予算や締切を守れない理由:認知バイアスの 「計画の誤謬」
「認知バイアス大全」マガジン
認知バイアスとは、人間が進化の過程で獲得してきた生き延びるための工夫……のバグ部分。これが、現代ではさまざまな場面で不合理な行動の原因となります。そんな認知バイアスを集めたマガジンが「認知バイアス大全」マガジンです。
予算や期限をいつも過ぎてしまう……
夏休みの宿題ならかわいいものですが、東京オリンピックの予算は当初は7000億円でしたが、3兆円にまで膨れ上がってしまいました。このように、わたしたちは予想していたより、締め切り、予算をいつも過ぎたり、越えてしまいがちです。これは、どうしてなんでしょう……
「論文の完成に何日かかると思うか?」
1994年の研究(※3)では、37人の心理学の学生に論文を完成させるのにかかる時間を見積もってもらいました。彼らが予想した「論文の完成にかかる日数」は、平均33.9日でした。彼らは「すべてが可能な限りうまくいった場合」は平均27.4日、「すべてが可能な限りうまくいかなかった場合」なら平均48.6日と見積もりました。しかし、実際の論文の完成にかかった時間は
平均55.5日
でした。予測した時間内に論文を完成させた学生は全体の約30%でした。このように人は、作業にかかる時間を短かく見積もってしまいます。時間のみならず予算に対しても同じように、実際より軽く見積もる傾向があります。これを「計画の誤謬」といいます。
計画の誤謬
計画の誤謬 (Planning fallacy)とは
です。これは楽観主義バイアス(後述)による影響で、自分の計画に対してのみ発生するバイアスです。自分以外が対象なら、計画達成にかかる時間やコスト、リスクは過大評価(多めに見積もる)します。これは悲観主義バイアスによるものです。
なぜ「計画の誤謬」が発生するのか
人は、楽観主義バイアス(Optimism bias)という「(根拠なく)うまく行く」と考える傾向があり、これにより、計画は実際より簡単に完了するだろうと考えてしまいます。また自己奉仕バイアス(Self-serving bias)という「成功の要因は自分にし、失敗の要因は自分以外にあると考える」傾向によって、計画が遅れても、それは自分たちのせいではなく、外からの影響によるものと考えてしまいます。その結果、計画が予想より遅れた経験から学習せず、再びあまい計画を建ててしまいます。その他に、人は、過去の出来事をちゃんと思い出せず、記憶を過小評価して書き換える傾向もあるようです。(耳が痛い。)これらが、計画の誤謬の原因です。
楽観主義バイアス
自己奉仕バイアス
対策
計画を分割し、具体化すると楽観主義バイアスが減少します。そして実際に掛かった時間を記録すると計画の精度は徐々に上がっていきます。つまり「何にどれくらい時間がかかる」という記録は、計画の精度を高める材料になるということです。
自分も含めてチームメイトを「現象」として捉えるとさらに良いでしょう。ある作業に平均していくら時間やお金がかかるのか、それを計測し、計画に反映していく。「とにかく頑張る」と考えるのは、頭が悪い方法です。
関連書籍
ダニエル・カーネマン(著)『ファスト&スロー』
認知バイアスの権威。読みやすい。認知バイアスを知るには最適の本。
参照
※2:Chapter One - The Planning Fallacy: Cognitive, Motivational, and Social Origins
※3:Exploring the "Planning Fallacy": Why People Underestimate Their Task Completion Times
※4:The Hourglass Is Half Full or Half Empty: Temporal Framing and the Group Planning Fallacy.