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ヒトが高価のなのに役には立たないモノを買う理由

「恋愛に使えるエビデンス」マガジン

恋愛につかえる科学情報「恋愛に使えるエビデンス」マガジン。週1で更新しています。


ヒトはなぜ高価だが役に立たないものを買うのか

岡田斗司夫さんという方が、「高いバッグを持っている女の人は100%嫌な女なんです」とYoutubeで語っていました(笑)。またハイブランドバッグを買うのは馬鹿だとも。これに近いことをひろゆきさんもYoutubeで語っています。ひろゆきさんは「自分に自信がない人が買う」と語っています。「頭の悪い人が高ければ高いほど買う」とも。合理で考えると筋が通っているように見えますが、そうじゃないかもよ?という科学寄りの話をします。


エルメスのバーキンやケリーは300万円以上したりします。女性のためのバッグのみならず、リシャール・ミルという時計は1億円以上するものもあります。

腕時計……スマホをみんなが持つ時代に時間を知るための道具としてはもはや必要のない存在になりつつあります。よしんばあったとして、G-Shockのほうが機能が高い。Apple Watchならもっと高性能。なのにリシャール・ミル、パテック・フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ブレゲなどなど100万円以上する腕時計がざらにあります。なぜなのか? ひろゆきさんらの言うように「カモにされているバカ」なのか? 

結論を先にいうと、バカかどうかは人によるけれど、彼らはある機能を見落としているかも?とことになります。本題にはいるまえに「シグナル」というものについて解説します。

ちなみに彼らの論理では、服飾品などできるだけ安価で機能があれば、何でも良いということになります。家具ならニトリ、服ならユニクロが良く、高価な家具や服を買う理由がないことになります。なるほど、ひろゆきさんは服にはユニクロを着ています(しかしユニクロは安いだけじゃなくて性能もデザインも良いし、進化しつづけていて、ファスト・ファッションでもラグジュアリー・ファッションでもない新しい市場を作っている恐ろしいブランドです)。

動物たちがもつ“シグナル”

筋肉もシグナルの一つ

“シグナル”とは、すぐに識別可能な手がかりで、複雑で重要な生物学的属性のセットを指ししますものです。性別、年齢、攻撃力などなど。シグナリングのシグナルと同じ意味ですが、シグナリングとは、アメリカの経済学者、マイケル・スペンス(Andrew Michael Spence)により提唱された理論で、人の能力を学歴などで推し量って、雇ったり、それ相応と考える給与を支払ったりすることです。しかしここでは、性競争に関連して、このシグナルを扱います。

シグナルは、人間を含めた動物の進化、自然淘汰なのかで発展してきました。合理的な機能を持つこのシグナルは、たとえば、犬が二頭出会い、縄張り争いで戦おうとする場面があったとします。二頭とも威嚇し、毛を逆立てますが、身体の大きさ(シグナル)、恐れや恐れのなさ(シグナル)を互いに観察して、「勝てそうだ」または「負けそうだ」と判断し、負けそうだと判断したほうは退散します。結果、二頭ともケガを負うことなく、優劣の決着をつけることができます。これはどちらにとっても好都合な結果です。このようにしてシグナルは機能しています。

シグナルには、このような見た目、つまり視覚によるものの他に、嗅覚や臭覚などもあります。

このシグナルは、恋愛を含めた性競争でも大いに機能しています。男が大好きな女の人のおっぱいも着ている服も時計もシグナルです。おっぱいは、性的シグナルと呼ばれます。性的シグナルとは、同じ種の一方の性の身体にのみ現れる形質で、配偶する可能性のある異性を惹きつけたり、同性のライバルに見せつけるシグナルとして用いられるものです。この性的シグナルを説明する理論が3つあります。今回はそのうちのハンディキャップ説について触れます。ちなみに残りの2つは、イギリスの遺伝学者ロナルド・フィッシャー(Sir Ronald Aylmer Fisher)氏によるランナウェイ淘汰モデルとアメリカの動物学者アストリッド・コドリック=ブラウン氏とジェームズ・ブラウン氏による「正直さの宣伝」というもの。気になる方は、こちらのジャレド・ダイアモンドの『人間の性はなぜ奇妙に進化したのか』という本に詳しいです。


ハンディキャップ説

3つある性的シグナルを説明する理論のひとつ、ハンディキャップ説は、イスラエルの進化生物学者アモツ・ザハヴィ(Amotz Zahavi)氏によって提唱されたものです。

アモツ・ザハヴィ(Amotz Zahavi)氏 By NaamaZE - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=50400001

ザハヴィ氏は、孔雀の羽などの性的なシグナルとして機能する多くの形質は大きすぎたり目立ちすぎたりするため、それを有するものの生存にとっては有害になりえると考えました。

孔雀の飾り羽を入れたオスの体長は2メートル前後あります。

有しているだけでも生存に不利になりますが、そもそもその性的シグナルを形成するのにも正合成エネルギーを使うことになります。つまり初期費用もランニングコストも掛かるということです。ザハヴィ氏は、こうした不利になる性的シグナルを有しているものは、「にもかかわらず生存している」ことが優秀さを示すシグナルになっていると考えました。大きな羽を持つ孔雀のオスが、メスに好まれるのは、大きな羽を持っているのにも関わらず、生き延びているから。これはハッタリでは無理なものです。なぜなら大きな羽を持って生きるということは、そのままその不利とともに生きていることを示しているから。優れた素質や能力がないとその性的シグナルを形成し、維持して、生き延びられないはずだからです。


ケリーもバーキンもリシャール・ミルも性的シグナルのハンディキャップ

エルメスのバーキンは、お金があっても店頭ですぐに買えない……

わたしたち人間は、モテるために自分が金持ちだとアピールすることは可能です。言葉を使えるわたしたちは、嘘やハッタリだってできます。しかし本当にお金持ちでなければ、ものすごく高価なのに役に立たないものは買えません。バーキン、ケリー、リシャール・ミル、フェラーリなどなどなど。フェラーリやランボルギーニなんて買ったって、時速300キロを出せる場所は公道にはありませんし、段差が怖くてろくに駐車場にも停められません。リシャール・ミルは軽くてすごい技術がぎっしり詰まっていますが、Apple Watchの機能には全く太刀打ちできません。つまり、これらの高価なのに役に立たないという部分が重要なシグナルになっているわけです。

多かれ少なかれ、わたしたちはLVMHが展開するラグジュアリーブランドじゃなくても、ある程度のこだわりをもって服や装飾品や車を選んで購入しています。これはある部分で「シグナル」を購入しているとも言えます。

さて、高価なのに役に立たないものを購入することを岡田斗司夫さんやひろゆきさんは、バカな行為とみなしていますが、この行為にはこういった意味があるわけです。

恋愛をしない人間には意味がない

昔から、恋愛と贅沢と資本主義は結びついて、それについてはヴェルナー・ゾンバルト氏が『恋愛と贅沢と資本主義』という本を出しています。

高価だけど役に立たないモノを買う行為は性的シグナルなので、恋愛をする気がない人間にとっては、バカな行為としか映らないのですが、恋愛をしている、つまり性競争に参加している人間とっては、ものすごく意味があり、有効な効果を持つ行為です。この性的シグナルのほかに、高価だけど役に立たないモノを買う理由がひとつあります。それについて少しだけ触れて、筆を置くとします。

社会的動物にある、ヒエラルキーを登ろうとする性質

わたしたち人間には、自尊心というものがあります。自尊心と名付けなくとも、「わたしは何者なのか」という問いを考えたり、一角の人物になりたいと願ったりするとき、その根底や中心にこの自尊心があります。これ、その正体は何かというと

ヒエラルキーの上部に登り続けたい

という動因です。動因(どういん)ってちょっとわかりにくいことばですが、英語だとDriveと言います。これだと少しわかりやすくなると思うのですが、つまり「人を動かく力」です。ヒエラルキーのうえに行けば行くほど、生存状況が有利になります。より良い配偶者をゲットし、より多くの食物を手に入れられるようになります。がゆえに遺伝子は、自分が乗っている個体にできるだけヒエラルキーの上部にいてほしい。これが自尊心の機能です。

そんなわけで、高価で役に立たない羨望の眼差しを得られるものを人は所有したがります。これも愚かな行為というよりは、生き物の性質による行為と言えます。

まとめ

ラグジュアリーブランドを購入するということは、愚かな行為というよりは、恋愛に生きる戦士(競争なので)の戦略のひとつです。恋愛をしない人にはそれがまったくわからないのは、感情移入のギャップによるものです。


参照


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