書記の読書記録#139「痴愚神礼讃 - ラテン語原典訳」
エラスムス(訳:沓掛良彦)「痴愚神礼讃 - ラテン語原典訳」のレビュー
レビュー
この逆説に満ちた口の悪さがクセになる,この手の作品に対してはどうしても高評価を与えたくなる。口の悪さは痴愚女神のキャラクター付けに寄与しているのだが,相手がキリスト教となると作者の素が漏れている印象を受ける。最後までキャラクターを崩さないで欲しいところだったがしょうがない。内容としてはキリスト教(あるいは教徒)の境界線に鋭く触れており,神学を考える上で重要性が高い。
言葉による変革を望んだ結果が時代からの孤立というのはなんとも皮肉なことだ。カトリックには禁書扱いされるわ,ルターに始まるプロテスタントからはぬるいと扱われるわ,でまあ散々だ。さすがに現代では,エラスムスの作品はより広く知られることとなり再評価されることだろう。真にキリスト教徒であろうとしたことがようやく分かりつつある。
解説よりメモ:
・エラスムスとラテン語,ルターとドイツ語・人文主義者との関わり,新プラトン主義に基づいた聖書研究・「格言集」出版・「痴愚神礼讃」の大成功・驚異の年1516年,ギリシャ語訳の「校訂版新約聖書」・「対話集」・ルターの宗教改革・キリスト教人文主義,孤立を深める・教皇ユリウス3世による全著書の禁書・友人モアを楽しませる意図・諷刺文学の流れ,ブラント「阿呆船」など・デクラマティオのパロディ・痴愚女神Moria・カトリック体制への批判,高位聖職者の堕落しきった生活
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