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書記の読書記録#223「ブリキの太鼓」

グラス(訳:池内紀)「ブリキの太鼓」のレビュー


レビュー

作者は1999年のノーベル文学賞を受賞しており,その理由は「遊戯と風刺に満ちた寓話的な作品によって,歴史の忘れられた側面を描き出した」としている。

本作は,『猫と鼠』(1961年),『犬の年』(1963年)と続く,いわゆる「ダンツィヒ三部作」の最初を飾る作品であり,第二次世界大戦後のドイツ文学における最も重要な作品の一つに数えられる。

筋としては,精神病院の住人である30歳のオスカル・マツェラートが看護人相手に自らの半生を語るという形で物語は進行していく。そこでの自画像は,3歳で成長が止まりブリキの太鼓を自己表現の手段として事あるごとに叩くといったもの。ただ,例えば異性への興味といった点では,3歳であることよりかは,30歳で失いつつあるものといった意味合いを感じさせる。また,善悪を超越した自我の象徴でもあろう。破壊神,とまではいかないが,間違いなくそれに準ずるパワーを有しているように思う。

語りの特徴に,一人称と三人称の混在が挙げられる。オスカルの体験した世界は,自分が見る景色のみならず,俯瞰した人々のうねりも含まれていた。内省と哄笑が入り混じる文体に,読んでいるこちらが分裂しそうであった。


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Writer_Rinka
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