「ザ・プロフェッショナル 対テロ工作員の警告」(ゲイル・リバース著、落合信彦訳、光文社刊)

 国際ジャーナリスト落合信彦氏による特殊工作員へのインタビューを基にした超現実の世界の話である。ゲイル・リバース(仮名)は元特殊部隊員のビジネスマンだが、裏では傭兵としても活動している人物とされ、同氏へのインタビューを基にした本「ザ・スペシャリスト」(光文社刊)の続編にあたるのが本書である。

 いかにもマンガチックな設定の人物で、真実かどうか疑問に感じるというのが一読した人の大多数の意見ではないだろうか。真偽のほどは定かではないが、内容はかなり具体的であり、創作だとしても良く書けている。純粋にエンターテイメント作品として読んでもいいだろう。

 本書の刊行は1988年であり、すべて80年代の話となっており、このような人物が現在も存在するかどうかという点では大いに怪しい。

 というのも、暗殺などの特殊工作は、実行にあたってのリスクとその結果が引き起こす負の側面のほうが大きく、総合的に考えると現代では割に合わないやり方と言えるからである。選択肢は他に山ほどあることを考えれば、本書で描いているような破格の報酬でいち個人を雇うなど、非現実的とも言える。

 多額の金銭を用意しなければいけない場合というのは、大掛かりな工作のため必然的に経費が多額になる場合であって、いち個人への報酬として用意するのは不自然であろう。

 元特殊部隊員が欧米系の警備会社に所属し、武装警備員として中東やアフリカなどの危険地域で要人警護などの業務にあたる、という仕事の方が現実的である。

 本書の内容が真実かどうか疑わしいとする理由は他にもある。

 例えば、オーストリア製の9ミリピストルを機内持ち込みするという描写である。すべてプラスチックでできているため金属探知機に反応しないだろう、と書かれているが、金属探知機に反応しないようなピストルは存在しない。スプリングなどの金属部品が必ず使われているからである。

 また、「象だって吹っ飛ばすショットガン」という記載もある。実にさらりと書かれている。ところが、ショットガンは対戦車ミサイルではない。大口径ショットガンは存在するが、「象だって吹っ飛ばす」と言えるかどうかは疑問だ。こういう誇張した表現は、著者というより訳者の個性の問題かもしれないが。

 なお、本書後半では、1972年に起きたミュンヘンオリンピック人質占拠事件の後、イスラエルが放ったヒットチームによるテロリスト狩りのことが書かれているが、これはアメリカのドキュメンタリー番組で取り上げられたり、映画化されたりもしている話で、真実だと言われている。

 以上の通り胡散臭い部分もあるが、読み物としては面白いので、読んでも損はないだろう。

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