ポケカバブルとその崩壊を考察する

空前絶後のポケモンカードブーム。
その背景にはポケモンカードが投資対象として優秀だと見られ始めたことがあります。
そんな最中、カードに対する価値が上昇し続けたことにより、誰が名付けたかポケカバブルと呼ばれるような市場になりました。
バブルといえば1980年代後半から1990年代前半までの日本な異常な好景気を指す用語ですが、ポケカバブルを考える前に何故日本経済においてバブル景気が発生したのかをおさらいしましょう。

バブルの発生と崩壊


きっかけは1985年、G5でプラザ合意が結ばれたことだと言われています。
プラザ合意とは、簡単に言うとアメリカがドル高が原因で貿易赤字がひどいから皆で頑張ってドル下げしてよ!合意ヨロ!というものです。
それまで円安で輸出がやり易かった日本でしたが、このプラザ合意をきっかけにドル安円高が加速し、輸出産業に大打撃を受けることとなってしまいました。
それを見かねた日本政府、日銀は低金利政策をとることでこの不況を解決しようと試みました。
金利が安くなり、お金が借りやすくなることで企業が設備投資等しやすくなり、会社を持ち直したりできるやろ?という目論見です。
しかし皆賢いもので、低金利でお金借りれるならそれを投資に回してお金増やせんじゃね?と考えはじめて不動産や株にもお金が回ることとなります。
するとどんどん低金利で融資を受け、土地や株式に資金が回っていき、地価や株価が異常な上昇を続けます。
そうすると「あれ、いつ買ってもそれより高い値段で誰かが買ってくれるんちゃう?ならお金借りて買っても低金利だし金利払っても儲かるやん!ほなお金借りて買お!」という考えとなり、上昇が止まらなくなります。
バブル期における土地神話が誕生するわけです。
しかしそうなると上昇した株価や地価には実態を伴っていません。
株価を上げた企業がすごい業績を出したわけでもなく、地価が高騰した土地にお店を建てれば客足がめちゃくちゃ増えるわけでもありません。飽くまで「上昇し続けるであろう」という情報に価値がついてしまっているのです。
こうなればお国も黙ってみているわけにはいかなくなり政府が「総量規制」「公定歩合の引き上げ」という政策を打ち出します。
それまでは金融機関も「どうせ貸しても投資成功して耳揃えて返してくれるし、仮に返されんかっても株価や地価上がってるから担保とっときゃ損せんやろ」理論で貸付しまくっていたのを「やりすぎんなよ」とお上から言われてしまったわけです。
そうなると大変、お金を借りて投資をしていた人たちがお金を借りれなくなってしまい、投資ができなくなってしまいます。
そうなると必然的にこのマネーゲームは終焉を迎え、不景気への扉が開かれることとなりました。

と、ここまでが日本で起きたバブル景気を噛み砕いて書きなぐったわけですが、なるほど確かに今のポケカ市場と似ていると感じなくもないですね。ポケカバブル、言いえて妙です。

さて、それでは次に本題、ポケカバブルについて考えていきましょう。
ポケカバブルが始まる以前からトレーディングカードに想像を遥かに越える価値がついていたものはありました。
何百万円、何千万円の価値があるものがカード1枚と考えると保管場所にも困ることがないので投資対象としては優秀の類に入るでしょう。
有名なものだとマジックザ・ギャザリングのブラックロータスα版のPSA10でしょうか。
なんとこのカード、マジックザ・ギャザリングが発売開始された当時に収録されていたもので再録がない中、完品であることを保証するPSAグレード10の評価がついているという希少価値がかなり高いものです。
しかしながら現在のポケモンカードを見ていると現行パックから出るカードでも10万円近くの価値がついてるものもあります。
何故、希少性の低いものでもこのような価値がついてしまうようになってしまったのでしょうか?

ポケカバブルと呼ばれる事象は3度起こったと言われています
1度目は2017年から2018年、当時ポケモンカードより遊戯人工が多かった遊戯王オフィシャルカードゲームによるルール改定がきっかけだと言われています。
当時、大幅なルール変更をした遊戯王に対して不満を持つプレイヤーが多く、遊戯王を引退していくプレイヤーたちが次に遊べるカードゲームとして注目を集めたのがポケモンカードゲームでした。新たにプレイヤー人口が増えたことにより、想定していた需要を大きく上回ってしまい生産が追い付かなくなることでカードに対する値段が上がってしまいました。
これについては株式会社ポケモンが生産体制を強化し、販売数を増加させたことにより解消されたようです。おそらく新規プレイヤーでも全員がそのまま定着することはなかったため、しばらくはポケモンカードが在庫過多となってしまったようです。
2度目のポケカバブルは2020年、コロナ禍に起きました。
当時発売されたシャイニースターVはいつでもどこでも売り切れ、再入荷しても瞬く間に完売してしまうという異常事態となりました。
この頃、シャイニースターVから排出される人気カードの「マリィ」には3万円から4万円の価値がついており、その後発売されたイーブイヒーローズや蒼空ストリームから排出されるレアカードには6万円の価値がついておりました。
こうなった根本的な要因はやはりコロナと密接な関係があると考えられます。今まで娯楽で使っていたお金がコロナのせいで使えない、そうなったときに投資対象として注目されたのがポケモンカードだったのでしょう。
ラッキーなことに株式会社ポケモンの生産体制以上にこのポケカの投資性に食いついた人が多かったため、現行パックでありながら希少性が増すこととなり、絶版とならなくても絶版と同じような扱いをされることと相成ったわけです。
しかし、ポケカバブルは一旦2022年の秋あたりから少しの落ち着きを見せます。一時期10万円近くまで価値が上昇したマリィも3万円ほどまで落ち着きました。
しかし、2022年の年末から現在にかけて、3度目のポケカバブルが押し寄せてきます。
落ちたと思ったカード価値がこの短スパンのうちにまた上昇を続け、更にはピーク時を越える価値がつき始めています。
何故この短期間で再度急騰することになったのでしょうか?

私は要因は3つある、と考えています。

①カードショップの急増
1度目、2度目のポケカバブルを経験してトレカが儲かると直感した個人や別事業をしていた企業がカードショップを出店し、その数は指数関数的に増加しました。 
実店舗を構えたショップだけじゃなく、固定費が少なく済むネットショップも含めるとその数は膨大です。
尚且つ、他事業にて潤沢な資金を確保した状態で開業するカードショップも多かったため、他社よりも高くカードを買い取ることができ、また、競合他社も負けじと追随することで価値があがっている側面もあると思われます。

②完品の希少さに注目され始めた
投資対象として動かされているトレカは、もちろんその保存状態によってその価値が左右されます。
ブラックロータスの例で説明しましたが、PSAというカードの真贋や状態を鑑定してくれる機関が保証をしてくれるとその価値は未鑑定のカードに比べてかなり上がることとなります。
そんなPSAの鑑定で最高評価を貰えるくらいのグレードを完品と称することとなるとその数は年代が古いカードになるほど少なくなります。
ポケカバブルが発生するまではポケモンカードに対しての美品、完品の評価はそれほどでもなく、多少の傷でもパッと見て目立つものでなければ許容されていた側面もありました。
しかしながらPSA鑑定の普及、ポケモンカードコレクターの増加によって美品、完品のハードルがどんどん高くなり始めます。
例えば製造時についてしまう初期傷や裁断傷(ユーザーの保管状況によってどうにもならないもの)やカードにイラストをプリントする際にちゃんと中心に印刷されているか(センタリング)等もその価値を左右しています。
そうして上がったハードルを越えられる状態のカードは少なくなり、その希少性故にカードショップやコレクターは高値をつけている状態となっております。

③情報戦のエスカレート
バブル経済の説明時に「情報に価値がついている」と書きましたが、それが今ポケモンカードでも起こっているように感じられます。
最近顕著にその傾向が感じられたカードが強化拡張パック「トリプレットビート」に収録された「キハダ」と「コイキング」です。
今までポケモンカードでは可愛い女性のイラストが書かれたレアリティの高いカードは価値も高い、というのが共通認識でした。最初は所謂「オタク」層が可愛いイラストのカードをコレクションしたい、というところから始まったのでしょうが、今現在では「可愛い女の子イラストが書かれたカードは価値がつくに違いない」という情報に価値がついている状態といっても過言ではないと私は感じています。
「トリプレットビート」の前のパック「バイオレットex」に収録された「ミモザ」という女の子のイラストが書かれたカードにはかなり高い値付けがされ、次の「キハダ」もイラストが発表されたときは盛り上がっていました。
しかし、いざ発売されると「あれ、確かに可愛いけどミモザほどじゃなくない…?」という声が沸き始め、次第に「ミモザほどじゃないということはミモザより高値がつかないだろう」という声にシフトし、実際にその価値は販売当初から大幅な下落を辿ることになってしまいます。ここにはキハダはミモザほど可愛くないという声に共感を抱くユーザーが多かったという背景はもちろんありますが、その情報を聞き付けた投資家達がキハダに投資をしなかったことも一因としてあるでしょう。
キハダはミモザほど可愛くない、この情報がキハダのカードに価値をつけることを許さなかったのです。
反対の例が「コイキング」だと私は考えています。
キハダと同じく「トリプレットビート」に収録されているカードですが、そのレアリティはそこまで高くなく、印刷枚数もかなり多いカードとなっております。
そんなコイキングですが、カードショップが2500円から3000円の買取価格を発表しています。そこまで当たる確率が低いわけでもないカードに1BOXの約半分の値段がつくのは極めて異常なことです。
この背景にはコイキングのイラストが関係しています。
コイキングのカードイラストを担当されたイラストレーターさんはカンダシンジさんという緻密な描写を得意とする方ですが、このイラストがアーティスティックで素晴らしいという声がイラスト発表当初からありました。
発売後も「イラストがいいから何枚でも集めたい」「このイラストのこだわりはここでずっと見ていられる」等の声が多くあがり、純粋に集めて飾りたいコレクターに加え、その情報を入手した投資家達がこのカードを買い集め、市場に出回る量が少なくなったことで価値があがってしまっていると考えられます。
ここ半年でポケカ投資家と名乗るユーザー達が現れ、いかに一般ユーザーを煽動できるかというところでも大きな情報戦が繰り広げられており、まさしくバブルの名に恥じない市場になっていると考えられます。

ここまでが今、ポケカバブルが起こり続けていることに関する私なりの考えです。

ではこのバブル、はじけることはあるのでしょうか?
答えはイエスで間違いないでしょう。市場にあるお金の総量が決まっている限り、このマネーゲームにも終わりがあると考えられます。
ではバブル経済崩壊のきっかけになった総量規制や公定歩合の引き上げにあたる事象がポケモンカードにおいて起こり得るのかを考えてみましょう。

想定要因①株式会社ポケモンが生産体制を強化し、全てのユーザーにカードが行き渡るようになること。
これは一度目のバブル崩壊のきっかけとなった事象です。
しかしながら一度それで供給過多になってしまった株式会社ポケモンが同じ失敗を踏むとは考えづらいです。
しかも、今は「手に入らないから欲しい」層が多く存在しています。これは純粋なポケモンカードプレイヤー、コレクター、投資家とは違って「手に入れることが容易ではない」ことに価値を見いだす人間、つまりは手に入りにくいものも手に入れて定価以上で市場に流す行為でお金を稼ぐことを目的とした層です。
この層がポケモンカードの新弾ニーズの多くを占めていると考えられるため、全てのユーザーに行き渡るように生産強化をしてしまうと、この層が一気に離れ、突如供給過多を起こしてしまうのです。
最近だとシャドウバースエボルヴやワンピースカードゲーム、PlayStation5などがその例としてあげられるでしょう。
株式会社ポケモンはおそらくこのバランスを見ながら生産体制を整えているのではないでしょうか。もちろんこれが全てではありませんが。
想定要因②国からの規制が入ること。
さてはて、自由市場となっているトレカに国が介入なんてありえるのでしょうか?
実はこれが最もバブル崩壊の引き金になる可能性が高いのではないか、と私は考えています。
実はこのポケカバブルの背景にはここまで記述していない大きな要因があります。
それが「オリパ」です。
オリパとはオリジナルパックの略称であり、通常メーカーが発売しているカードパックとは違い個々の売り手が封入するカードを決めて、パックを作成したものです。
通常メーカーが作成するカードパックは人件費、材料代等を原価として計上し、一定の利益をとることで儲けを出しています。
しかし、個々が作成するオリジナルパックの原価はカードの仕入れ値、つまりコレクター価格となってしまいます。
例えば全部で10Pのオリパを作成して、封入するカードを20,000円、10,000円、5,000円、3,000円、2,000円、200円×5、とした場合、総額41,000円、10Pで割ると1Pあたり4,100円、ここに利益をのせて1P4,500円から5,000円で販売するのです。
すると5,000円に対して20,000円のカードが手に入ったり、逆に200円のカードしか手に入らなかったりするかたちとなります。
あれ、これギャンブルじゃね?と思ったそこのあなた。
正解です。このオリパという商品、購入層のほとんどはギャンブラーです。
ただ、現在の法律と照らし合わせると確実に違法と言い切れる法的根拠もなければ判例もないため、現状はグレーであるという位置付けであると言えます。
このオリパ、1P200円あたりの優しいものから10万円や20万円のものといった驚くような価格帯のものまであります。実はこれが多くの市場に出回ったカードの出口として機能しているのです。
このオリパブームの裏にはYouTuberの動画があったりしますが、とにもかくにもこのオリパが巷では大流行しています。お店によってはオリパだけで毎月億の売上を出しているところもあるくらいです。
そのため、カードショップはたくさんカードを買い取っては、人気のあるカードと人気のないカードを混ぜ込んでオリパとして販売することで、カードの長期在庫ないようにしつつ、たくさんの売上をあげているのです。
つまり、カードショップ側の心理としては高値で仕入れてもオリパとして販売が出来れば簡単に捌くことができるのでどんどん仕入れたい。そのためには他店より高い買取値をつけてたくさんカードを集めなければならない。そうした行為がカードの価値があがっていく要因となるのです。
しかし、先ほども記載したように法律的にはグレーの部分があり、オリパを舞台とした詐欺行為や金銭問題が随所で発生しております。
今後、この問題が大きくなれば国としても規制をかける可能性は低くはないでしょう。
もしオリパが規制された場合、カードショップの在庫の一番の出口であったオリパがなくなるのですから、仕入れのバランスを見直さなければいけなくなります。
そうなったとき、カードショップは今のようにたくさん買取をして販売することはできるのでしょうか?
プレイヤー、コレクター、投資家、ギャンブラーが絶妙なバランスで混在している現状、どれかひとつでも崩れてしまうと市場は大きく変貌を遂げることは間違いありません。

以上が私なりのこのバブルの要因とこの先起こり得る事象に対しての考えです。
皆々様のポケカライフにとって、このnoteが有意義なものになることを願って括りとさせていただきます。
ご高覧いただきありがとうございました。

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