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人の記憶は3年前をさかいにして歪んでしまう 「望遠鏡効果」

あれいつだったかな?

人間は確率に弱いのですが、「いつだったのか」ということを思い出すことも苦手です。わたしたちの脳や身体は狩猟採集生活を前提としたままですが、狩猟採集生活では、「いつだったのか」を正確に思い出すニーズはあまりありませんでしたから。これがおもしろいことに3年前をさかいにして歪み方が変わります。これを望遠鏡効果(Telescoping effect)と言います。

望遠鏡効果

望遠鏡効果(Telescoping effect)とは

最近の出来事がより昔に、昔の出来事がより最近あったことのように思い込む傾向

です。これ、なぜか3年前が境目で、3年より前に起こったことは、実際より最近起こったように感じ、3年以内に起こったことは、実際より以前に起こったように感じます。

最近の出来事を実際よりも昔のことのように思い出すことを「後方テレスコープ」といいます。一方で昔のことを実際よりも最近の出来事として認識することを「前方テレスコープ」といいます。3年あたりで切り替わります。

名前の由来

名前の由来は、1964年にNeterとWaksbergがJournal of the American Statistical Associationに発表した論文です。望遠鏡(Telescoping)という用語は、望遠鏡で見たときに物体までの距離が縮まるように、時間が現在に向かって縮まっていくように見えるという考えに由来しています。

実例

オランダの悪名高い誘拐殺人犯フェルディ・エルサス(Ferdi Elsas)は、刑務所から釈放されたとき、オランダの人々の多くは、エルサスが十分な期間、刑務所にいたとは思えませんでした(※2)。これは、望遠鏡効果により、人々はエルサスの刑期が実際よりも最近始まったと感じたためでした。

望遠鏡効果が起こる理由

人は、記憶に関して「詳細に記憶しているものは、最近起こったこと」と考える傾向があります。細かく覚えているなら最近起こったことのはずだと感じるためです。逆に「うまく思い出せないほど、昔に起こったこと」とも考えます。するとインパクトが強く、良く覚えているものほど、最近起こったのように感じます。例えば、同じ年に起きたロナルド・レーガンとローマ法王ヨハネ・パウロ2世の銃撃戦について、「いつ起こったのか?」と尋ねられると、多くの人は、「ロナルド・レーガンの銃撃戦」のほうを最近に起きたと推定します。望遠鏡効果を説明する仮説は、その他にもいくつかります(※1)。


対策・応用

人と自分の記憶を疑う

マーケティング調査やドラッグや飲酒の使い始めの調査では、しばしばこの望遠鏡効果が現れます。人は実際よりも最近になってドラッグを始めたと報告する傾向があります。記憶を頼りに時期を推測するとき、この望遠鏡効果があることを思い出すとよいでしょう。なんでも記録して、自分より記録を頼りにすると望遠鏡効果から逃れやすくなることでしょう。


関連した認知バイアス

•バラ色の回顧(Rosy retrospection)
過去の出来事を、その時点での評価よりも良い評価の記憶として思い出す現象。



認知バイアス

認知バイアスとは進化の過程で得た武器のバグの部分。紹介した認知バイアスは、スズキアキラの「認知バイアス大全」にまとめていきます。

一覧にした記事もあります。


参照

※1:Telescoping effect

※2:Why Life Speeds Up As You Get Older

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