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「手紙」(昭和45年 1970)由紀さおり
由紀さおり。彼女の歌声は、リアルタイムで見聴していていた子どもの頃の私の印象としては、とても透き通っていて、綺麗で、そして、それ以上がない退屈な歌声、でした。それは、もちろん、子どもならではの印象であって、透き通った綺麗な歌声自体が心に響くお年頃ではなかったわけです。
子どもの頃の私からすれば、そんな正統派な彼女が、土曜日の番組で、ドリフとコントで絡み合っている滑稽さの方が印象的で良かったのでした(笑)
この曲は、ドリフのマット体操か合唱隊の前後の歌のコーナーでも歌ったはずです。
とても悲しい内容の歌なのに、こんなに軽快なテンポで、彼女の穏やかな表情と共に綺麗に歌い上げます。
作詞は、なかにし礼。言わずと知れた大御所、ヒットメーカーです。リアルタイムでは、にしきのあきらと顔が被っていました(笑)かなりのイケメン。これまた、子ども心ながら(この男は、女を泣かせるタイプだな)と思ったものです(笑)
この曲の男女の関係は、不明です。夫婦なのか、それとも、同棲していた間柄なのか。しかし、同棲だとしても、相当に長く深い関係だったことでしょう。それは、冒頭の歌詞で分かります。
♪死んでもあなたと暮らしていたいと 今日までつとめたこの私だけど
「死ぬまで」ならわかりますが、「死んでも」と言うからには、この女性の相当な愛を感じます。
この「つとめた」は平仮名表記ですが、漢字にするとどうなんでしょう。おそらく、「努めた」、もしくは、「務めた」ですが、やはり、この女性は彼との生活で努力してきたのだと思います。後の歌詞からの情報が少なすぎてちゃんとわかりませんが、この女性は彼のことをちっとも嫌ってなんかおらず、彼女は努力し続けたにもかかわらず、また、努力し続ければし続けるほど彼が離れていき、ついぞ、彼から別れを切り出されて別れることに決めたのでないかと思われます。
この後の歌詞は、1番も2番も、別れの儀式になります。
♪二人で育てた小鳥をにがし 二人で書いたこの絵燃やしましょう
♪二人で飾ったレースをはずし 二人で開けた窓に鍵をかけ
女性が彼に振られる形で二人の関係が終わるのですが、その終わり方は、どちらか一方ではなく二人で終わらせる、というきちんとした終わり方です。最後の最後で、窓に鍵を掛けて、二人ともその家から出て行っての終焉です。
しかし、女性の方は別れると決めたものの、心情とすれば納得していないのが1番の最後の歌詞で分かります。
♪何が悪いのか 今もわからない だれのせいなのか今もわからない
そして、2番冒頭の歌詞でもそうです。
♪出来るものならば 許されるのなら もう一度生まれて やり直したい
この女性は、自分の人生だけをやり直したいのではなく、彼との生活を含めて最初からやり直したい、と思っているはずです。それは、もう、彼女の彼に対する一途な愛を感じずにはおれません。
さて、ここまではいいとして、問題は、この曲の題名になっていて歌詞の最後にも出てくる「手紙」です。
別れの儀式を二人で行い、最後には、二人で暮らした家を出て行くはずですが、彼女は彼にどのタイミングでお別れの手紙を渡すのか。想像するに、せーの!で家を出て行くのではなく、置き手紙として先に彼女が家を出ていくのかなあ、と思います。
そして、とても気になる涙で綴り終えた最後の一文の内容です。
♪明日の私を きづかうことより あなたの未来を見つめてほしいの
最大の謎がこの一文です。なかにし礼先生!
言葉通り受け取れば、彼氏は彼女を振って終わりにしておきながら、彼女の将来を心配している心情が垣間見えます。
そして、彼女の方も、別れに納得していないながら、「わたしのことなんかよりも、あなたの未来見つめてほしい」とわかっている風なことを手紙に書いているわけです。
もしくは、わかっている風なことは、彼女からすればまったくの強がりで、それでも、彼に対する愛をこのような文で表したかったのかもしれません。「涙で綴り終えたお別れの手紙」で結んでいますものね。
実は、長年、気になっていることがありまして。
阿久 悠作詞の大ヒット曲、尾崎紀世彦の「また逢う日まで」のあの有名なサビの歌詞です。
♪ふたりでドアをしめて ふたりで名前消して その時 心は何かを話すだろう
この曲は、「手紙」の翌年、1971年の作品です。
阿久悠さんですから、パクった自覚はないと思いますが、絶対に「手紙」から影響を受けたのだろうと思っています。
♪「手紙」(昭和45年 1970)由紀さおり
作詞:なかにし礼 作曲:川口 真
https://www.youtube.com/watch?v=Mk1HIfFkqvc