燈台1
退屈な午後に母を連れてドライブにでた。行き先を決めずに車をだし、分岐点となる地下道の入り口の丁字路で、東海道線の上り列車が通過したのをみて、それがすすむ方角へハンドルをきった。そのまま道なりに国道へ出てまっすぐと進み、考えがまとまった頃に看板に案内がではじめた岬の灯台へとむかうことに決めた。空は澄んで、道は普段よりも幾分かすいていた。
らせん状の階段を何周分かのぼると灯台の踊り場にでた。眼下の海はおだやかだったが、踊り場は風が強く、足ががくついた。吹き飛ばされてきたすすきの穂が飛び交い、天の川のようにきらきらと輝いてから肩越しに散った。東からの風だった。高所が苦手な母は、ろくに考えもせずわざわざこんなところにのぼってきてしまったことを後悔した。岬の草原をながめると、巨大な白い穂をつけたすすきの一種が異様な存在感をもって群生していた。
「むかしの人はあれを見て九尾の狐を幻想したのかしら」
と足をふるわせながら母はつぶやいた。
わたしが、ああ、と気のない返事をしたので、
「どちらかではなく、きっと両方をみたのね」
と独り言ちた。
地上へもどるとしかし風はなく、草木はみじんも揺れることなく直立していた。がくついた足を正すように灯台のある高台から階段をくだり、海へとでた。ここへきて半時間ほどがたっていたが、海は少しずつ満ちはじめていたようだった。
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