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【エッセイ】陶製の湯たんぽがもたらしてくれた、冬に向けての「小さな喜び」

 お気に入りのコーヒー屋さんの1杯のコーヒーや、着るだけでちょっぴりテンションがあがるオレンジ色のニットなど、日常生活の中で小さな喜びをもたらしてくれるアイテムがいくつかある。

 その中に今年は“ニューフェイス”が加わった。何かというと「陶製の湯たんぽ」。岐阜の多治見にある老舗の製陶所で作られたもので、形は上下は平べったい楕円形。触った時の、つるつると滑らかな触感が心地よい。

 この湯たんぽと出会ったのは、9月に旅行で訪れた岩手県の雑貨屋さんの店先だった。オーナーおすすめの食品や生活用品などが並ぶ中、湯たんぽを見つけた。思わずじっと見つめてしまったのは、冬に備えて湯たんぽを探していたタイミングだったからだ。

 私は手先と足先が冷えやすく、冬の夜が大きな悩みだった。厚手の靴下をはき、湯たんぽを布団に入れて眠りにつくものの、夜中や明け方に寒さで目が覚めた。再び眠ろうとするが、湯たんぽもすっかり冷めてしまっていて、感じるのは寒さばかり。朝まで眠れないので、睡眠不足となった。その反動で日中、職場で仕事中に眠くなり困っていたのもあり、早くから夜の冷え対策に力が入っていたのである。

 湯たんぽに見入っていると、オーナーの女性が話しかけてくれた。「こちらの湯たんぽは陶器でできているので、朝まで温かいですよ」という。この言葉に惹かれ手にとってみたところ、ずしっと重かった。それもそのはず、後で知ったことだが重さが1.4キロもあるのだから。湯たんぽとしては重い方に入るであろう。

 その時は旅行で荷物が多かったため、購入を見送ったが、帰宅後にオンラインショップで注文した。数日後に手元に届くと、早く使いたくてうずうずし、気が付くと「早く冬がこないかな」と口にしていた。冷えに悩まされて苦手だった冬を待ち望むなんて、生まれて初めてだったかもしれない。

 結局のところ、冬の到来を待ちきれずに11月から新しい湯たんぽを使っている。夜、入浴前にやかんでお湯を沸かし湯たんぽに入れ、蓋をしてタオルケットと敷き布団の間に入れておく。入浴後に髪を乾かし、いざ布団に入るとぽかぽかし、手先と足先にじんわりと温かさが広がる。その温かさは朝まで続き、寒さで目覚めることなくぐっすりと眠れている。

 そして何よりの至福の時は、朝である。5時過ぎ、外の気温は1桁台と寒さを感じる日が多いが、湯たんぽのお湯を流す時に、冷えた手にかけると手先が一気に温かくなる。「ああ、何と気持ちいいのだろう」と思わず声に出したくなるほどの幸せを感じる。

 旅先で偶然出会った湯たんぽが、日常生活に小さな喜びをもたらしてくれた。これからもそのようなアイテムにたくさん出会えればいいなと思う。