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一度手にしたものを過大評価しちゃう認知バイアス 「保有効果」

認知バイアス大全マガジン

今回紹介する「保有効果」は認知バイアスのひとつです。認知バイアスとは、人間が不合理な行動をする原因のひとつ。そんな認知バイアスを集めたのが認知バイアス大全マガジンです。


買ってからより好きになる……

車は買う前より買ってからのほうが好きになる。
source: carwale.com

自動車を購入するときに、いくつかあるブランドのなかからあるブランドを選んで所有することになりました。すると買うまえより手にしてからのほうがそのブランドを好きになり、より高く評価するようになりました。

これは有形無形に関わらず、発生する価値評価の変化です。思い浮かんだアイデアは捨てにくいし、気に入ったアクセサリーは買った価格で買取をオファーされても、なかなか承諾しがたくなる。これを保有効果と言います。

オークションで一度最高入札者になると……

まだ手に入れていなくとも、オークションで一度最高入札者になると「すでに所有している感覚」が発生します。持っているものを奪われたくないために、予算を超えてもそのオークションを落札したくなる気持ちが発生します。これも、保有効果によるものです。


保有効果

保有効果(Endowment effect)とは

一度何かを所有すると、それを手に入れる以前に支払ってもいいと思っていた以上の犠牲を払ってでも、それを手放したがらない傾向

です。「授かり効果」または「剥離忌避(divestiture aversion)」とも呼ばれる認知バイアスです。所有効果は、手にしてわずか数分で発生します。ちなみに人間のみならずチンパンジーにもこの保有効果はみられました。保有効果は、1970年代に、経済学者のリチャード・H・セイラーによって提唱されました。またアリストテレスもこの保有効果に相当する言葉を残しています。

ほとんどの物事において、それを所有している人とそれを欲している人との間にその価値が異なるということが発生しています。わたしたちが所有しているもの、わたしたちが与えるものは、わたしたちにとって非常に貴重なものになるようです。
For most things are differently valued by those who have them and by those who wish to get them: what belongs to us, and what we give away, always seems very precious to us.
—ニコマコス倫理学—


手にしたものを手放すとき価格は2倍になった

ダニエル・カーネマンとリチャード・セイラーらの研究で、参加者にマグカップを与え、そのあとそのマグカップを販売するか交換する機会を与えると、そのマグカップと同等の価値のあるものとの交換を嫌がり、手放す決断をする価格は、マグカップの価格の2倍になりました(※3)。

保有効果が生まれる理由

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従来は、損失嫌悪によって保有効果が発生してると考えられていましたが、最近になると損失するまえから保有効果は発生しているという見方のほうが優勢になってきています。

この保有効果は、ものを手に入れるときと手放すときで、そのものに対する認知フレームが異なっていることから発生しているようです。手に入れるときは、それに支払うべきお金などを手放さなくて良い理由を探します。つまり今、所有している「お金」に対して保有効果が発生し、相対的にまだ手にしていないモノの価値が低くなります一方で、一度モノを手にすると保有効果が発生し、「モノ」に対して支払われるお金を相対的に低く評価します。こうして、価格差、価値評価の歪みが発生していると考えられています。

これに加えて、心理的オーナーシップ(psychological ownership)というものも発生します。つまり所有しているモノは自己に関連したモノという認識がされるようです。「俺のもの」という感覚ですね。これらが影響して、保有効果がわたしたちのなかに発生していると考えられています。


対策

相対的になるものと比較する

この買い手と売り手の価値評価のギャップを是正する方法は、対象物への注目度を減らすのが有効です。2つ方法があって、1つは、売り手は、所有しているモノを売却することで手に入る金額を使って何をしたいのかを考えるするとモノを絶対視していた認知フレームから相対的な見方に変わります。買い手も支払う金額から一度目をそらし、モノを入手したとき何ができるのかを考えると相対的にモノの価値が上がるようです。2つめは、売り手も買い手も代替品について考えると保有効果が生み出す価値評価の歪みは是正されます

ネットオークションサイトなどでは、似たモノの平均価格がわかってくるので保有効果は是正されているかもです


応用

一度所有してもらう

たとえばGmail。わたしたちは無償でこれを使用していますが、このサービスを途中から課金するした場合、まだGmailを使っていなかった人が支払うであろう金額の2倍、すでに使っているひとは払う可能性があります。これも保有効果です。
応用としては、売り手は、販売するものを買い手に一度、保有してもらうと購入機会が増えます。お試し期間を設ける、試乗する、または引き換え券を渡すことでも保有効果が発生します。一度手にいれてしまうからです。またオークションにおいて一度最高入札者になるということでも保有効果が発生し、そのモノを手放したくないという気持ちが発生します。基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金する仕組みである「フリーミア」もこの保有効果をつかったテクニックです。

オススメの本

保有効果を提唱したリチャード・セイラーの著書。ちなみにリチャード・セイラーは映画『マネー・ショート』にちょっと出てきます。


「フリーミア」などの保有効果の応用の仕方を詳しく解説しています。


関連した認知バイアス

プロスペクト理論(Prospect theory)

不確実な状況における意思決定モデルであり、(1)得することより損をしないことを選ぶ傾向、(2)損も得も量が増えるとインパクトが弱まっていく傾向
などを説明するもの


損失嫌悪(Loss aversion)

利益を得る事よりも、損失を回避する事に集中する傾向。


参照

※1:Endowment effect

※2:保有効果とは|「捨てられない」あの断捨離の難しさをマーケティングに活用

※3:Experimental Tests of the Endowment Effect and the Coase Theorem

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