牛と暮らした日々-そこにあった句#43 ネコ
猫の死を猫には言はぬ寒日和 鈴木牛後
(ねこのしをねこにはいわぬかんびより)
就農した当時、以前から飼っていた4匹の猫のうち、年寄りの2匹は引き続き自宅で飼ったのだが、若い2匹は牛舎デビューさせた。牛舎では牛の餌を狙ってネズミが出るからだ。
でも、もともと家猫なのですぐに家に帰りたがる。いくら牛舎に戻しても、玄関の引き戸を自分で開けて帰ってくる。猫は開けても閉めないので冬はとても寒いし、牛のウンコの上を歩いた足で自宅の床を歩かせる訳にはいかないし。うちの猫は長靴をはいていないからね。田舎の農家では在宅なのに玄関に鍵をかける人はめったにいないのだが、うちでは猫侵入防止のため、しょうがなく鍵をかけていた。近所の人に「鈴木さん、家にいるのに何で玄関に鍵かけてるの~?」とか言われたりして。
その猫達もやがて亡くなったが、牛舎に猫がいなくなることはなかった。どこからかやってきては勝手に住みつくのだ。来るもの拒まず去るもの追わずの精神でやっているのだが、途中から住みついた野良猫がオスとメスだったらしく、いつの間にか子猫が生まれてしまった。そこで、これ以上増えないように避妊手術をすることにした。
でも野良なので簡単には人間に捕まらない。そこで罠を工作した。檻の中に牛乳を入れ、猫が入ると入り口の扉を落とすように滑車とヒモをつけた。そして毎日柱の影から見張り続けたが、警戒心が強すぎて、人間が視界に入ると檻の中に入らない。何度も失敗し、ついに牛舎の二階の床に穴を開けて、そこからこっそり見張ることにした。
夫が牛舎の二階の床に這いつくばって息をひそめ、ひたすらじっと穴からのぞきにのぞき、毎日のぞき、やっと入った!瞬間ヒモを離して捕まえた!やったー!!
やれやれ…。そして無事に手術に連れて行くことができた。
そんな感じで最近までは、パパ子、ママ子、シマ子、ハン子と4匹の猫がいたのだが、今は2匹になってしまった。後の2匹はどこにいったのか、わからない。残った猫達は仲間が減ったことに気づいているのかいないのか、相変わらず私に煮干をねだり、搾乳終わりの牛乳を待っている。