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パリ~ルーベ2022

3年ぶりに春に戻ってきた「北の地獄」パリ~ルーベ。昨年とは打って変わって快晴のもと行われた「砂埃のパリ~ルーベ」は、序盤から前例にない波乱の展開が続いた。


最初の石畳に到達すらしていない残り120㎞台ですでに先頭は50名ほどの大規模集団が形成される。主なメンバーは以下の通り。

フィリップ・ジルベール(ロット・スーダル)
ティモ・ローセン(ユンボ・ヴィズマ)
マイク・テウニッセン(ユンボ・ヴィズマ)
フィリッポ・ガンナ(イネオス・グレナディアーズ)
ベン・ターナー(イネオス・グレナディアーズ)
ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
ダヴィデ・バッレリーニ(クイックステップ・アルファヴィニル)
イヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)
フロリアン・セネシャル(クイックステップ・アルファヴィニル)
ヤニック・シュタイムレ(クイックステップ・アルファヴィニル)
マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)
アンドレア・パスクアロン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ニキ・テルプストラ(トタルエナジーズ)
マチェイ・ボドナル(トタルエナジーズ)
ダニエル・オス(トタルエナジーズ)
ニキアス・アルント(チームDSM)
セバスティアン・ランゲフェルト(EFエデュケーション・イージーポスト)
シュテファン・ビッセガー(EFエデュケーション・イージーポスト)
フアン・モラノ(UAEチーム・エミレーツ)
イェンス・レインダース(スポートフラーンデレン・バロワーズ)

イネオス・グレナディアーズが3名、クイックステップ・アルファヴィニルが4名を乗せるこの先頭集団に対し、マチュー・ファンデルプールやワウト・ファンアールト、シュテファン・クンらは1分以上のタイム差をつけて追いかける展開。

元々ミハウ・クフィアトコフスキもこの先頭集団に乗っていたが落車してファンアールトの集団に飲み込まれながらも、そこでローテーション妨害を行うなど、イネオスが非常に積極的な動き。

とはいえ、例年以上のパンク・落車の頻発に、イネオスも洗礼を受け続ける。上記クフィアトコフスキのほか、フィリッポ・ガンナがパンクやチェーン落ち、ファンバーレがメカトラなど。そのほか優勝候補の1人だったアントニー・テュルジス(トタルエナジーズ)が落車してリタイアし、元世界王者マッス・ピーダスンもパンクに見舞われている。

平均時速47㎞という過去最高のスピードで最初の5つ星アランベールに突入したプロトンではワウト・ファンアールトが遅れていく姿が。やはり新型コロナウィルス復帰初戦は、彼自身がそう告げるようにアシストに徹するしかないコンディションなのか?


そんな、例年とは全く異なる激しい前半戦を経て、後半になってようやく落ち着きを取り戻しながら少しずつ「いつもの」風景が生まれてくる。

先頭は4名。

マテイ・モホリッチ(バーレーン・ヴィクトリアス)
カスパー・ピーダスン(チームDSM)
トム・デヴリーント(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ローラン・ピション(アルケア・サムシック)

先ほど抜け出した50名のほとんどはファンデルプールらの集団に飲み込まれてメイン集団を形成。残り90㎞で先頭4名とは1分30秒差。このタイム差も少しずつ開いていく。


そして残り70㎞台から始まる「魔の20㎞」。過去にも決定的な抜け出しが何度も生まれている、非常に危険なエリア。

その中でも過去、トム・ボーネンやペテル・サガンの独走勝利の起点となった「オルシー以降の平坦路」にて、ネイサン・ファンフーイドンクの牽引の末にワウト・ファンアールトが飛び出した!

アシストに専念するんじゃなかったのかよ!(エース予定のクリストフ・ラポルトが調子悪かったので仕方ない)


残り55㎞。カスパー・ピーダスンを欠いた先頭3名を追いかける12名の第2集団が形成される。

マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
ギヨーム・ファンケイルスブルク(アルペシン・フェニックス)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
シュテファン・クン(グルパマFDJ)
ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
ベン・ターナー(イネオス・グレナディアーズ)
イヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)
フロリアン・セネシャル(クイックステップ・アルファヴィニル))
ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)
アドリアン・プティ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
タコ・ファンデルホールン(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
マッテオ・トレンティン(UAEチーム・エミレーツ)

過去の例にもれず、このタイミングでのこの抜け出しがそのまま「最終列車」となった。以降、この後続の集団の選手は一切カメラに映らずにレース終了を迎えることとなる。


残り50㎞の2つ目の5つ星モン=サン=ペヴェル。

ここでさらにファンアールトが加速して集団の数を絞りこみにかかる。

舗装路でマチュー・ファンデルプールとシュテファン・クンも追いついてくるが、この日、ファンデルプールは常に、「出遅れる」姿が目立っている。

ここにさらに数名が追いついてきて第2集団は9名に。

マチュー・ファンデルプール(アルペシン・フェニックス)
ワウト・ファンアールト(ユンボ・ヴィスマ)
シュテファン・クン(グルパマFDJ)
ベン・ターナー(イネオス・グレナディアーズ)
ディラン・ファンバーレ(イネオス・グレナディアーズ)
イヴ・ランパールト(クイックステップ・アルファヴィニル)
ジャスパー・ストゥイヴェン(トレック・セガフレード)
アドリアン・プティ(アンテルマルシェ・ワンティゴベールマテリオ)
ローラン・ピション(アルケア・サムシック)

モホリッチとデヴリーントだけになった先頭から30秒差。

そしてこの直後、モホリッチがパンクして先頭から脱落。


残り35㎞。シュテファン・クンがアタック。ここに、すぐさま反応して捕まえるワウト・ファンアールト。

いつもの彼らしくない、反応の早さ。病み上がりの今回、彼は決して優勝候補とは思われず、彼自身も「勝たなくてもいい」という思いがあったのかもしれない。それがいつもよりずっと自由で伸び伸びとした走りを生んでいるように思う――昨年の世界選手権とは全く違って。

逆にマチュー・ファンデルプールは反応が遅い。ロンド・ファン・フラーンデレンの最後のスプリントも実にクレバーだった彼。そしてアムステルゴールドレースの最終盤でも周りの評価とは裏腹にコンサバだった走り。

ファンデルプールは「大人になった」。良くも悪くも(あるいはもちろん、快進撃に忘れそうになるが、腰や背中の痛みが決して万全にはなっていないことの結果なのかもしれない)。


そんな、最有力候補が曖昧になりつつあったこのメイン集団の中から。

決定的な動きは残り30㎞で生まれた。

まずはイヴ・ランパールトがアタック。そこにモホリッチが反応し、2名で抜け出す。

これを追いかけるメイン集団の先頭はベン・ターナー。精鋭9名の中で、唯一アシストとして残っていた男。

そして彼が全力で牽ききったあと、その集団の最後尾から一気に加速したのがディラン・ファンバーレであった。


昨年のドワースドール・フラーンデレン覇者。今年のロンド・ファン・フラーンデレンでも、最後ファンデルプールとタデイ・ポガチャルに追い付いてスプリントの末2位になった男。

その強さは紛れもない男であったが、それでも、「ルーベを制する」イメージは正直、あまりなかった。


そんな彼が残り30㎞で精鋭集団から抜け出し、先行していたデヴリーントにモホリッチとランパールトとともに合流。先頭4名。

後続の集団ではジャスパー・ストゥイヴェンのアタックにクンとファンアールトが追随し、ファンデルプールは追いかけることをせず、背後を振り返る。

しかしそこには、前にチームメートを置いているターナーとプティ、それから体力的に限界のプロチームのピションだけ。牽くことを期待できるメンバーではなかった。

もう自ら追いかける余裕がないのか。

牽制で機を逸するという、実に彼らしくない「終わり方」だった。


残り19㎞。カンファナン=ペヴェル。

最後の5つ星カルフール・ド・ラルブルの直前の重要セクションで、先頭4名からファンバーレがアタック。

ずっと逃げていたプロチームのデヴリーントはさすがにもうきつそうで、ランパールトとモホリッチの2人だけが追いかける。

後続はストゥイヴェンがパンクで脱落し、ファンアールトとクンが追いかける。26秒差。

そして、カルフール・ド・ラルブルに突入。

ファンバーレはペースを落とすことなく、ひたすら独走で突き進む。10秒差で追いかけていたモホリッチとランパールトも、残り6㎞でランパールトが観客と接触して激しく落車したのち、モホリッチも足を使い果たしたのか脱落していく。

そしてクンとファンアールトは1分近いタイム差が開いてきている・・・。


ディラン・ファンバーレ。強いことは誰もがわかっていたが、しかし意外な男の勝利。

そしてこれは、イネオス・グレナディアーズにとっても、アムステルゴールドレース、ブラバンツペイルに続く、北ヨーロッパワンデーレース3連勝の達成であった。

デヴリーントも、ほぼ実質プロチーム級の経歴しかない中で、執念の4位。こういう、驚きのリザルトを残す男が出てくるのがパリ~ルーベの魅力の1つである。

その他、頻発した落車やパンクの影響もあってか、割合意外なメンバーの並ぶリザルト。今年のパリ~ルーベは快晴ではあったが、ある意味で昨年同様に「荒れた」レースであったのは間違いない。


そして、11位にはベン・ターナー。今年ネオプロ1年目の22歳。にもかかわらず、アムステルゴールドレースから続くイネオスのワンデーレース3連勝のすべてに関わっている、縁の下の力持ち。ブラバンツペイルでは4位にも入っている。

今年のイネオスのクラシック班はここまで間違いなく成功を掴み続けているが、その中の重要な1ピースは、この若き未知数な男にこそ秘密がありそうだ。

続くアルデンヌ・クラシックには今のところ出場予定なし? ただ、今後も注目の存在であることは間違いない。


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