災害と議員
大きな自然災害のたびに、議員の役割について考えさせられる。
「県民が苦しんでいる時こそ自分たちの出番だ」という考え方もあるだろう。しかしかつて自衛隊で指揮系統というものを最重視して行動するよう教育された者としては、災害対応にあたってこの「議員」という立場はどこに位置付けられているのか?という大きな疑問を抱いてしまう。
いや正確に言うとそれは疑問ではなく、結論は出ている。豪雨にせよ、地震にせよ、あらゆる災害への対応において、「議員」はいかなる指揮系統にも属してはいないのだ。消防、警察、自衛隊、そして役所。これらは予算執行権や実働部隊をもち、災害発生となると迅速に情報収集を行い、組織を立ち上げて救助や復旧工事などの実行動を開始する。それら各組織は相互に連絡調整や協働を行うものの、それぞれの内部的な指揮系統に基づいて効率的に活動する。そのどこにも「議員」や「議会」の関与する余地はない。
当然であるが災害対応ではスピードが重要だ。だから指揮系統の外にある者が口をはさむのはご法度である。特に災害発生直後は各組織とも状況把握も十分ではなく混乱しがちなので、そこに議員がのこのこと出かけて行ったり注文を付けたりするのは、正直言って迷惑だ。一般人ならともかく、権限はないのに発言力だけはある「議員」という存在は、現場の大きな負担になるからである。まさに発災直後の混乱期や人命の懸かっているような緊迫した状況では、居ても立っても居られない気持ちはわかるのだが、指揮命令権を持つ行政組織にお任せするのが最良の策だ。
※念のため申し添えますと、同じ政治家でも知事や市長、大臣や政務官など政府のメンバーは行政組織の一員です。
では議員の役割は何なのか。議会は予算案や条例の議決が主たる任務であり、県庁など行政機関のチェック機能を期待されている。そこから考えると、今回の災害対応は適切だったのかどうか、今後改善すべき点はどのようなものがあるか、そしてこれから検討される災害復旧予算はどのようなものが必要なのか、など「事後の議論」が議員の仕事といえるだろう。そのためには被災状況の把握は不可欠なので、被害の発生が一段落し、現場にも迷惑がかからないと判断される時期になって初めて現場の様子を見に行く、というのがベストアンサーなのではないか。そこで得た情報や、地元で自分たちに聞こえてくる小さき声を届けることで、行政側の対応改善につなげるというのが災害時における議員の使命だと考える。
立法、司法そして行政のどれに自分が属しているのか、私たち議員は見失いがちである。ましてや地元の地域が災害に見舞われたときなどはつい迅速に行動を起こしてしまいそうになるが、そこは指揮系統に基づき行動する行政組織等を信頼してお任せし、(消防団員やボランティアとしての活動は別として)議員バッジの力を発揮するのは状況が少し落ち着いてからである、ということを肝に銘じなければならないと思う。
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