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RX 1章4話 初歩 ♪Enemies
①
レスラーになる夢へ向かって、
人生の大挑戦がはじまった中学時代。
図書室の奥で、職業図鑑を手に取る。
ぶ厚いページをめくり続けて発見。
"プロレスラーになるには"
今の僕にとって最も大事な情報だ。
一文字も見落とさないよう目を凝らす。
黄ばんだ紙に小さく書かれていた。
柔道の経験があるレスラーは多いと。
幼少期から僕を苦しめてきた喘息は、
幸いにも、症状が落ち着いていた。
体の成長につれて、呪いから解放された。
柔道をやろう。
そう決心すると誰かの足音が聞こえ、
慌てて本を閉じ、指を挟んでしまった。
レスラーを目指すことへの後ろめたさ。
ぬぐい去るには、強くなるしかない。
②
おびえた足取りで、武道場に踏み入れる。
床一面は緑色の畳。
はだしの感触が冷たく、青くさい香りと、
殺気が漂っている緊張感に物おじした。
辺りは強そうな外見の人ばかり。
丸刈りの頭、いかつい顔、ふくらんだ耳。
見渡して震えあがった僕は、
大きな柔道着にそでを通す。
初々しい白帯。
結び方がわからず、強引に締めつけた。
年配の指導者が現れ、練習が始まる。
最初から慣れない動きに置いていかれ、
マット運動では回り続け、目まいがした。
基本動作を習ったあと、互いに向き合う。
相手を倒したほうが勝ちとなる力比べ。
道着を握りしめて全力を振りしぼるが、
相手はビクともせず、頑丈な岩みたい。
次の瞬間、
僕は畳の上に寝転がっていた。
力の差に歯が立たず、いとも簡単に倒される。
みじめな現実を思い知らされ、
自分の無力さに打ちひしがれた。
敗北の苦汁。やっぱり僕は弱いんだ・・・
③
しかし、そのショックが僕に火をつける。
完敗をバネに ふるい立ち、
強くなりたい一心で、行動力が加速。
本屋でプロレス雑誌を読みこみ、
トレーニング方法を吸収する。
腕立て伏せ、スクワット。
初めは わずか数回で力尽きるも、
毎日の継続で、着実に回数を積み重ねた。
リングの上に立つ日をイメージしながら、
レスラーを夢見て、ひたむきに努力する。
骨と皮だけだった貧相な体に、
少しずつ筋肉が身に付いた。
成長をひしひしと実感し、笑みをこぼす。
だが現状は、すぐには変わらない。
身長・体重測定。今回もクラス最低数値。
僕は常にみんなを見上げていた。
周りは僕を見下ろす。いや、見くだす。
「おい、チビ」
突きつけられた劣等感。
屈辱が胸をえぐり、敵対心を宿した。
負けるな、びびるな、歩みを止めるな。
弱い自分を変え、強くなってみせるぞ。
(つづく)
♪エネミーズ(シャインダウン)
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