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世を忍んでデッキに潜む航空ファン

 世を忍んでデッキに潜む航空ファンは、スーツを着て黒いビジネスバッグを片手に、飛び立とうとする旅客機を見つめていた。だだっ広い空港に愛着も興味もなく、面倒な出張に駆り出される我が身を呪うだけの時間つぶしのしがないサラリーマン。端から見ればそうでしかなかったが、真実、彼のバッグの中には、300mm以上を有する望遠レンズをつけたカメラが丁寧に隠されていた。それに通うべき会社はとうの昔に無くしていた。

日々の生活と共に、お目当の便を滑走路に迎え入れるために身を熱くしているのを悟られまいと、すこぶる怪訝な顔で腕に目をやりため息をついた。眼鏡の中の瞳は日々の労働の疲れを物質化するために躍起になっているようだった。

しかし、お目当の便がくると瞳は瞬時に瓦解して、美しい揺らぎの中に飛行機を迎え入れるための別の滑走路となった。それは彼にとってのひとつの生活の「答え」だったが、飛行機のエンジンが落ちると「問い」のかたちにもどった。

彼は帰りがけにデッキの自販機で1本の缶コーヒーを買い、締まりのない雨のように散った時間をひと束に引き寄せて編み上げるための薬味とした。

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