スウェーデンなんぞに行かないでくれ
20:00、バイト終わり。
惰性のようにLINEを見ると未読のメッセージがいくつか入っている。その中に、一番目につくものが一つ。
貴方のスウェーデンへの便が確定した、というメッセージ。飛び立つ日にちと時間。それ以外に情報はない。
スマホを仕舞い、傘を差しながら帰路につく。ふと、貴方の書いたnoteのことを思い出した。私について言及があったその記事を読んだので、返歌ならぬ返noteをしようと思う。
”貴方”こと、スウェーデンの君とは本当に運命的な出会いをした。
けれど諸君。運命的な出会いをした”その瞬間”には気づかないのだ。振り返ってみて初めて、あれが運命だったのだと気づく。
いつからこんなに大事な存在になっていたのか分からない。どこにでもあるような出会いだったのに。
スウェーデンの君は同じ学部の友で、一年間留学へ行く。
貴方が留学に行きたいことは知っていたので、覚悟はできていたけれど、学生時代の1年の大きさを想うと行かないでほしい、というのが素直な気持ちだ。
当初、そんなことを考えるなど友失格だと自分を罵っていた。応援して、未練などないそぶりをして送り出すのが本当の友情だろうと。
だからこそ、貴方の留学が決まった際には一緒に喜んだ。勿論その気持ちに嘘はない。私自身、大学で履修している授業によって留学を断念する羽目になり、行くことのできない辛さを知っていたので、素直におめでとうと言えたのだ。
けれどしばらくして、留学の影が見えるようになった。会うたびに何故か寂しくなった。会うたびに、このまま日本にいてくれたらいいのにと思うようになってしまった。最低野郎だと自分でも思う。
そんなある時、大学で二人、授業を受け終わった時のことだった。だいぶ疲れていたようで、隣で授業を受けていた貴方を見ながらふいに「留学に行かないでほしい」と口を滑らせてしまったのだった。
その時の衝撃は今でも覚えている。言ってしまったとすぐに後悔をした。言い訳をしようとしたさなか、貴方はこちらを見て「嬉しい」と言った。更に衝撃を受けた。
その後、私が引き止めの言葉を言わないことに寂しさを覚えていたと教えてくれた。なんだ、と思った。もっと早くに言っておけばよかった。
友を応援できないなど、最低の極みだと思っていたが、貴方がその一言で喜んでくれるのなら最低野郎でもなんでも良い。
それ以来彼女に会うたびに行かないでくれと言っている。ごめんね。
この前貴方のnoteを見た時、最近私が「彼氏が欲しいと嘆いている」らしきことを言及していたが、本当のところ貴方さえいてくれれば彼氏はいなくてもいいのだ。
きっと彼氏に求めていることと、貴方に求めていることはほどんど同じもので、長い間会えなくなる貴方の代わりを無意識に探しているのかもしれない。そうだったら怖い。自分で言うのもなんだけど重い。
なんでも話せる人がほしい。夜中まで、寝たら忘れてしまいそうなとりとめもないことをずっと話していたい。
それが貴方ならどんなに良いことか。この瞬間にも会いたいよ。
これからの一年間、貴方無しの生活を送るのだと思うと吐いてしまいそうだ。
基本的に私は人が好きだけれど、深入りしないことが多い。
だからこそ、貴方が他の誰かと仲良くしているとき、とられてしまうのではないかと不安になり、同時に愕然とした。自分にそんな気持ちがあったなんで思いもしなかった。去る者は追わず来る者は拒まず。
なんなら皆大好きで、そんな大好きな皆が誰かと仲良くしているのは微笑ましいことだったのに。
実際のところ、貴方との仲は良い方であると思うし、もしかすると親友と呼べる仲なのではないかと考えたこともある。
けれど否定されるのが怖くて、ずっと関係に名前を付けられなかった。貴方のことになると私はいつも臆病になる。
だから或る時、貴方が何気なく私に言った「親友」という言葉に衝撃を受けて、聞き返してしまったことさえあった。関係に名前がついただけでこんなにも浮かれた気持ちになるなんて私は知らなかった。
口に出すことが難しかったその言葉を貴方はいともたやすく言い放ち、私に明るさをくれたすごい人。私には本当に眩しい。
と、この辺りでスウェーデンの君への想いを書くのはやめにしておこうと思う。これ以降は貴方に会ったとき、直接言うことにする。
最後に、これだけは知っていて欲しいと思うことを伝えておく。
行かないでほしいと思うくらい、行った先で思いきり楽しんで成長して充実した一年を過ごしてくれと願っている。本当だよ。
貴方は優しいから、「LINEする」とか「zoomで話す?」とか、連絡をとりあおうとしてくれる。
けれど留学期間内では、心置きなく私のことは忘れてほしいんだ。もしかすると思い出す暇もないくらい最高の日々が待っているかもしれない。そうであったら私は嬉しい。
留学までもう少し。近々、夜まで話明かす約束をしよう。
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