
書記の読書記録#106「キッチン」
吉本ばなな「キッチン」のレビュー
「戦後文学の現在形」収録作品。
レビュー
よく暖かいと言われそうな感じがするけど,むしろ「ぬるい」って印象。その筆頭が吉本ばななの作品だった。本作は1987年に発表のデビュー作で,海燕新人文学賞を受賞,意外と古い。全体的に,単に書いてる風を装ってる感じ。特に何かかきたてるものもなし。
ただ注目すべき点はある。「キッチン」では最初から最後まで,"死体を置く"ことをやめていない。その事実一つを取るだけでも,作品に流れる時間感覚は大きく分裂する。本作の生死の乖離に比べたら,その他の描写は誤差に過ぎない。
女と台所,恋と死をメシでつなぐ,というそれだけのことを延々と語っているだけで,冒頭数ページで大体オチがついている。それにしてもあとがき?は良くない,読み方を著者に教わっているようで不愉快。
本作を省みるとしたら,例えばモチーフを深掘りするとか,少女マンガとの関連,なぜ売れたのか(現代でも類型のものが売れている?),翻訳の難しいところ(世界的評価には翻訳の考察は欠かせない),などなど研究対象としてはアリか,多分資料もいくつか転がっていることだろう。
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