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ブエルタ・ア・エスパーニャ2021 第16ステージ

いよいよブエルタの第3週が開幕する。但し、休息日明けの第16ステージはまずは「足慣らし」。スペイン北端、ビスケー湾を臨むカンタブリアの海沿いを走る。

とはいえ、スプリンターチームにとってはもしかしたら今大会最後の集団スプリントのチャンスとなるかもしれないこの日。全力の戦いが始まる。

コースプレビューはこちらから


アクチュアルスタート直後に落車が発生し、総合争いにも加わりかけていたジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)や積極的に逃げに乗っていたセップ・ファンマルク(イスラエル・スタートアップネーション)がリタイアするなどの波乱もありつつ、最終的には以下の5名の逃げが形成された。

スタン・デウルフ(AG2Rシトロエン・チーム)
イェツ・ボル(ブルゴスBH)
ミケル・ビスカラ(エウスカルテル・エウスカディ)
ディミトリ・クレイス(チーム・キュベカ・ネクストハッシュ)
クイン・シモンズ(トレック・セガフレード)

残り73.8㎞地点の3級山岳への登りの途中で、マキシム・ファンジルスに牽かれたハーム・ファンフック(ロット・スーダル)が集団から抜け出して合流し、先頭は6名に。

それでもタイム差は2分ちょっとしか許されず、展開は集団スプリント以外のなにものでもないように思われた。


ただし、何もしなければまたドゥクーニンク・クイックステップのファビオ・ヤコブセンに勝利を奪われると分かっていた他チームは攻撃を仕掛ける。

その筆頭がマッテオ・トレンティン率いるUAEチーム・エミレーツ。

残り60㎞を切ってから始まるカテゴリのない登りで、UAEが数を揃えて集団を牽引しペースアップ。たちまち集団が分裂し、ヤコブセンが後続に取り残される事態に!

この動きで、一時はメイン集団に30秒近いタイム差をつけられてしまったヤコブセン。

それでもなんとかそのあとの下りと平坦で集団に復帰し、UAEの試みは失敗に終わった。


その後も逃げ集団からイェツ・ボルやスタン・デウルフらがアタックしたり、集団からアンドレアス・クロン(ロット・スーダル)が抜け出しを図ったりと小さな起伏ごとに動きが巻き起こるが、最終的にそれらはすべて集団に吸収され、予定通りの大集団スプリントへと突入する。

ここまでいいところのないグルパマFDJがトレインを作って残り3.3㎞まで先頭を支配するが、そこからは今度はボーラが先頭を奪い取る。

ドゥクーニンク・クイックステップはヨセフ・チェルニーが先頭に躍り出ていつもの支配権を確立しようと試みるも、後ろを振り返るとチームメートの姿がない。緑ジャージを纏ったファビオ・ヤコブセンも、かなり後方に追いやられていた。

それでも残り2㎞を切るころにはなんとか体制を整え、ヤコブセンを最後尾においたブルー・トレインが集団先頭に姿を見せ始める。


しかし、残り1㎞を切ってからもカーブと減速帯が連続したために、第13ステージのような圧倒的なトレイン力によるねじ伏せは不可能。

集団の先頭はごちゃっと横に広がるような状況となり、ヤコブセンもライバルチームの選手たちに囲まれて身動きが取れない状態。

最終発射台のベルト・ファンレルベルフも後ろにエースを置けないまま一人飛び出す格好となってしまった。


すなわち、アシストのいない乱戦状態。

それでも、ファンレルベルフに続いて先頭に立つこととなったアレクサンダー・クリーガー(アルペシン・フェニックス)が残り300mから強烈に加速を開始すると、そこに喰いついていったジョルディ・メーウスが、残り150mのホームストレートに入った瞬間からスプリントを開始した。

メーウスの背後についていたヤコブセンはまだ、飛び立たない。

代わりに、そのヤコブセンの右隣に上がってきたマッテオ・トレンティンが、同じくカーブ直後の立ち上がりで加速を開始した。


決して、良い位置とは言えなかった。

コース左端を走るメーウスの左隣にはスペースがなく、ヤコブセンは右に出るしかなかったが、残り150mの加速段階でその位置にはトレンティンがいた。

だが、トレンティンが追い抜くと同時にヤコブセンがスプリントを開始すると、トレンティンはすぐさまその体を右に移動させた。

偶然かもしれないし、あるいは不用意な接触で自らの勝機を失うのを避けようとしたのかもしれない。

しかしベテラン・トレンティンのこのクリーンな動きによって、ヤコブセンは進路を獲得し、その最強の足を存分に発揮する機会に恵まれた。


あとはもう、ただ勝つだけだった。

今大会3勝目。そしてマイヨ・プントスをほぼ確定づける、決定的な一撃。

あの悲劇からわずか1年で、彼はこのスペインで最強のスプリンターとなった。

第16ステージ


そして今度こそ本当の「3週目」が始まる。

今大会総合争いの最終決戦にして「本当の舞台」となる、超級山岳山頂フィニッシュ2連戦。

その1日目は、登坂距離7.6㎞・平均勾配9.3%の1級山岳を2回登ったのちに訪れる、悪名高き「コバドンガ」。

そしてこの日もまだ、今大会の「最凶」ではないのだ・・・。


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