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奪われた光 #1
今日ぼくは、光を奪われた。
梅雨が明けて蝉の鳴き声が頭を揺らす7月の中旬に、いつも見ている景色を横目に、ぼくはイヤホンで音楽を聴きながら自転車を走らせる。夏の日差しが痛いくらいにぼくの体を刺激してくる。エアコンを求めて職場まで全力で漕ぐのがぼくの日課だ。
鍵を開けて入る職場には5分前についても、ぼくが一番乗りだった。
後から入ってくるメンバーに挨拶をしていつものように仕事を始める。隙を見つけては業務とは全く関係のないことを調べネットサーフィンをするのは、ぼくの一番の得意技だ。今日の夜はシーシャを作りたいから、シーシャ作りのコツでも調べるかなーなんて考えながら、時間が過ぎていくのを待つ。
時計の針はついに18時を指した。定時まで後1時間。はやる気持ちを抑えながら、ぼくは残りの業務を終わらせ、美味しいシーシャに思いを馳せた。
ついに定時を迎えた。帰ったらやることをソッコーで終わらせて、シーシャを作ろう。ぼくは、朝の日差しなんか一ミリも感じない、すこし過ごしやすくなった空気を、颯爽と切りながら自転車を通勤の時よりも早く漕いだ。
なんだか暗くなってきたなー。夏至も終わったからだんだん日が短くなっている。こんなことで警察に捕まって、時間を奪われるのはもったいない。ぼくは、ライトのボタンを押すべく、いつもの場所に手をかけた。
「あれ?ライトがない?」
この瞬間ぼくは、光を奪われたことに気づいた。