思い出「人が作りし神の住処」
【生態系の融合】
6歳の時。
父親と一緒に釣りに行っていた。
行った場所は、近くにある川。
当時三郷団地に住んでいて、近くに人工的に作った川があった。
名前は「第2大湯川」
この川は、完全にコンクリートで出来た川らしくない川だった。
でも、こんな川でも何故か魚が沢山いた。
ザリガニもいて、タニシもたくさんいた。
一体こんな人工的な川にどうやって、魚が来たのか良く解らない。
なぜならこの川のスタート地点は、コンクリートの壁になっていたからだ。
湧水が沸いている訳でも無く、他の川と繋がっている訳でも無かった。
本当に、ただのコンクリートで出来た川の道だった。
ここの水は、生活排水と、雨水のみ流れていたはず。
恐らく、水を浄化する為に色々な生物を放流したのだと思われる。
それに、ペットの魚も放流されたのかもしれない。
そんな魚たちが、繁殖した川っぽかった。
【川の主】
この日父親は、練り餌と釣竿を持って魚を釣りに行った。
そこに俺もついて行ってみた。
父親に、こんな汚い川に魚なんているのか聞いてみたら。
噂では「雷魚」と言う魚がいるらしい。
その魚は、この川のボスで誰にも釣り上げられないと言う。
当時の俺は、そんな知能が高い魚がいる事を本気で信じていた。
しばらく釣りをしていると川の底に生えた草から物凄く大な物がでてくる。
ドジョウにも似ていたが、明らかにドジョウより大きい。
向かい側の草むらから出て来た。
父親に教えたら、あれが雷魚だと言う。
とても頭が良くて、人の言葉を話すらしい。
何より、水から出ても我々と同じ様に、空気で呼吸ができると言っていた。
だから、川に住む神と言うボスになったと話していた。
当時の俺は、全部真に受けて信じてしまっていた。
正確には、人の言葉を話すと言う事だけが嘘だった。
空気呼吸は、マジで出来る。
【霊獣界の川】
俺は、あんな霊獣みたいなものを釣り上げる事なんて無理だと感じていた。
でも、確かにそうだった。
父親が2年前見た時から、まだ誰も釣り上げられなかったからだ。
相当警戒心が強いらしい。
そして賢い。
その魚を父親は釣り上げたかったのだ。
でも距離が遠くて、釣り竿では届かなかった。
父親は、残念な顔をして諦め別の魚を狙う事にした。
と言っても、適当に釣るようだったが。
この川には、どんな魚がいるのか全く解らない。
人工的に放流した川だから、生態系がめちゃくちゃなのだ。
俺も、父親に短い竿を借りて釣りをしてみた。
でも、じっとしていられなくて数秒で飽きた。
それより、練り餌の匂いがおいしそうでたまらなく気になった。
食べてみて良いか聞いたら川の水で練った餌だから絶対食うなと言われた。
【異空間ダイブ】
この後もしばらく釣りをしていた。
そうしたら、向かい側のフェンスを乗り越えてくる子がいた。
その子は、川側のフェンス沿いに歩いて遊んでいるようだった。
父親が「危ないから道に戻れ!」と怒鳴った。
でもその子は、言う事を聞かず「大丈夫!」だと言っていた。
その瞬間、その子は足を滑らせて川に落ちてしまった。
その子は、浮き上がってきて呆然としている。
父親が「泳げるか―!」と言ったら、その子は我に返った。
そして「うん!」と返事をして、近くの階段まで泳いでいった。
その子が川から出た時、全身泥だらけだったのを覚えている。
多分、川底に溜まったヘドロに一瞬埋まったのだろう。
その子は、そのまま家に戻っていた。
家についたら物凄い悪臭と前進泥だらけの姿で、親はびっくりするだろう。
俺は、それを想像しても笑えなかった。
あんな馬鹿な事、自分もやりかねないと感じていた。
父親もそう感じたのか「絶対あんな事するな!死ぬからな!」と言われた。
でも実は、俺もフェンスを乗り越え歩いてみたい衝動がった。
でも、怒られるのが怖くてやらなかった。