唐茄子屋 平成中村座十月大歌舞伎
爆笑ライブ感満載のクドカン新作歌舞伎
平成中村座第二部 『唐茄子屋 不思議国之若旦那』
宮藤官九郎の新作歌舞伎。(ネタバレ有)
江戸時代の芝居小屋の雰囲気を再現することをコンセプトのひとつとしてはじまった平成中村座。コロナ禍での中断から復活し、浅草寺の境内に仮設小屋を建設しての興行です。お茶子さん達も、歌舞伎座や新橋演舞場の制服姿の行儀のいい会場案内係と対照的に、場内案内もトイレの行列指示も元気いっぱいで楽しい雰囲気を盛り上げます。
『唐茄子屋』ご覧になった方のTweetで一部不評なんでどうかな、と思ってたんですが、スピード感MAX・情報量満載で面白かった。 クドカンの新作歌舞伎としては『大江戸りびんぐでっど』(2009)があって、故勘三郎・勘九郎・七之助の中村屋に加えて松本幸四郎も故坂東三津五郎もでていたのですが、それよりずっと面白い。
『りびんぐでっど』は、非正規雇用云々の現代の問題をネタにしたけど完全に消化不良。江戸にぞんびが大量発生するが、意思を持たないかれらを派遣し仕事させるお店が繁盛。失業者が発生しぞんびと対立する…てな話。ただ、現実の非正規雇用者に希望を与えるでもなく、叱咤するでもなく、よりそうでもなく、何を言いたいのか全く分からなかった。大体、ぞんびがいつの間にか増えなくなるし、ゾンビものとしても失格。
一方『唐茄子屋』は、吉原通いが過ぎて勘当された若旦那が、叔父さんの八百屋に転がり込み、天秤棒で唐茄子(かぼちゃ)を担いで初めての行商にでかけるが…てな話。落語が元ネタ。
”生きることなんて、みっともないこと(でも生きなければならない)”というテーマががっしりしているので、どんなにギャクやドタバタをちりばめても破綻しない。役者もネタを披露し続けるスピード感が楽しいみたいで、中村獅童も坂東彌十郎も生き生きしていた。
ただ、何を言われてもえっちな想像をしてしまう坊主達のネタがあって、そこが不評ポイント。確かに全く面白くないんです。下ネタだからというよりは、そこだけ浮いていて扱いに困る。 人の劣情の”みっともなさ”を盛り込みたかったのかもしれないんですが、明らかに失敗。まあ、最初から最後までギャグと台詞の情報量が膨大なので、滑ったネタがいっこあったね、的な印象でした。とにかく忙しくて楽しかった。
とはいえ何度も観たくなるような、再演を繰り返して古典となることを想定した演目ではなかった。勘九郎の若旦那が不思議之国/第二吉原に迷い込み、不思議の国のアリス的に彼の身体が縮小するシーンがあるんですが、長男勘太郎(11歳)・次男長三郎(9歳)がミニ勘九郎およびミニミニ勘九郎としてを登場。それぞれ可愛いんですが彼らが育ったらネタが成り立たないので、完全に2022年現在の中村屋への当て書きでした。
小屋の狭さと客席の一体感もあって、むしろお笑いのライブみたいな感じだったので、そういうもんだと思って満喫すればいいと思いましたけれども。
註: 第二部は『綾の鼓』も素晴らしかったです。