初めての新車
私がクルマの免許を取ったのは少し遅くて、会社員として働き始めてから間もないころだった。免許を取ってすぐに、公道走行に慣れるという意味を含めて、中古のインプレッサワゴンを格安で購入した。
年式は古いし、すでに8万キロ近く走っていたクルマだったので高速道路こそ乗らなかったが、月一回は奥多摩までドライブに行き、運転する楽しさを私はこの車から学んだようなものだった。
3年ほど経ったころ(なんだかんだで3年も乗っていたのか)、私は仕事の都合で日本を離れることになり、それまで乗っていたインプレッサワゴンは、古くても構わないので不要になったらくれ、と言っていた兄の竜一に譲ることにした。渡航先の国では自家用に使うクルマを新たに用意することになるので、次のクルマのことを考えて楽しくなる一方、兄に譲った相棒のことを想うと若干胸が痛んだ。
さて、その渡航先の国についてだが、庶民レベルではトヨタのカムリがとにかく人気があって、その他、主要な日本車ディーラーはすべて揃っていて、のみならず、フォードやGM、ベンツ、BMW、クライスラー、ベントレー、フェラーリ、ポルシェなど、要するに世界中の自動車ディーラーが首都に店を構えていた。ヒュンダイの低価格車も人気があった。クルマの内装を自分の思い通りに改造してくれる業者や、銃撃だけでなく爆発物にも対応できるような完全防弾防護加工をしてくれる会社さえ、市内には存在していた。クルマに関してはいくらでも贅沢ができるユニークな国だったのである。
現地にわたり、地元の運転免許を無事に取得すると、私はさっそくディーラーを回ってクルマ選びを始めた。今回は中古車ではなく新車である。理由、外国でもあり、可能な限り車両に関するトラブルは避けたかったからである。ホンダのアコードも気になったが、マツダのディーラーで見かけたマツダ3(日本名アクセラ)のスタイリングが興味を惹き、試しに運転席に座ってみたところ、躍動感のあるあの3連メーターのインパクトがすっかり気に入ってしまった。「お買い上げありがとうございます」である。私はすぐに購入を決定してしまった。
実は、日本を出る前に兄に譲ったインプレッサワゴンはマツダのディーラーで買った中古車で、その縁もあってマツダの新車アクセラについては広告等を目にする機会が以前からあったのだが、アクセラの実車を日本でじっくり見る機会、というか興味、はほとんど無かったのだから面白い。名前は知っていたが、じっくり見たのは外国に来てからだったというわけだ。
車体カラーはオーロラブルーを選んだ。あまり見かけない色だが、私はこのオーロラブルーを選んで本当に良かったと今でも思っている。洗車してワックスがけした直後の車体は見る者を魅了するし、地平線の先まで続くフリーウェイを走り抜ける爽快感が倍増する。とにかく素晴らしい、の一言。いや、一言では語りつくせない思い出が、あのオーロラブルーにはある、と思う。
私のあの国での思い出は、青いマツダ3と共に存在しているのである。
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