数日前にもこの村にやってきたのです」
村長が重い口を開く。
「数日前も?」
「はい。その時は畑を荒らされました。そして今日は保存食までも……」
「はいはーい!それ、おかしくなあい?」
話を聞いていたハカセが手を上げて発言する。

「おかしい……とは?」
「んとねー、んとねー、ゴブリンは頭悪いからそんなことしないんだよね」
ハカセの発言は思考が数段階吹っ飛んでいるので、他のメンバー全員の頭上に『?』が浮かんでポカンとしている。
「えっと、どういうことだゆ?」

「だからー、えっと、ゴブリンは頭悪いから、食べ物は生で食べるんだよ」
「そういうことかゆ!」
ポテチがハカセの言葉を理解した。
「ゴブリンが保存食を知ってるはずがないゆ。つまり、もっと頭がいいやつがいゆってことゆね?」
「そうそうそれそれ!」
ハカセが頷く。

「もっと恐ろしい魔物がいるというのですか」
村長は恐怖を隠せない。
「つってもよお、その頭いいやつってのはなんなんだ?」
悩むメンマ。
「はいはーい!女の子!女の子!」
またもやハカセが手を上げて発言する。
「女の子……?」
またもや全員がキョトンだ。

「女の子……女の子……いや、まてよ」
メンマは逃げていったゴブリンを思い出す。
「確かアイツ、娘をさらっていくとかなんとか言ってたよな……ってことはオークか?」
メンマの記憶が掘り起こされる。ゴブリンより体が大きく賢いオークは若いヒューマンを食べると聞いたことがあった。

「それそれ!オーク!オーク!」
ハカセはにこやかに答える。
「オークですか、それは……」
一般的なヒューマンはゴブリンにすら敵わない。それがオークともなれば格段の恐怖だ。しかし、メンマは堂々と胸を張って答える。
「心配すんなって!アタイらがとっちめてやるよ!」

「んゆ。まかせるゆ」
「わたしもやるよー!」
ポテチとハカセも自信たっぷりだ。
「おお、なんとお礼を申し上げたらよろしいか……」
「お礼とかは終わってからでいいんだよ。な?」
「んゆ」
「うんうん!」
三人のエルフは当然とばかりに答える。

「ようし、そうと決まれば今夜は準備だ。ポテチはポテサラ用意しとけよ!ハカセは休んでくれ!」
メンマが気合を入れる。
「村長さん、畑を貸してほしいんだけどいいかゆ?」
「いいですが、先日荒らされた畑しかありませんよ」
「好都合だゆ」

メンマとハカセは明日に備えて部屋にこもって準備を始めた。一方、ポテチは村長に案内されて、荒らされたキュウリ畑にやってきた。
「ここです」
「ポテサラになゆはずだったのに、かわいそうにゆ……ポテチが無念を晴らしてやるゆ」
ポテチはミスリル銀の背負い保管箱から魚を取り出すと、畑に投げた。

ポテチは不思議な形の杖を構える。それはポテトを潰す調理器具の形に似ていた。
「ムニャムニャ……ムニャムニャ……」
ポテチはヒューマンには聞き取れないムニャムニャ声を出しながら杖を振り、畑の周りを歩き始める。するとどうだろうか。みるみるうちに畑はぐずぐずに耕されていくではないか。

しかもそれだけではない。ゴブリンに踏み潰されたキュウリと投げ入れた魚がまたたく間に腐敗して肥料となっていく。ひとしきり畑を整えると、ポテチはミスリル銀の背負い保管箱からポテトを何個か取り出して畑に埋めていく。
「これは、不思議な……」
村長はその光景に目を奪われていた。

「明日にはポテトが育つゆ。それじゃあおやすみなさいゆ」
ポテチは畑の中心に立つとズブズブと畑に埋まっていった。ポテサラ魔法の一つ、急速ポテト成長畑魔法だ。大地と肥料と自らの魔力を栄養に、急速にポテトを育てるのだ。
「お、おやすみなさいませ」
村長は目を丸くしながらも家に戻った。

ポテトには連作障害(同じ作物を連続で育てると育たなくなる現象)があり、急速にポテトを育てるこの魔法を乱発すれば、またたく間に大地はポテトの育たない不毛の地となってしまう。しかし、ポテト以外を育てるヒューマンの畑ならば、そのデメリットはある程度無視できる。そして、この魔法はポテサラエルフたちにとっても、飢饉を乗り切る重要な魔法だ。

こういった、いざとなったときに重要になってくる普段は練習できない魔法の扱いに慣れるというのも、エルフ旅の目的の一つなのだ。
「スヤスヤ……」
ポテチは柔らかい土の布団に包まれてぐっすりと眠った。

……翌朝。ポテチが目覚めて地面から顔を出すと、畑一面にポテト葉が生い茂っていた。
「うまくいったゆ」
そのまま寝起きの運動とでも言わんばかりにポテトを収穫しては湯の湧いた鍋に投げ入れ、どんどんポテトサラダを作っていく。

……それからしばらくして、メンマとハカセがやってきた。
「おーい、ポテチ。準備できてっか?」
「準備万端だゆ」
そこには大量のポテトサラダを摂取してやや顔つきが丸くなったポテチの姿が。
「うわー、ポテチぷよぷよー」
ハカセがポテチの横腹を突く。明らかに普段よりも肥えている。

「あんまりさわんなゆ」
ポテチがハカセをはねのけて立ち上がる。
「そっちの準備はできてゆ?」
「あったりまえよ!」
メンマは緑色の札を持つ。ハカセが寝ている間に魔力を分けてもらった札だ。メンマは一息ついてから呪文を唱える。
「ササノハサラサラゴシキノタンザク」

バンブーエルフに伝わる竹魔法は大きく分けて2種類ある。一つは竹そのものを伸縮させたり枝を伸ばしたり強度を強めたりする魔法。もう一つはゴシキノタンザクと呼ばれる色のついた札を使った魔法。今回メンマが使ったのは後者だ。呪文に答えるように札は笹舟の形となり、方位磁石のように方角を示す。

「あっちだな」
メンマが笹舟の指す方角を見る。昨日ゴブリンに傷を負わせた矢には、こんなこともあろうかと探知魔法の札を組み込んでいた。矢を抜いても一日くらいなら十分探知可能だ。
「よーし!いくぞぉ!」
ハカセが先陣を切り、三人は進軍を開始した。

……三人が息を潜めながら暫く進むと、これ見よがしな洞窟があった。入口には見張りゴブリンが二匹。明らかにここが敵のアジトだろう。
「二匹か、アタイにまかせてくれ」
メンマは竹弓に矢を二本つがえる。ポテトとハカセはメンマを信じて数歩後ろに下がる。

「……シッ!」
メンマの弓が放たれた!
「「グァ……」」
二本の矢は二匹のゴブリンの頭を同時に貫く。仲間を呼ぶ事もできず、見張りは排除された。
「相変わらずほえぼえすゆ腕前ゆ
「当然さ。弓はアタイの一番得意な武器だからね」

メンマはバンブーエルフの中でも特に戦士としての素質が高かった。だが、魔術の扱いがあまりにも不得意だった。特に札に魔力を込めるのは大の苦手で、今でもクソバカエルフのハカセの魔力を借りなければ、まともに札魔法が使えないくらいだ。

そういった自分の弱さを知り、同時に克服するための方法を得ることも旅エルフの大きな目的なのだ。そういった意味では、メンマは旅エルフ仲間に恵まれたと言っても過言ではないだろう。

「よし、いくぞ」
メンマの合図で三人は洞窟に入っていく。しかし、進めども進めどもオークはおろかゴブリンの姿が見えない。
「どういうことだ?笹舟は反応してるから間違いないはずだぞ」
三人は笹舟を信じて進み続けた。……やがて、洞窟の出口にたどり着いた。
「あれ?出口?」

洞窟を出る三人。
「まずいっ!まずいよ!」
最初に気がついたのはハカセだった。
「罠だゆ!」
ポテチも気がついたが時既に遅し、即座に三人の背後で洞窟の出入り口が塞がれた!もう後戻りはできなくなった。
「あー、そういうことかい」
メンマもようやく自分たちが置かれた状況に気がついた。

三人が洞窟を抜けてたどり着いた場所は巨大な穴の底のような場所だった。周囲はすべて数メートルの断崖絶壁に囲まれており、もと来た洞窟も岩で塞がれてしまった。
「グフフ……キサマラが来ることはわかっていたぞ!」
三人が見上げると、そこには高笑いするオークの姿が!

「お前が親玉ゆね?」
ポテチが崖上のオークを睨む。
「グフフ、だったらどうしたというのだ?」
「……ハムにすゆ」
ポテチの目からハイライトが消えた。
「ハムにするだあ!?グファファ!生き残ってから言うんだなあ!」
オークが右手を上げると、弓を構えた無数のゴブリンたちが崖上に現れた。

「ハムになるのはキサマラよお!撃てぇい!」
「「「「「イーハハァ!!」」」」」
オークの合図で無数の矢が三人に放たれる!万事休すか!否!
「ハァァァイヤァァァ!!!」

メンマが地面に竹槍を突き刺して魔力を込めると、突如として三人を守るように竹が生い茂り、ゴブリンの矢を完全に遮った!
「パンダの爪より柔い矢なんぞ竹で十分よ!」

攻撃を防ぎきった竹は萎れてバラバラになる。魔力で強引に急速成長させた竹はすぐに枯れてしまうのだ。
「なんだとぉ!?おのれマイナーエルフごときがぁ!」
予想外の事態に今度はオークが狼狽!

「マイナーエルフだからって舐めるんじゃねえぞ!ポテチ!かましてやれ!」
「んゆ!」
メンマの号令に、今度はポテチが地面に両手を当てる。
「ムニャムニャ……」
ポテサラエルフ特有の呪文詠唱がポテチのカロリーを媒介に発動!
「「「「「グギャアッ!」」」」」
ゴブリンたちの立つ地面がぐずぐずに!

ゴブリンたちは三人のエルフたちの居る穴の底に落ちる。しかし戦闘意欲はまだあるようで、各々が短刀を構えて三人のエルフに襲いかかる!だが!
「ハイヤーッ!」
メンマの竹光一閃!一瞬円形の光が放たれたと思いきや、ゴブリンたちの短刀がすべて折られているではないか!

「バンブーエルフの竹光の切れ味、舐めるんじゃないよ」
バンブーエルフが魔力を込めた竹光は真剣の切れ味を軽く凌駕すると言われている。いわんや、ゴブリンが持つなまくら短刀など、いくらあっても雨後のタケノコに等しい!

「ええい!怯むな!かかれぃ!」
オークの号令で無数のゴブリンたちが三人に襲いかかる。もはや時代劇のチャンバラのような戦力差だ。
「いくぞ!ポテチ!ハカセ!」
「んゆ!」
「ほーい」
迎え撃つ三人も各々の武器を構える。

「「「ゴブゴブーッ!」」」
メンマに拳で殴りかかるゴブリンたち。
「ハイヤーッ!」
メンマは竹槍のしなりを利用して大きく跳躍。ゴブリンの攻撃を回避して即座に竹光に持ち替えた。竹光の刃はフェンシングの剣のようにしなり、ゴブリンの骨の間を滑り込んで弱点の臓腑に的確に刃を滑らせる!
「「「ゴバアァッ!!」」」
ゴブリン無残!

「「「ゴブゴブーッ!」」」
ポテチに拳で殴りかかるゴブリンたち。
「んゆ!」
ポテチは地面を力強く踏み抜く!地面がポテサラ魔法でぐずぐずになった。
「「「ゴブ!?」」」
足を取られたゴブリンたちは慌てふためくが、底なし沼にハマったかのように身動きが取れない。

そんなゴブリンたちを見下ろすようにポテチは地面を踏みしめ、ポテトマッシャーのような杖を大きく振りかぶる。
「おまえたち、ハムにもならんゆ」
ポテサラ作りで鍛え上げられた強靭な筋力で杖がバットスイングのように振り抜かれる!
「「「ゴバアァッ!!」」」
ゴブリン無残!

「「「ゴブゴブーッ!」」」
ハカセに拳で殴りかかるゴブリンたち。
「あはは、よーし、がんばるぞー」
ハカセは構えを取ると思いきや、そのまま笑ってゴブリンたちの攻撃をすべてモロに喰らう!
「「「ゴブゴブーッ!」」」
勢いづいてゴブリンたちは滅多打ちだ!だが。
「ゴブ?」

一匹のゴブリンが異変に気がついた。どれだけ殴ってもハカセにダメージが通らないのだ。それどころか、ゴブリン自身の拳がダメージを受けているのだ!
「「「ゴブァ??」」」
一方的に殴られていたハカセの周囲には、いつの間にか魔力が渦巻いていた。

クソバカエルフははっきり言って知性が低い。しかし、魔力を操るという点だけで見れば全エルフの中でも群を抜いている。しかし、その知性ゆえに魔法は得意とせず、魔力そのものを身にまとい、力を振るうのだ。
「うーわぁーお!!」
ハカセが全身の魔力を解き放つ!

クソバカエルフが得意とする”魔力をそのまま解き放つ攻撃”は純粋な力の奔流であるため防ぐのは困難だ!
「「「ゴバアァッ!」」」
ゴブリン無残!

三者三様の大乱闘の末、残ったのはオーク一匹だ。
「ぐぬぬ……キサマラよくもお!!」
オークが飛び降りてくる!ズゥゥゥゥンッ!近くで見ると改めて実感できるが、ゴブリンとは体格が違う。体格が違うということは脚の大きさが違うということであり、ポテサラ魔法による地面軟化が通用しない。

「ゆゆゆ……」
ポテチは自分の魔法が通用しないと感じてか、数歩下がる。
「ここはアタイに任せな」
代わりにメンマが数歩前に出る。ハカセの魔力放出は多数に対して有利だが、タフなやつ相手には少々分が悪い。それどころか下手すれば巻き添えを食らってしまう(メンマは実際に食らったことがある)。

「一騎打ちとは命知らずカァ?」
オークが巨大な金棒を構える。
「いいや、これも作戦だよ」
メンマは竹光では金棒を受けきれないと判断し、武器を竹トンファーに持ち変えると、風をきるように振り回してから構え直した。
「さあ、こいよ!」
「強がりがぁ!」
オークの金棒がメンマに襲いかかる!

「ハイヤーッ!」
メンマはオークの金棒を左の竹トンファーで受け流し、同時に右の竹トンファーでオークの顔面をぶん殴る!
「効かんなあ!効かんぞぉ!」
オークにダメージは通っていないのか?だが、どうあれメンマはひたすら超近接距離での攻防を継続する!

「ハイヤーッ!」
メンマの竹脚甲回し蹴り!
「グフフッ!」
ノーダメージ!
「フンッ!」
オークの金棒叩き受け!
「ハイヤーッ!」
メンマは金棒を避けて踏み台にして高高度に跳躍!
「馬鹿め!もはや避けられんぞ!」
オークが金棒を下段に構えたその時だ!
「なにぃ!?」

オークの足元がぐずぐずになっている。それどころか、下段に構えた金棒も地面に埋まっているではないか!
「なっ!なんだこれはああああ!」
「ポテサラエルフを甘く見たからゆ」
「しっ!しまった!」
オークが気がついたときにはもはや、ポテサラ魔法でぐずぐずになった地面に首までつかっていた。

メンマがオークの気を引いている間にポテチは今朝摂取した全カロリーを消費して、オークの足元に”急激に崩れる魔法”を用意していたのだ
「『ポテサラエルフの足元を見ゆやつにはつま先を見せてやれ』とはよく言ったものだゆ。後はまかせたゆ」

「よっしゃ任せろ!」
メンマは竹槍のしなりを利用して崖の上に脱出し、同時に竹槍を2本投げた。竹槍はぐんぐんと伸び、ハカセとポテチを崖の上に押し上げる。崖下に残ったのはぐずぐずになった地面に囚われたオークだけだ。

メンマは竹槍に赤い札を貼り付ける。ハカセの魔力が目一杯詰まった札だ。その竹槍を構え、呪文とともに力いっぱい投擲した!
「ササノハサラサラゴシキノタンザク!!」

「や、やめろおおおお!」
オークの命乞いも虚しく竹槍が貫通し、魔力が竹槍を爆発させた!爆竹である!
「オグァァァッッッッッ!!」
オークは爆発四散!!

「ハッハァ!やったぜぃ!」
メンマはガッツポーズ。
「うわーい!やっつけた!やっつけた!」
ハカセも無邪気に万歳する。ポテチは爆発四散で吹き飛んだオークの四肢を目を輝かせながら回収する。
「ハムにすゆ!ハムにすゆ!」

……少し時間が経過して、三人は村に帰った。
「おお!エルフ様!」
長老がメンマたちを迎える。
「それで、ゴブリンたちは……」
「全部退治したぜ。親玉のオークはこのとおりだ」
メンマはポテチを指差す。
「ハムにしたゆ……」
満足そうな表情のポテチがオークハムを見せつける。

「さ、さようですか……」
これには村長もややドン引きである。村人は言わずもがな距離を取ろうとする。
(あ、これまずいな)
村人に避けられている雰囲気を察したメンマがどうにか話題を変えようと取り繕う。
「と、とにかく!この村を脅かす魔物はアタイたちがやっつけた!安心してくれ!」

「そうだよな!」
「やったあ!」
「ありがとう!」
村人たちの歓声が三人を包む。その雰囲気に押されてか、村長もオークハムのことは脇に置いておくような思考になった。
「村を救っていただき、ありがとうございました。よろしければもうしばらくこの村を助けてくれないでしょうか?」

ヒューマンを助けて言い伝えを残すことは、各種エルフにとって重要なことだ(ヒューマンを助けた逸話があると初対面でも友好的に接してくれる可能性が高いため)。こういった申し出はむしろありがたい。
「ああ、もちろん!」
「断る理由はないでゆ」
「さんせーい!」

……それから数週間、三人のエルフはこの村で生活した。バンブーエルフのメンマは竹細工を伝え、ヒューマンの独創的な竹細工を学んだ。ポテサラエルフのポテチはポテトサラダを伝授しながら、村人のレシピを取り入れ自身の糧とした。クソバカエルフのハカセは知識を提供し、民話を手に入れた。

……そして三人のエルフは別れを惜しまれつつも村を離れた。ヒューマンにとっての数週間は長いが、時間感覚が長いエルフにとっては一期一会に等しい。
「さあて、次はどこ行く?」
三人は分かれ道に立っていた。
「ポテトがいっぱい取れる街がいいと思うゆ」
「アタイは久しぶりに竹にかぶりつきたいけど」

「あー!あっち!困ってる人の匂いがする!」
ハカセがまたもや道なき道を指差す。
「ねえねえ!行こうよ!助けようよ!」
ハカセに服の袖をグイグイ引っ張られるメンマ。
「ったく、しょうがねえな」
言葉とは裏腹に嬉しそうなメンマ。
「ポテチはいいか?」
「もちろんでゆ」
ポテチは笑って答える。

「よーし!それじゃあよくわかんねえ目的地目指して出発だあ!」
「「おー!」」
三人のエルフの旅はまだまだ続く!

バンブーエルフ1ヶ月記念とくべつ読み切り【痛快ファンタジー活劇 ご存知!エルフ三人娘】

おわり

(感想ハッシュタグは #エルフ三人娘 だと拾えるので嬉しいです)

以下、参考の集団幻覚


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