『かまいたちの夜』にストックで殺されて人生が変わった少年の自己紹介
人生の転機になる作品は幾つか必ずあるもので『かまいたちの夜』は90年代にSFCで遊んでいた同世代の人間からするとその一つになってるんじゃないかなと勝手に思っている。少なくとも僕は今の仕事、何らかのコンテンツ制作に携わりたいと思ったキッカケの一つだと思っている。
だから自己紹介で書くのが丁度いいなと思った。
1994年当時私は小学6年生。
ゲームや漫画は人並みに好きだったけど、
自分がその作り手になるなんて事は全く考えていなかった。
どちらかというと映画やドラマやアニメを観ていて、何となく映像とお話に興味があった、と記憶している。
当時の私はゲームというのはマリオで左から右に走ってキンタマリオで笑いを取って、ストツーで昇龍拳が出ないのでしゃがみパンチで殴り合い、ドラクエではがねのつるぎを買うまで頑張るものだった。
勿論ドラクエや聖剣伝説2のストーリーは楽しんでいた。けど、それはあくまで敵と戦う動機づけ、そのために用意された一本道をひたすら楽しむ感覚。そこに自分は居なくて、傍から観ているものだった。ストーリーはゲームをクリアするためのスパイスぐらいの感覚だった。
そんな時、地元のゲーム屋で見たのが『かまいたちの夜』のチラシ。
何これ?ゲームで小説を読むの?選択して結末が変わる?…マジかよ!
その時、滅茶苦茶ドキドキしたことを覚えている。自分の選択で話を変えることができる。主人公になって物語に介入できる。一本道を歩くのではなくて、自分で開拓できる。当時はYoutubeなんてないし、実際の映像も見たことない。あるのはただA4にある宣伝用の文章ととまるで(当時からすれば)実写のようなスクリーンショット。
当時の私を想像で興奮させるにはそれで十分のトリガーだった。
そして、必死で12月にサンタさんに『かまいたちの夜』を熱望して手に入れることができた。今思うとそんな血なまぐさいタイトルをクリスマスプレゼントに懇願されたサンタも困っていたと思う。
クリスマスの次の日、ドキドキしてプレイした。
箱を開け、ゲームをやっていいという時間まで説明書を穴の空くほど読み、想像していた。(自分のテレビなんてものは無いから)
そして電源を入れて、『かまいたちの夜』をプレイする。
それは映画でもあり、小説でもありゲームでもあるという当時の少年からすれば非常にリッチな体験だった。
自分が大学生のカップルになり、冬のペンションに行きウキウキしているところに「こんや12じだれかがしぬ」という脅迫状が届き実際に殺人事件が起きてしまう。警察を呼ぼうにも吹雪で閉じ込められてしまい…。必死で推理するも中々わからない。ピンとこない。
そうこうしているウチに宿泊客の間は疑心暗鬼となり(この言葉を初めてしったのもこのゲームだった)、犯人が誰か分からないまま各自は自分の部屋に戻り恐怖の夜を迎える…。果たして朝を迎えることはできるのか…。
当時のSFCでは珍しい実写の背景でリアリティが増しつつ、人物がシルエットだけなので表情や人物性がいい具合で想像できるのでリアリティと妄想がちょうどよく脳みそにぶち込まれる感覚。
始めてみたエンディングは当然全滅バッドエンド。
次々と殺されていく登場人物たち。
犯人と疑われてしまい襲われる僕。抵抗して自らも人を殺めてしまう。
そしてそれを見ていた恋人にストックで突き殺されてしまう…。
「人殺し!」
僕はゲームの中で初めて死んだのだ。自分の責任と選択に於いて。
マリオが穴に落ちるでもなく、ドラクエのザキで粉々に勇者が砕けるでもなく、僕自身が死んだのだ。この体験は強烈だった。
当時まだマルチエンディングというものがピンときていなかった僕は「そうかこういう話だったのか…!」と、さもこれがトゥルーエンドだと一瞬勘違いしてしまうほど説得力のある見せ方だったと思う。
バッドエンドの後は、暗い森をバックに吹雪が流れ、延々とBGMが流れるだけのシーンが続くのだけども「何もできなかった絶望の夜」を体感しているようで本当に素晴らしいバッドエンド?だった。
ゲームっていうのはここまでできるのか!
こんなに人の心を持っていけるのか!すごい!
当時の僕は衝撃を受けた。この歳になってもまだ覚えているぐらい。
そこからだと思う。
何か自分もこういうの作ってみたいと思うようになったのは。
その後は自由学習のノート?にオリジナルのお話書くようになったり、中学生になってからはこっそり厨二病丸出しの小説を書くようになったり、演劇やったり映像作ったり…そして今に至ってしまう。
だから『かまいたちの夜』は僕の人生を変えたゲームであった。
あの時、真理にストックで喉笛突かれていなかったらこのイラストだの広告の仕事もしていなかったと思う。
(その後ゲームで言えば『MOTHER2』とか『学校であった怖い話』とか色々転機もあったと思うけど多分これが最初)