【短編小説】屋上と魚
「わたしは、いつ死んでもいいと思ってるんだ!いつがいいかな?明日?あ、やっぱり明後日がいいかな?」
目の前で、真っ黒な目をした女の子が、楽しそうに話しかけてくる。
意味がわからない。
彼女と僕は、同じ委員会で、学校の玄関に置いてある魚たちの世話をするだけの仕事を任されていた。
毎日朝と放課後に餌をやり、週に1回水槽の掃除をする。それだけ。なのにどうして彼女は突然こんなことを?
僕が屋上に呼び出されたのは放課後の餌やりが終わって帰ろうとしていた時だった。
「ねぇ、まだ帰らないでっ、今日はさ、屋上に一緒に行こうよ」
彼女に委員会の仕事以外の話を振られたのは初めてで少し驚いたが、特に用事もなかったのでいいよと言った。
そして今。
屋上につくなり彼女は例の台詞を口にした。
「ねぇ、いい考えだと思わない?…いいって言ってよ」
「僕にいいって言う資格がないと思うんだけど」
「なんで!委員会半年一緒の仲じゃん!意味わかんない!」
意味がわからないのはこっちだ。他人が死にたいと言っていることに対して事情も知らずに簡単にいいよとは言えない。
「君のこと、知らないのに、そんな大きな決断僕に委ねないでよ」
「なんで!わたし、毎日わたしのこと話したよ!魚に餌をやりながら、毎日まいにち。それでも君はわたしのこと知らないって言えるの?それに死ぬことはわたしにとって大したことじゃない」
「じゃあ死なないで」
「じゃあ一緒に死のうよ」
なぜそうなるんだ。
「わたしにいなくなってほしくないからしんでほしくないんだよね?それだったら一緒の世界に行こうよ。」
違う、って言えなかった。
言ってしまったら、彼女を殺してしまいそうで。
でも、何て言ったらいいのかわからない。
混乱して頭を抱え、唸っていた。額にギトギトした汗が噴き出していた。
口をつぐんでいたら、彼女は空を飛んだ。
「見てて!こうやるだけだよ!」
僕は何もできなかった。
終わり