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牛と暮らした日々-そこにあった句#25 秋の霧

牧牛の自由は霧の柵の中  鈴木牛後
(ぼくぎゅうのじゆうはきりのさくのなか)

秋になって朝晩の気温がぐっと冷えてくると早朝に霧が出る。夜の間も放牧している牛たちが朝になってゲートの前に集まっているかどうか、真っ白でまったく見えない。



霧の牧動くものゐてもうゐない 牛後
(きりのまきうごくものいてもういない)
霧を出て霧へ入りゆく牧の牛 同
(きりをでてきりへいりゆくまきのうし)

集まっていると、ゲートを開けるだけでいいのでそのまま搾乳を始められるのだが、まだ遠くの牧区にいた場合、見えない霧の中で牛追いをしなければならない。群れの最後の牛が誰だか分からないので、早朝から野山を駆けずり回りひと仕事だ。集乳日だと焦る。


牛を追ふ霧のたひらに牧浮きて 牛後
(うしをおうきりのたいらにまきうきて)

この早朝の霧の風景は温かい地方の人には幻想的に見えるらしく、大阪から遊びに来た姪っ子に北海道旅行のどこが良かったか感想を聞くと、真っ白な霧の中をドライブした事と答えた。私たちにはごく普通の風景でも、見る人によっては面白い風景なのだ。これは北海道の観光資源だと思う。

また、山の上では晴れてても市街地にだけ霧がかかっていることがある。早朝に牛追いをしていると、うちのような低山からでも眼下に広がる雲海として見られる。寒いが、気持ちの良い風景だ。


「これを見るために放牧してるんだよな~」と北海道のおばさんがアルプスの少女になる瞬間だ。

さて、ブロッケン現象というのを知っているだろうか?
これは主に高い山でみられる気象現象で、背後から太陽の光があたったことで遠くの霧をスクリーンのようにして自分の影が映り、その周りに虹の輪が見える現象だ。
私と夫は大学時代ワンゲル部で登山をしていたのだが、ブロッケン現象を一度も見たことがなかった。

それが見えたのだ。ここで。

ある朝、夫が目撃した。
「おお。これが噂のブロッケン現象かー」
その話を聞いたとき「こんな低い丘でも?」とささやかに感動した。
こういうのを見られるのも、北海道の田舎暮らしの醍醐味だ。


霧の奥に牛が動く夜が動く 牛後
(きりのおくにうしがうごくよがうごく)


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