牛と暮らした日々-そこにあった句#44 仔牛の哺乳
待春や乳飲む牛は眼を張つて 鈴木牛後
(たいしゅんやちちのむうしはめをはって)
もう飽きた。
何に飽きたかって?白一色の景色だ。かれこれ4ヶ月続いている。
3月中旬。本州では梅や桜の便りが聞かれる頃だが、ここ北海道北部ではまだまだ雪景色で、春を待つ気持ちは「待春」という季語以上に切実なのだ。
でも日中の気温がプラスになって、太陽の光の厚みが明らかに冬とは違ってくるので「春か?春なのか?」と一瞬浮き足立つのだが、外は相変わらず真っ白でがっかり…。
さて、うちの牧場では、春になると分娩ラッシュが始まる。家畜化された牛は古代からもう季節を問わず分娩していたそうだが、放牧酪農では春分娩が有利なので、我が家ではなるべく春に産ませるようにしている。
生まれた仔牛の哺乳欲はすごい。ミルクがもらえるまでひたすら鳴き続ける泣き虫の仔牛。木製のオリにがんがん体をぶつけてアピールする暴れん坊。元気いっぱいだ。
就農当初は生まれる仔牛が多すぎて入れる所がなくなり、木の板で急ごしらえの簡易オリを作って入れていた。そうしたら仔牛があまりのミルク飲みたさに隙間から頭を出して、そのオリをしょって突進してきたくらいだ。
今でも分娩ラッシュの春は、双子が生まれたりすると入れるところがなくなる。それで2頭同じオリに入れて人間が中に入って哺乳していたら、飲んでない方の1頭がごんごんごんごん頭で私の股のあたりをどついてきて痛い!
「牛じゃないんだから、そんな所におっぱいついてないよ!」と言いたくなる。
仔牛がミルクを飲みながら、頭をごんごんどついてくるのは本能で、そうすると母牛の乳の出が良くなるとか。猫が前足でもみもみするのに似ている?
そうしてミルクにありつくと、眼を見開いて必死に飲みつづける。
哺乳ラッシュはこれからが本番だ。