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接するほど好きにもなるし、嫌いにもなる 「単純接触効果」

「認知バイアス大全」マガジン

人間の非合理的な行動の原因のひとつ、認知バイアス。これは、進化の過程で獲得した生き抜くための工夫……のバグ部分。これを理解すると間違った行動を避けられ、あまつさえうまく利用できたりします。そんな認知バイアスを紹介するマガジンが、「認知バイアス大全」マガジンです。


単純接触効果

単純接触効果(Mere exposure effect)とは

繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果

です。1968年にアメリカ合衆国の心理学者ロバート・ザイアンス(Robert Bolesław Zajonc)氏が論文で発表しました。単純接触効果は、接していることに気づかなくても(これを閾下と言います)、効果があるとも考えられており、それをサブリミナル効果とも呼んでいます。また意識できる刺激をスプラリミナル知覚と呼びます。サブリミナル効果は、疑似科学とも呼ばれることがありますが、どうも一定の条件下では効果があるようです。ただしとても限定的(※1)。

ザイアンス氏の論文(※2)は、1968年と古いのですが、上記の通り追試が何度もされており、なかでも1989年のBornsteinらのメタ分析が有力です(※3)。このメタ分析によれば、単純接触効果の効果サイズは、r=0.26となかなか高く、この効果が強力で信頼できるものという結論を出しています。

この分析によれば、単純接触効果は

(1)見慣れない単純な刺激がもっとも効果が高く

(2)10〜20という回数で効果が最大になる

(3)それ以上になると効果が低下する

(4)接触と好意の出現が“時間差が多ければ多いほど効果が強くなる”傾向がある

(5)嫌いな人への接触は、さらに嫌いにさせる効果がある

(4)は、不良と優等生が次第に仲良くなるみたいなニュアンスです。最初はそんなに好きじゃなかったのに、だんだん好きになっていく。しかし、人間関係は、単純接触効果のみで成就できるとは考えにくい。それは遺伝子の相性やその他の要因のほうが重要だから。

なぜ単純接触効果が起こるのか

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上記は測定可能な定量的なデータをベースにしていますが、その解釈はただの仮説です。仮説ですが、単純接触効果にみる人間の傾向は、

慣れ親しんだものに安堵し、ゆえに好意を持つ。がしかし、人間は保守的であると同時に飽きやすくもあり、一定量を超えると好意が減っていく

のではないでしょうかと推測できます。保守とリベラルの数や変化を嫌う人間の傾向からもまあまあ妥当な仮説だと考えています。

しかしこれをつかって恋愛を成就させるぞ!というテクニックとしての紹介を散見しますが、恋愛の場合、先にも述べたように元来その目的は「丈夫な子どもの出産と成長」です。それが単純接触効果くらいで成就してしまうと遺伝子としては失敗が多くなりすぎる。この場合、男性の場合は、相手にこだわりはさしてないものの、女性側にはあります。なぜなら出産のコストが非常に高いから。

好き嫌いに理屈は不要

ザイアンス氏はっ、1980年に論文「Feeling and Thinking: Preferences Need No Inferences」(感情と思考:好き嫌いに理屈は不要)を発表し、それが大変話題になりました。感情と認知は、互いに独立しており、感情のほうが認知を凌駕していると主張していました。

単純接触効果は視覚のみならず、嗅覚、味覚にもある

とか。香水の単純接触効果などなかなか興味深いですが、今回は省略します!

まとめ

単純接触効果は強力でその存在ははっきりしているとは言えそうです。が故についついいつもの銘柄の商品を購入したり、見知らぬものよりよく見かけるものに好意を持ちがちです。しかしだからといって恋愛にはそうそう単純に応用できなさそう。いっぽうで広告は、基本この単純接触効果に全幅の信頼を寄せて成り立ってもいます。

応用

頻繁に目にすると好意と信頼度が上がるが、上限があり、嫌われている場合はより嫌われる

広告での利用のように好意および選択してもらうという狙いを持っているときにこの単純接触効果を使う場合は、嫌いなものはより嫌いになる(対象は人でしたが)傾向があること、と10〜20回が効果の上限だということを念頭に入れておくと良いでしょう。そして効果測定を独自に行い記録することで精度が上がるのではないかと考えます。多くのウェブサイトで喧伝しているような恋愛への利用はオススメしません。他の知識を使うことをオススメします。

単純接触効果は、嫌いなものはより嫌いになる傾向が(人を対象にした場合)あるので、ご注意を。また10〜20回が効果の上限だということを念頭に入れて使用したい。

頻繁に目にすると好意と信頼度が上がるが、上限があり、嫌われている場合はより嫌われる

参照

※1:Evaluative Learning with “Subliminally” Presented Stimuli

※2:Feeling and Thinking: Preferences Need No Inferences

※3:Exposure and affect: Overview and meta-analysis of research, 1968–1987.

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