年寄り扱いしくさって
まごころサポートにはさまざまな相談が舞い込みます。今回は文書作成のお手伝い。
「これをパソコンで打って、印刷してほしいんや」
お伺いするなり、手書きの紙の束を渡される。隣人とのトラブルを解消するために、これまでのことを記録していたものだった。
90歳近いこの男性、これまでは自力で文書を作成していたが、病や衰えでそれもできなくなり、方々相談した結果、まごころサポートに辿り着いた。
とにかく怒っている。内容についてよりも、相手や相談先が、自分を老人扱いしていることがたまらなく腹立たしい。記録は事実をよく集めているし、何度も書き足した後がある。これだけのものを作成するのは、ボクには無理だ。まるでご自分の存在価値を証明しようとしているかのように、男性は書き連ねたのだろう。
「あいつら、ワシを年寄り扱いしくさって」
打ち込み作業は6回に渡った。持ち帰って打ち込んだこともあれば、ご自宅でそのまま聞き書きもした。思い出したように電話がかかってきた夜もあれば、感情が溢れてしまって、聞き取れないこともあった。
何度目かの時、ふと家族のことを聞かれた。ボクのことを少し話すと、男性は万年床で天井を眺めながら、ぽつりと言った。
「子どもなんて作るんじゃなかった」
それは、今目の前にいる、つい最近まで顔も知らなかった人間にしか、こんなに大切なことを頼むことができない、そんな悲しみにも聴こえたし、3人の子ども達の未来、行く末を思っての、親としての悔しさにも聴こえた。
そうして何度かのやりとりを重ね、20枚の書類が出来上がり、依頼はひとまず終わったが、お部屋の掃除も、食事のサポートも、きっとあったほうがいいだろう。何より、男性の感情を受け止めてくれる存在は不可欠だ。
帰り際。最初の頃の怒り声はもうどこかにいき、「ありがとう」の声は穏やかだった。
2日後に電話がきた。息子さんが顔を見にきてくれたそうだ。嬉しかったんだろうか。
シニアと交わると、感じること。
それは決してひとくくりにはできないということ。それと、子どもたちとよく似ているということ。
感情が先走って、自分でも説明のつかないことをしてしまうけど、じっくり話に耳を傾けてると、落ち着いて、対話ができるようになる。
それを繰り返すと、心を開いてくれて、本当に言いたかったことを教えてくれる。
よく我慢できるねとか
それは大変ですね
いやいや、そんなことはなくて。
これはまるで宝探し。あるいはサイエンス。誰にも見つけられずにいたものが見つかる時のワクワク。だから、必要以上に役に立とうとも、思わなくていい。
この感覚は、子育てにもシニアサポートにも、すごく大切な向き合い方だと思っています。