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スター

そこにいたのは、正しくスターだった。


ライブ参戦を何よりの生き甲斐とする僕は、年に15回ほど好きなアーティストのライブへ行く。

主にアイドルと邦ロックがメインで、毎年同じ人たちを追いかけ、時間を共にする。

そんな僕が、先日初めましてのアーティストのライブへ行った。

その名は、福山雅治さんだ。

誰もが知る国民的歌手だが、少し前までの僕にとって、彼はどこか遠い存在だった。

しかし、僕が大学生でラジオというものに出会ってから、福山雅治という存在は僕の中で確かな憧れとなった。

福山雅治の福のラジオ。
あの国民的歌手が、物凄くイケボで、
驚くほど親しみやすく話してくれるその時間は
僕にとってかけがえの無いものとなった。

ある種親戚のおじさんの様な安心感すらも味わっていた。
ひとりで夜を超えたくない時、ましゃのラジオを聞きに行くと救われるものがあった。

福山雅治のオールナイトニッポンがリアルタイムで聞けた時代に生まれていなかったことを悔いた程だ。

今は様々な方法で過去に飛べるが、リアルタイムには勝てない。

オールナイトニッポン55周年の特別企画で『福山雅治のオールナイトニッポン』が一夜限りの復活をした時は、泣いた。

初めて、生でタイトルコールを聞けた。
それだけで涙するほど僕は福山雅治に心酔しており、
これはライブに行くしかない、とライブ好きとしては必然の思考になった。

WE’RE BROS. TOUR 2024
Flowers and Bees, Tears and Music.

🌼  🐝  💧‬  🎶


初めての福山雅治にワクワクが止まらない。

座席もステージ寄りのスタンドで、よく見える。
演出連動ライトもアプリと連携させ、準備はバッチリ。

今か今かと待ち構えた先に現れた生の福山雅治。キャーという歓声の声。

…キャーという歓声の声?

僕はまず、ここで驚いた。

そうか、彼はキャーと言われる存在だった。
考えてみれば、分かっていたことだった。

しかし、僕の頭にその発想がなかった。

なぜなら、彼のラジオに心酔した僕が、彼を親戚のおじさんと勘違いできるほどに、親しみやすかったからだ。

改めて、福山雅治の凄さを突き付けられた気がした。あんなにもキャーと言われる存在が、これほどまでに親しみやすくもなってくれるなんて。
それは、ラジオも続く訳だ。
長く続くものには必ず理由があることを知った。

初めて聴く彼の生歌は勿論、最高だった。
歌もトークも上手いし、カッコイイ。
楽しいに決まっている。

序盤は普段行く他のアーティストのライブと、何ら変わらず楽しめていた。

しかし、僕は徐々に違和感に気が付き始める。

そう、その違和感とは、彼はひとりであるということだった。

これもまた、当然知っていたことだ。
しかし、目の前でたったひとりで会場を埋めつくしキャーと言われる彼を見るまで、ひとりで活動している、という事実を実感していなかった。

先にも述べたように、僕の行くライブの殆どは、アイドルグループと邦ロックのバンドである。
1度だけ米津玄師さんのライブを訪れたことがあるが、その他は全てグループが組まれたものであり、たったひとりがステージに立ち、全員が彼だけを見ている光景には圧倒された。

シンガーソングライター。
その職業の偉大さが、徐々に己を侵食し始めた。
あまりにも、凄い。

後半のMCで、彼は問うた。
「今年で33周年です。1番最初のライブから今も来てくれているひと、いる?」

「はーーーい!」

僕の隣の女性が声をあげた。
会場のどよめき。

「そんなに長く僕を好いてくれてありがとう」

このやり取りは、僕の今までの人生で見たことの無いものだった。

33年間続けた先にしか見れない光景は、確かに存在するのだ。

23歳の僕は、どう抗っても勝てないそのファン歴史に、尊敬とほんの少しの嫉妬を抱いた。

隣の女性は、久しぶりに披露するという福山雅治の弾き語りを見て、涙していた。

その光景は、
誰かを推すという行為も、長く続けるとその人の人生そのものになる
ということを僕に教えてくれた。

趣味は何ですか?と聞かれる度に、
「旅行に行く」と言うと主体的で許されるのに、
「ライブに行く」と言うと受け身で許されないような風潮を味わったことがあったが、

たった1度行くことと、33年間通い続けることは、当たり前に違う。

そのアーティストの歴史を全てと言えるほど見てきた彼女にしか分からないものは、必ず存在するのだ。

推すという行為は、尊いなと素直に思った。


年齢が比較的自分と近めのグループばかりを推していた僕にとって、
55歳のシンガーソングライター 福山雅治のライブは異質の空間だった。

1 対 無限のファンサが通じる存在。
そこにいる誰もが彼だけを見ていて、彼は全員への感謝と愛を述べる。
それが、その空間の、正解なのだ。
僕の知らない世界がそこにはあった。
全員に向けた投げキッスで、会場が湧く。

彼は、スターだった。

新参者の23歳はお邪魔させて頂いている感が満載で、コールもままならなかった。

今から足掻いても絶対に敵わないファン歴の長さというものも、初回で実感してしまった。

それでも僕は僕なりに福山雅治が好きだし、
敵わない歴史にはリスペクトの気持ちを抱いた。

一生新参者でも構わない。

僕はこれから毎年、福山雅治のライブに通うことを決めた。

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