「大投資家ジム・ロジャーズ世界を行く」(ジム・ロジャーズ著、日本経済新聞社刊)
ジム・ロジャーズと言えば世界的に知られた著名投資家。若かりし頃にはジョージ・ソロスと組んで大成功を収めている。本書は、その彼がパートナーと共にバイクで世界を旅し、訪れる国々の投資環境について調べ、彼の思うところを語っていくという、紀行文調の投資本である。
著名投資家が書いた投資に関する本を読んでみたいが、難しいことはよくわからないのでお堅い本は遠慮したい、という読者には読みやすい本だと思われる。というのも本書は、バイクで世界を旅するというアドベンチャー的な要素をベースに書かれているため、小難しくて退屈な投資話が延々語られるのではないかと恐れる投資初心者の読者さえも飽きさせない本になっているからである。投資に興味がある、大成功を収めている投資家に興味がある、バイクに興味がある、海外旅行に興味がある、という方々にはまずまず受け入れてもらえるのではないだろうか。
旅はアイルランドからスタートして旧ソ連や中国を含むユーラシア大陸を通り、アフリカ、オセアニア、南米、そして北米と進んでいく。読者それぞれの思い入れのある国や地域も登場することだろう。そしてそれらの国や地域について、大投資家らしい(ジム・ロジャーズらしいと言うべきか)観点から投資話が綴られていく。
ところが、私が個人的に好きな東欧地域についてはさらりと流される。5行くらいに渡ってネガティブなことだけが書かれていて残念な結果であった。私にとってはいい思い出ばかりの素晴らしい国だったのだが…。
バイクで長期旅行をすることに伴う様々な苦労やトラブルにも遭遇する。バイクはBMWなので、BMWのディーラーが無い国での困難などについても語られる。
最後に余談になるが、興味深い話を一つ。ダイヤモンドは現在では高価な宝石として一般に知られているが、この石が高価なものとされるようになったのは実はわりと最近のことで、その理由はデビアス社による巧妙な広告戦略と市場への供給コントロールによるものだったとされる。そして今やそのダイヤモンドはアフリカ大陸の多数の国において利権争いの重要な要素となっている、ようである。デビアスのこの話自体は他の媒体でも報道されたりしているので知っていたが、鉱物的には決してきわめて希少というわけでもないのに、ダイヤモンドに対する世間一般のイメージは「希少ゆえに高価なもの」というのがほとんどではないだろうか。
バレンタインデーのチョコレートや初詣に見られる広告戦略の妙が、ここにも存在している。