牛と暮らした日々-そこにあった句#29 電牧下ろし
牧柵の残されてゐる草紅葉 鈴木牛後
(ぼくさくののこされているくさもみじ)
半年の放牧が終わると、次の仕事は電牧下ろしだ。雪の降る地方では冬の間に電牧を杭から外し地面に下ろしておかないと、雪の重みで切れてしまうのだ。
実際、2017年の冬は10月下旬に降ったドカ雪の初雪がそのまま根雪になって、電牧を下ろす前に放牧地に行けなくなってしまった。すると次の春、電牧を上げるために放牧地を回ると、ひどい事になっていた。電気の線があちこちで切れているだけではなく、コーナーポスト(電牧用の支柱)が何本も根元から折れていたのだ。それぐらい雪は脅威だ。
根雪にならないうちに早く終牧して電牧を下ろしてしまえばいいのだが、糞尿処理の手間が増えるのと冬の貯蔵牧草が減ってしまうという理由で、できるだけ秋遅くまで放牧していたい。この時期は、終牧と放牧とのせめぎ合いだ。秋の終わりになると、いつ根雪になるか、天気予報をヒリヒリしながら見ている。
さて、今まで電牧下ろしは私ひとりでやる事が多かった。
それは、春も秋も牧柵作業と糞尿散布作業が時期的にかぶるので、夫の尿撒きが終わるまで待っていると、春は草が伸びすぎになり、秋は根雪になってしまうからだ。
春と同じで秋もリュックを背負って雑木林の急斜面を背丈よりも高い笹薮を漕いでいく。
リュックには熊鈴を付けて、リンリン鳴らしながら行く。
ヒグマも怖いが、ヒト対策でもある。想像してほしい。熊笹をガサガサ言わせながら何かが近づいてくるところを。近づいてくるのは私(人間)だ。でも近づかれる方は怖くないだろうか?ヒーっとなるのでは?熊鈴は、もし誰か人間(山菜採り、キノコ採り、植林作業員、もしくはハンター)がいた場合に、「私は獣ではない」と知らせるためのものでもある。
今年は初雪が遅かったので、雪が降る前に終牧した。平和な電牧下ろしだったようだ。(今年は、後継者のKさんが下ろしてくれた)
牧閉ぢて牧柵凛と伝ふ尾根 牛後
(まきとじてぼくさくりんとつたうおね)