ツラかったことは覚えているが、その長さは忘れる 「持続の軽視」
ツラいことについて人は継続時間は記憶しない?
ダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)とバーバラ・フレデリクソン(Barbara Fredrickson)は、ある研究で、被験者に観ていて楽しい動画と嫌悪を感じる動画を見せました。その後で動画について被験者に振り返ってもらうと被験者たちは刺激の長さについては考慮せず、内容にのみ着目していました。まるで一連の感情的な「スナップショット」であるかのようにそれらを記憶していました。(※3)
また、カーネマンとフレデリクソンは、他の共同研究者とともに、被験者に痛みを伴う冷水に手を浸してもらうという実験も行いました。このとき、2つのやりかたを体験してもらいました。ひとつは、30秒冷水に手を浸し、そのあとはすぐに手を自ら出してもらうというもので、もうひとつは、同じように30秒、手を冷水に浸した後、さらに30秒間手を水につけたままにさせますが、水はゆっくりと温められていくというものでした。温められても、依然として不快なレベルの冷たさなのにもか関わらず、被験者たちに、もう一度繰り返すならどちらのやり方を選ぶか?と問うと、不快な時間が長いにも関わらず、後者を選びました。これは、「少しずつ温かくなっていく」という感覚の記憶のエンドに付け加えられたため、より良いものとして記憶として定着したためです。これをピークエンドの法則と言います。
ピーク・エンドの法則 (Peak-end rule)
過去の経験をその時間や経過ではなく、その絶頂時にどうだったか、ならびにどう終わったかだけで判定する傾向。
このピーク・エンドの法則に見る継続時間を無視する傾向を「持続の軽視」と呼びます。
持続の軽視
持続の軽視(Duration neglect)とは
持続の軽視は、ピーク時(その体験が最も痛かった時)と痛みがどれだけ早く減少するかの2つの要素に影響されます。痛みの減り方が遅ければ、その体験はより痛いと判断されます。このため、このプロセスを「ピーク・エンドの法則(Peak-end rule)」と呼びます。
馴染みがない体験限定
持続の軽視は、馴染みのない経験に限定されます。電話の着信音や定期的な通勤時間など、慣れ親しんだ経験を評価するときには、経験の持続時間に敏感になります(※2)。
対策
ピーク・エンド効果により、病気やケガをしたとき、痛かったことと回復したことのみ、記憶し、その治療にかかった時間を忘れがちになります。そのため、警戒心が緩むので、ケガや病気については回復に要した時間や金額などを記録しておくと良いでしょう。プロジェクトの失敗にも使えます。
持続時間の無視のいくつかの形態は、参加者にグラフ形式で回答させたり、5分ごとに評価を与えることで減少または除去される場合があります。持続時間の無視は拡張無視(extension neglect)の亜型であり、感情予測の構成要素でもあります。
応用
ピーク・エンドの法則の応用と同様です。クオリティの高い(そして値段も高い)レストランに行くと、帰りしなに店主たちが、店のそとで見えなくなるまで見送ってくれることがよくあります。接客を尽くしてくれた記憶を形成するピーク・エンドの法則の活用例です。
関連した認知バイアス
•ピーク・エンドの法則(Peak-end rule)
過去の経験をその時間や経過ではなく、その絶頂時にどうだったか、ならびにどう終わったかだけで判定する傾向。
認知バイアス
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参照
※2:Duration sensitivity depends on stimulus familiarity
※3:Duration neglect in retrospective evaluations of affective episodes"
https://doi.apa.org/doiLanding?doi=10.1037%2F0022-3514.65.1.45