手話通訳者全国統一試験「ことばの仕組み」2022過去問⑳解説〜手話言語の特徴〜
2022年度手話通訳者全国統一試験の過去問について、参考文献をもとに独自に解説をまとめたものです。
問20.ことばの仕組み
問題解説
(2)が正しい。
(1)は「あまり認められない」が間違い。正しくは、手話言語もご意図文法を駆使して無限大の文を作り出す生産性が認められる。
(3)は「8個」が間違い。正しくは、顔全体、頭上、額、こめかみ、目、耳、鼻、ほお、唇、あごの10個が認識されている。
(4)は「4要素」が間違い。正しくは、手の位置、手の形、手の動きの三要素である。
手話言語共通の特徴
恣意性
恣意性とは言語学で、言語希望の音声面とそれが指示する意味面との結びつきは必然的なものではなくて、社会慣習的な約束事としてのものであるということを指す。手話言語でも恣意性が保持されている。
「音声」と「音素」
日本語の音は、「音声」と「音素」がある。
音声とは、現実に発声された具体的な音のことである。それに対して音素とはその音が変わることで、意味が変わる音の単位のことで抽象的な概念である。例えば「世界」という語を誰が発音しても、人により音の大きさ、高さなどが異なったとしても「世界」と意味することが分かる。
一方の「音素」でみると、「SEKAI」の3番目の音が「T」に変われば、それは「世帯」となり意味も変わる。2番めの音が「I」に変われば「司会」となり別の意味となる。このように音が変わることで意味が変わる単位を集めていくと、およそ日本語には23前後の音素があるとされている。
言語の二重分節性
言語の二重分節性というのは文を二重に分けることができるということである。文は日本語の文字表記では「。(句点)」から「。(句点)」まえを文または一文と言う。「形態素」とはそれ以上わけると意味が壊れてしまう最小の単位である。
例えば「お母さん」や「お父さん」は一つの単語だが、(お)(母)(父)(さん)が形態素になる。
日本手話言語に二重分節性が共通するかみてみる。音声言語の音素に相当するものは何かというと、アメリカ手話言語研究者のストーキー博士によって明らかにされた「動素」にあたる。
ストーキー博士は、音声言語の単語が音素を時間軸に沿って並べることで構成されるのに対し、手話(単語)が手の位置、手の形、手の動きの三要素を同時に組み合わせることで構成される同時的構造であることを明らかにした。
ストーキー博士は、手話(単語)を構成する3つの要素を「動素」と呼んだ。具体的に、手の位置12個、手の形21個、手の動き22個が提案されている。
現在は手話言語の動素は音声言語の音素に相当するという共通理解が定着している。
手話言語では、動素(手の位置、手の形、手の動き)が同時に組み合わせられて手話(=単語)を構成し、手話を継時的に組み合わせる(時間軸に沿って並べる)ことで複合語を構成する。
日本手話言語では、頭部の動素(手の位置)として、顔全体、頭上、額、こめかみ、目、耳、鼻、ほお、唇、あごの10個が認識されている。
線条性
手話言語では目で見る範囲で、顔の表情や音の動き、さらに身体の向きなどで他の情報を伝えたりと、絵画や写真のごとく、同時に幾つもの情報を伝えることができる。
超越性
時間的に過去や未来の出来事、さらに過去のある時点に立って未来の出来事を語ることは音声言語と同様に手話言語でも可能である。
生産性
語彙と文法を駆使して無限大の文を作り出す生産性は手話言語にも認められ、新しい語彙を作り出す、新しい文法を作り出す生産性は、手話言語の方が目立って観察され、今もなお日常的に観察される。
手話の拍(モーラ)、リズム
顔の表情、首の動きなど手指以外の表現がイントネーションに似た役割を果たすが、手指の表現本体そのものも、手話言語独特の拍(モーラ)やリズムをもって抑揚をつけることができる。
例えば、日本語で<東>と<東京>はそれぞれ「ひがし」と3拍、「とうきょう」と4拍になり、「とうきょう」の方が少しだけ長い発話時間になる。一方、日本手話言語で表現すると、同じ手話(図の人差し指の指先を上に向け親指の指先を向き合わせた両手を上方向へ同時にあげる形)を1回表現するか、2回表現するかのち外になる。
<東京>の手話表現は<東>の手話表現よりも2倍長い時間になると思われがちであるが、実際にはほぼ変わらない。同じ手話を<東>は大きめに、<東京>は小さめに表現するからである。
「音節」と「拍」の概念を借りると、手話一振りが1音節に該当すると考え、<東>は1音節、<東京>は2音節、そしてどちらも同じ1拍となる。
そのため、日本語を手話で表現する時に日本語の拍に合わせる方法だと、手話言語としての拍が適切なものならず、読み取りにくい手話表現になることがある。
(参考)
✔手話通訳者養成のための講義テキスト,全国手話研修センター