「ザ・カルテル(上)(下)」(ドン・ウィンズロウ著、角川文庫刊)
メキシコの麻薬戦争を描いたドン・ウィンズロウによる一大叙事詩「犬の力」の続編。
前作も相当なものだったが、こちらもまた圧巻。とにかく重い、ヘビー。読む者を圧倒する、と言っては陳腐な形容だが、とにかく容赦のない現実が突き付けられ、軽い気持ちで読み流すことなど不可能。これから読み始めようとする人は心してかかってください、でもまず前作「犬の力」から読んでください、2作続けて読んで、ぜひともその疲労感までも体感してください、と言いたい。
さて、この手の世界にありがちな「元特殊部隊員で現在は民間警備会社社員」が政府がらみの特殊作戦に従事する、というのはよく聞く話。それはDEAやCIAなどの政府機関が直接手を下すことはできないが実際上は必要、ということで実行されるわけだが、対する麻薬組織側にも似たようなタイプがいる。米国の特殊部隊に鍛えられた現地の特殊部隊隊員が軍を退職し、その知識と経験を活かして麻薬組織に高給で雇われるというものだ。必然的に(と言って良いのかどうかわからないが)、彼らはその麻薬組織の中でも特に戦闘的なグループの一団となる。本作の中では「セータ隊」として描かれている。極悪非道の限りを尽くすと恐れられるが、もとをただせば先進国の特殊部隊が彼らを鍛え、「そのやり方」を教えたのではなかったか、という皮肉である。
過酷なまでに数奇な運命をたどる登場人物たちの群像劇は、前作に続いて本作でもやはり面白い。