【小説】#35 怪奇探偵 白澤探偵事務所|不気味なくじ引き|閑話
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こんな怪しいくじ引きをやる人は誰もいないだろうと思うのだが、丸井さんのような奇特な人もいる。こういう不正な取引や商売をしている幻永界の人を取り締まるのも、白澤さんの仕事の一つなのだろう。そう考えると、怪奇探偵と言いつついろんなことをしているなと改めて思う。
「そういえば、前にマスクの販売もありましたね……あっちの人たちって商売に熱心なんですか?」
「単純に商売っ気のある人が販路を増やそうとするとそうなるんだと思うよ。エチゴさんみたいにしっかり守ってる人もいるわけだからね」
商売をする人たちというのは、いつどこでも商機を狙っているということかもしれない。目新しさに惹かれてくる人間を待っているわりにはおとなしいのが気になるが、そういう性質なのだろう。
「もし野田くんの目でそういうものが見つけられるようになれば私も助かるな」
そういえば、光がちらついて視えたのは今日が初めてだった。今日たまたまそうだったのか、今後もそうなるのかはわからない。けれど、白澤さんの助けになるかもと思うとそれもいいかもしれないと考えてしまう。余計なものを見るかもしれないとも思うのだがが、そういうのは見てしまってからどうにかすればいいことである。
「今まではどうしてたんですか?」
「噂が流れたら自分の足でいって確認してたよ。大体噂通りだけど、時々……まあ、なぜか違法なことをしている人もいたね」
「そういうのってどうするんです?」
「しかるべきところにお任せしているよ」
私の出る幕ではないし、と付け足して白澤さんは小さく笑う。思い出し笑いをしているようだった。今までもこうして様々なことを見つけてきたのだとしたら、笑ってしまうような出来事もあったのかもしれない。後で聞いてみようかな、と少し思う。
「丸井さんにお土産を買って事務所に戻ろうか。何がいいかな」
「冷たいものですかね……アイスとか?」
「丸井さんは……少しカロリー控えめがいいかもしれない」
真面目な顔をして白澤さんが言うものだから、少し笑った。スマホを立ち上げて検索する。
「ゼリーのほうがカロリー低いみたいですよ。探して帰りましょうか」
「ああ、それなら気になっているものがあるんだ。テリーヌみたいなゼリーがあって……」
「テリーヌってなんすか……?」
どんなゼリーなのか全く想像がつかない。白澤さんはどこか楽しそうに笑い、見るまで楽しみにしていてと言って足を速める。手元のスマホで検索してもよかったが、これは現物を見て知ったほうがいいだろうとポケットに引っ込めた。
土産を買って事務所に戻った後、事の顛末を丸井さんにかいつまんで話した。まだくじが引けるかもしれないと飛び出しかけたところをどうにかゼリーで足止めできたのは、結果的に良かったと思う。