思い出「川の主」
【父親の趣味】
4歳の時、俺は三郷団地に住んでいた。
この頃父親は、釣りが大好きでよく一緒に連れて行ってもらっていた。
父親は、俺に釣りの楽しさを覚えこませたかったらしい。
俺専用の小さい釣り竿も買ってもらい、一緒に釣りをしていた。
でも俺は、釣りが大嫌いで一緒に行っても全然落ち着かない。
魚がかかるまで、じっと待っているのが退屈で嫌だった。
釣りに行く場所は、近所の第2大場川。
ここは、完全に人工的に作った川だった。
この川は、本当の川の大場川と繋がっていた。
そして、大場川に生活排水を浄化して流す川だった。
この第2大場川には、大場川から魚が入ってきている。
その魚をいつも釣りに行っていた。
【魚の知恵】
ある日、父親に連れられて第2大場川に釣りに来ていた時の事。
俺は、釣竿の根元を土に埋めて固定し、近くで遊んでいた。
そうしたら父親に「魚がかかってるぞー!」と呼ばた。
俺は、急いで釣り竿のある場所に向かってみた。
そして釣竿を見てみたら、凄く大きな魚が餌を食べ始めている。
急いで釣り竿を上げようとしたら父親に「まだまて!」と言われた。
その魚は、針についた餌をツンツンして少しずつ食べている。
父親は「その内針ごとバクっと餌を食べるからそれまで待て」と言う。
ここの魚は、釣り人が沢山来て魚も知恵をつけ警戒心が強い。
俺は、この話を父親から事前に聞いていたのでエサの食べ方に納得できた。
当時の俺は「魚の脳みそでそんな事学習できるんだ!」と凄く驚いた。
そして、その魚が餌をツンツンして動く浮きを、真剣に見つめていた。
魚が針を口に入れれば、浮きが沈むからその瞬間を狙えと言う。
俺は、必ず針ごと食べる瞬間が来ると信じて待った。
【空を駆ける】
そして、その凄く大きな魚が針ごと食べる瞬間が来た!
浮きが一気に川の中に沈のが見えた!
その瞬間父親が「いまだ引け!」と叫ぶ。
俺は、力いっぱい釣竿を持ち上げた。
そうしたら、想像以上の力が釣り竿にかかり驚愕した。
「え?!これが魚の力なの?」とビックリするほど引きが強い。
地面に足が付けない川で、これだけ踏ん張れる魚の泳ぎを初めて体感した。
この時俺は、魚も人間が地上を走る力で、水中を泳げる事を理解した。
そして俺は、魚の引きの強さの力比べを始めた。
でも、すぐ腕が疲れて一瞬力を抜いてしまった。
そうしたら俺は、魚に引っ張られ勢いよく空中に飛び出した。
この瞬間俺は、まるで空を飛んでいる様な感じがした。
はたから見れば一瞬の出来事だったかもしれない。
でも俺にとっては、凄く長い時間空中にいた気がする。
【怪獣フナゴン】
そして俺は、川に向かって豪快に「ドボン!」とダイブしてしまった。
川は2m位の浅い川で流れも無かったので、すぐ浮く事が出来た。
遠くからは、父親が「得意の平泳ぎで戻ってこーい!」と叫んでいる。
俺は、2m位先の地上まで平泳ぎで戻っていった。
陸に上がったら俺は、魚の強さに呆然としてしまった。
そしてあの人間様に食われている魚が、怪獣に見えてしまった。
この後、びしょ濡れの状態で父親にあの怪獣はどんな怪獣か聞いてみた。
父親が言うには、1m以上あるフナという魚だったという。
そして俺は、あの魚を「怪獣フナゴン」と名付けた。
この後、濡れたままだと風邪を引くので釣りを切り上げ家に帰っていった。
次の週また父親に釣りに行こうと誘われたが怪獣フナゴンが怖くて断った。
また川に投げ出されるのは、ごめんだ。
夕方父親が釣りから帰ってきた。
そうしたら、父親があの怪獣フナゴンを釣って来た!
この時父親は、満面の笑みで「敵を取ってやったぞ」と言っていた。
父親は、怪獣フナゴンを釣った事が凄く嬉しかったのか魚拓を取っていた。
よく見ていると確かに超でかい魚で、まさに怪獣だった。
120㎝位あり、俺と同じ位の大きさだ。
この後父親が、魚をさばけない母親に無茶ぶりをして、フナを料理させた。
そして出来上がったフナ焼きは、凄く泥臭くてまずかった。