牛と暮らした日々-そこにあった句#37 冬道運転
ごどごどと除雪車白い夜を押す 鈴木牛後
(ごどごどとじょせつしゃしろいよるをおす)
酪農家に続く道路は、除雪車が来るのが朝早い。集乳時間までには道路を開けなければならないからで、うちでは4時とか4時半に来る。除雪車の音で、目を覚ますこともよくある。
「雪が降ると会社や学校はどうなるんですか?道路や鉄道はどうなるんですか?」と、道外の人に聞かれることがあるが、答えは、
「どうもなりません。」
雪が降っても積もっても、道路も鉄道もすぐ除雪車が走る。よっぽどの吹雪や大雪以外は学校も会社も役場も商店も通常営業なのだ。
私は、20歳の時に旭川の自動車学校で運転免許証を取った。冬だったのだが、初めての路上教習が吹雪の日に当たってしまった。
それはそれは、恐ろしいものだった。
運転していると雪がこちらに向かって吹きつけてくるので、車の直前(ボンネットの前あたり)をじっと見て運転していたら、教官に
「あんたは視野が狭いね。もっと遠くを見ないと。」と、けっこうきつめに言われた。
「そんなこと言ったって、初めての路上教習で吹雪なんだから、しょうがないじゃないですか」と、面と向かっては言えないので、心の中で言った。
免許を取ったのが冬だったからといって、冬道運転が得意な訳ではない。最初の頃は、凍った道路でくるっと回ったり、滑って道路から落ちたり、大きいものから小さいものまで、冬型事故を色々起こし、車をボコボコにしたものだ。
さて、冬道運転でも特に怖いのが、吹雪の夜だ。
夜にどうしても隣の名寄市(20キロ)まで行かなければならない用事があって運転した時は、喉はカラカラ、手はじっとり…。
吹雪で視界が真っ白になることを、ホワイトアウトというのだが、道路と畑の境目が分からなくなるので、落ちないように、道路端に立っている下向き矢印の除雪の標識(夜は赤いランプが点滅する)を、乾くくらい目を見開いて凝視し運転する。下手に停まると追突されるので、どんなに怖くてもゆっくりでも運転していく。
吹雪の夜に車のライトを遠目にして運転すると、車ごと空中に浮いていくような、前に進んでいるのか止まっているのか分からなくなるような、不思議な感覚に襲われる。頭がくらくらして、ふっと吹雪の中に吸い込まれそうな感じになるのだ。ここだけの話だが、この吹雪のトリップが、実は、私は結構好きなのだ。
でも国道でこれをやると危険なのでやらないが、最後うちに上る町道では、勝手知ったる道路だし、通行がほぼゼロなので、ハイビームトリップして遊んだりしている。
せっかく雪国に住んでいるんだもの。
ちょっとは楽しまなくちゃね。
地吹雪のただなかに年重ねけり 牛後
(じふぶきのただなかにとしかさねけり)