牛と暮らした日々-そこにあった句#16 放牧技術
我が足を蹄と思ふ草いきれ 鈴木牛後
(わがあしをひづめとおもうくさいきれ)
もうすぐ今年の牧草収穫作業が終わる。「牧草収穫作業」と言っているが、正確には「1番牧草の収穫作業」が終わる。
牧草は多年草で1年に2~3回収穫する。6月から7月、最初に収穫するのを1番牧草といい、2番牧草、3番牧草と続く。
3番まで取る人はあまりいないが、2番までは普通に収穫する。2番牧草はだいたい8月から9月にかけての仕事だ。
農家の間では「1番終わった?」「もう2番始めたのかい?早いねー」なんて言い方をする。
さてうちは放牧と採草の兼用地が3か所ある。(放牧専用地、採草専用地もある。)その3か所の兼用地は、1番で採草して2番で放牧に回す。
つまり、春に狭くして、夏になったら放牧地を広げるのだ。
これは最初から広い放牧地だと、スプリングフラッシュの草の伸びの勢いに、牛の食べるスピードが追い付かないので、牧草がぼうぼうになってしまうからで、一度伸びてしまった牧草は、生えている状態だと牛が食べなくなる。(刈り取ると食べる。不思議。)
そして夏に暑くなると草の伸びが悪くなって、面積が狭いままだと放牧地の牧草が足りなくなってくる。この、春に狭くして夏に広げるというのが、稼ぐための放牧技術なのだ。
なので、牧草収穫が終わってからの仕事のひとつに、放牧地を広げるというものがある。
牛が入らないように電気牧柵で囲っていたところを開放する。そして、別のところを新しく簡易柵で区切っていく。
真っ直ぐに張らなければいけないので足元ばかり見てる訳にはいかず、常に遠くを見て歩く。そして牛糞を踏んでしまう。とほほ。
遠くばかり見て夏草を踏む仕事 牛後
(とおくばかりみてなつくさをふむしごと)
今時期に始めるもうひとつの事は「夜だけ放牧」だ。
春からずっと昼夜放牧だったが、1番の収穫が終わる頃になると、昼間暑くなり、牛にたかるアブも出てくるので、夜だけの放牧にする。
このシステムにしたのは数年前からで、それまでは炎天下の日中でも牛を放牧に出していた。
放牧するのが、経済的にも牛にとっても良いと思っていたからだ。
その頃は、外が暑そうだと行きたがらない牛を無理矢理に牛舎から追い出していた。
でも太陽電池と逆で太陽に照らされると動かなくなる牛たちは、牛舎から出たままの場所でジリジリ照らされながらじっと動かずに集合したままだった。(お腹がへるとそのうち解散するのだが)
しかし数年前に、トンネル換気(巨大な換気扇を6台設置して牛舎に涼しい風が通り抜けるような設備)にしたのをきっかけに、真夏の日中は牛を牛舎に入れておくことにした。
今は涼しい牛舎で餌を豊富に与えられて、牛たちは幸せそうに寝そべっている。暑い日中を半日牛舎で休んでから、涼しくなった夕方に放牧地に離すと、はつらつと牛舎から出て行く。
同じ北海道でも夏が涼しい根釧地方などではなく、ここのような夏が暑い地域では、こういうやり方もありだなと最近は思っている。
牛をらぬ夏野に涯の無きごとし 牛後
(うしおらぬなつのにはてのなきごとし)