2022 年間百合大賞
※筆者が完全に独断で一人で作りました。
※無料で最後まで読めます。
※記事内のリンクはアフィではないので筆者には1円も入りません。
※基本的に「年内に完結した作品」のみを選考対象としています。
受賞作品一覧
※引用元
入選
リコリス・リコイル
きたない君が一番かわいい
同人部門
Tempo Rubato (響け!ユーフォニアム なかよし川)
v部門
あくすい
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ポルこよ
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未完選外
とある科学の心理掌握
マザーグール
お姉さまと巨人
百合SMでふたりの気持ちはつながりますか?
私を食べたい人でなし
声が出せない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている
彩純ちゃんはレズ風俗に興味があります
ウソツキ皐月は死が見える
夜嵐にわらう
踊り場にスカートが鳴る
見える子ちゃん
選評(総評・大賞)
「劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト」「夜と海」という全く異なる作風ながら、共に歴代最高峰のクオリティを誇る二作品が出た昨年と比較すると、かなり穏当な年であったと総評できる。また、百合作品自体の増加に伴い、--粗製乱造--という言葉を用いるのは不適切であると思うが、基本的な物語としての完成度を欠く作品も年々増え、広く作品を評価した上で優れた作品を選出することが難しくなっていると感じられた。
同時に異世界系、悪役令嬢、ゲーム世界、チート系作品等、読み味が似通り、一見して作品の特色がわかりづらく、またそれぞれのジャンルに対して読者が持つ前提知識に物語の根幹部分を依拠し、独自の世界観を構築することを怠っている作品が目立つようになる中、残念ながら「百合」というジャンルもその大きな流れの中にあるというのが現状であると思われる。近年、百合というジャンルは隆盛を迎えてこそいるが、同時に百合という概念自体が自明視され、
・百合を主題として描かない作品内でキャラクターを便利に動かす道具とし て用いられる
・現代日本が舞台で、特殊な設定等がないのにも関わらず、特に説明もなく 全員が同性愛者
というような"ありがち"な作品は正に「百合」という概念に対して読者が持つ期待感や前提知識に依拠し、独自の世界観を構築することを怠っていると言ってしまえるだろう。
しかし、そのような中でも大賞として選出した「百合オタに百合はご法度です!?」は百合という概念をメタ的に俯瞰し「前提知識に物語の根幹部分を依拠し」ていながらも、独自の世界観と共に優れたと葛藤と人間関係を描写したことで、新時代の百合のあり方を示した非常に優れた作品であったと評価できる。
古典中の古典である女子校を舞台とし、巻き起こる様々なキャラクター同士の関係性を「百合オタク」である主人公、渡辺の視点から描き、同時に渡辺もまた「百合の楽園をギャルから守るため」に動いていく中で、当の吉岡との関係性を徐々に変化させていき、それが「百合なのかどうか?」という渡辺の自問自答が常になされる。これまでの百合作品において、「同性愛に対する周囲の目」「受け入れてもらえるはずがない」といった形で描写された葛藤が「百合なのかどうか?」に置換されているのだ。
昨今、世間からの同性愛に対する見方は急速に寛容になっているが、これは正確には「フィクションとしての同性愛」に対する寛容であり、必ずしも現実の同性愛に向けられたものではないと言えるだろう。一方で、同性愛という概念が人口に膾炙するにつれ、逆にフィクションとしての同性愛、特に古典的に王道とされてきた葛藤が陳腐と受け取られるようになり、本作もこうした大きな流れの中に位置づけられるものであると考えられる。
だが、本作には単に時代の流れに沿って生み出されたものではない特筆すべき点がある。
それは最終盤において渡辺が最後にたどり着いた結論である
「この学校--私が大好きな世界で、「私」がいる世界だよ」
「百合はある。現実の人の想いも…フィクションの世界の感情も…今は大切にしたいと思ってる!」
である。これはフィクションとそのオタクが現実に生きる当事者と対立関係にあった旧時代への墓標であり、新しい時代への希望であるとさえ言えるのだ。なぜならば本作の主題は「百合オタクが百合をどう捉えるべきなのか」ではなく、タイトルの通り「百合オタクに百合は"ご法度"なのかどうか」つまり「百合オタクは自身のオタク的活動を通じて得た現実に"自分ごととして"どう受け止めるか」ということだからである。
市場の拡大に伴う作品の長期化と多様化、SNSを通じた情報収集の効率化、同好の士との交流の活発化が進み、オタク活動をライフワークとすることも難しい話とは言えなくなってきたが、それに際してはどうしても"現実"とのすり合わせが必要になる。多くの場合それは、「労働との兼ね合いで鑑賞や創作の時間が確保できない」といった"対立"する現実とのすり合わせだが、長くオタクであるなら、オタク活動が"包含"する現実--それは極端な例を挙げれば、本作品で示されたような「オタク活動、あるいはそれが何らかの切掛となり出会った人間との(恋愛)関係」のような形さえも想定され得る--をどのように位置づけていくのかも考える必要があるのではないだろうか。
これからの時代、作品/作者にお金が行き届き、作品のクオリティと多様性が向上することと同じかそれ以上に、単なる消費者(あえてこの単語を使うが)に過ぎない我々の人生の持続可能性を我々自身が慮ることが、今なお勢い衰えない百合というジャンルを支える重要な要素になっていくと筆者は確信している。
我々は我々が百合を愛するのと同じように、我々自身の人生を愛する必要があるのだ。
選評(入選・同人・v部門)
次に入選とした作品についても簡単に触れておきたい。「リコリス・リコイル」はアニメ1クールという決して短くない尺を使いながら、たきなと千束という二人にあくまで焦点を絞り続け、それでいてテロリスト・真島との戦いを着実に描ききった地力の高い作品であった。
百合として特異な新規性がなかったことから大賞は譲ったが、二期や今後の展開に大いに期待が持てる作品である。
ただ一点、百合ではなく物語として疑問を差し挟むと、千束が「人を殺さない」信念を貫き、吉松を殺そうとしたたきなの方を押さえてしまったにも関わらず、ミカが本人の見えないところで心臓を奪ってしまう展開はいかがなものかと感じた。ミカが父親として千束を守るという構図は理解できるが、千束の思想が何も変わらないまま(真島を殺さなかったことでさくらが重症を追ってしまったことにも特に言及がなかった)物語が終わってしまったことに一抹の疑問は残る形となった。
入選の二本目としては「きたない君が一番かわいい」を挙げた。
一般誌としては過激な展開で話題を呼び、3月に違った形でインパクトを残す形で完結した本作は前半の過激で背徳的な描写、そして最終巻の絶望の逃避行の描写は読む者の感情を大きく揺さぶる力があり、全体としては優れた作品であったが、次々と登場する異常な価値観を持ったクラスメイト達との愛憎劇にはどうしても間延びした印象を受けた。
次に今年度新設の同人部門として、せた氏のなかよし川再録本「Tempo Rubato」を挙げた。
再録ではあるが、個々の話のクオリティの高さに加え、一冊にまとめられたことで時系列に沿ってわかりやすく読むことができる点と何より描き下ろしの見事さを高く評価させていただいた。また、本作の発売日は厳密には2021/12/30だが、その時点で2021の評価は終了しており、現実的に精査する時間がなかったこともあり2022年分としたことをご容赦いただきたい。
最後にvtuber部門について、今年はhololiveの中から、関係の変化が大きいと感じた「あくすい」「ポルこよ」を挙げたので、ごく簡単に紹介する。
(ナマモノであるため、下記の記述も筆者の主観に依ったものである点を念のため再確認しておく)
「あくすい」について
歌唱力を主にすいちゃんを尊敬していたあくあが、すいちゃんの自分だけにしか見せない三枚目な振る舞いを受けて徐々に心をひらいていき、遂に今年の運動会では押されるばかりではなく自分からイタズラを仕掛けるようになる等、関係性の変化を感じさせるシーンがあり、非常に示唆に富むものであった。
また、startendとして、二者と常闇トワとの関係も注視していきたい。
「ポルこよ」について
共にリスナーとの関係性に独自の信念を持っている二人だが、「リスナーと自分は同一存在」を掲げ、弱音とエンタメを両輪で繰り出すポルカと、バイタリティを活かし、配信の圧倒的な量と幅で「いつでも会える」をコンセプトにしているこよりで方向性は大きく異なる。
そんな二人だが、ポルカがこよりの助手くんとしての動きを見せることで、どちらのコンセプトも保持したまま、互いの良さを活かした絡みが可能になったことで、今後の展開に期待が持てるコンビになったと言えよう。
おわりに
「ご法度」の最終話で一気に卒業式まで時間飛ばす構成、「GIRL FRIENDS」
を彷彿とさせて良かったですね。
<参考>2021年分
2021百合大賞
劇場版 少女歌劇レヴュースタァライト
夜と海
入選
たとえ届かぬ糸だとしても
裏路地浪漫屋物語
姫神の巫女
出来損ないの姫君たち
v部門
ポルラミ
怪物さん - 尾丸ポルカ&雪花ラミィ(cover/4K)
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さくゆい
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未完選外
百合オタに百合はご法度です!?
マザーグール
百合SMでふたりの気持ちはつながりますか?
私を食べたい人でなし
声が出せない少女は「彼女が優しすぎる」と思っている
みんな私のはらのなか
彩純ちゃんはレズ風俗に興味があります
ウソツキ皐月は死が見える
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