見出し画像

【日記】レモンタルトに恋焦がれたり、電車が止まったり、子どもを心配したり。

4月13日。木曜日。

今日も子どもたちの学校の時間に合わせて起床する。朝ご飯の準備をして、子どもたちが食べ終わったら、長男には昨日眼科でもらってきた目薬を点眼し、軟膏を塗る。数日前に次男の足の親指の爪が少し割れてしまい、悪化しないように絆創膏を貼るのも手伝う。ドタバタ身支度の補助をしていたらあっという間に出発時間はやってきて、なんとか無事子どもたちを学校へ送り出す。

今日は子どもたちが学校に行っている間に外出予定があった。週末に夫の親族と集う予定があり、そのときに渡す手土産を買いに行くのだ。目的地のオープンの時間までは時間があったので、いつも通り洗濯物を干して家に掃除機をかけ、朝ご飯ににゆっくり納豆ご飯をいただく。そのあと身支度をした。今日はせっかく外出するのなら、その流れで素敵なカフェにも寄ってくるつもりだったので、近所で過ごす服装より身なりに気を遣う。イヤリングもつけて、少し華やかに。

時間になったところで在宅勤務の夫に「いってきます」と声をかけて外に出た。マンションの下に降りたところで一つ下の階に住んでいるママ友とばったり顔を合わせる。大量の洗濯物が入った袋を持っていたので事情を聞くと、家の乾燥機の調子がイマイチらしく、これから洗った洗濯物を乾燥させにコインランドリーまで向かうらしい。マンションから徒歩3分以内に位置するコインランドリーまで一緒に歩いて、短い時間でお互いの近況報告をした。また新学期が落ち着いたら遊ぼうと約束して彼女と別れる。私はそのまま最寄り駅に向かった。お天気も良く、散歩に気持ちいい気候だった。

最寄り駅から10分ほど電車に乗って目的の駅に着く。行き先の駅は都心とまでは言わないけれど賑わいがあって、素敵なお店が立ち並ぶ街だ。ちょっとした買い物をしたいときなどはよく利用している。駅から少し歩くとお目当てのデパートにたどり着き、迷わず地下一階の食品店エリアを目指す。事前にどんなお店があってどんな品物を揃えていえるか、ある程度ネットで調べていたので目星はついていた。

親族へのご挨拶の品(しかも夫側の親族!)ということで、下手なものをあげるわけにはいかない。別に親戚や夫からプレッシャーがあるわけではなく、私自身がそういうところはある程度ちゃんとしたいのだ。そして実は私が、そもそもそういうデパ地下にあるような少しお高い食品店が好きなのだ。そういう空間でお買い物をしたり手土産を選ぶ行為を楽しいと感じる性質がある。

そう書くと、なんだか私がもともと金持ちの生まれで高級店での買い物に慣れているかのように聞こえるかもしれないが、私自身は普通の一般家庭の出でしょっちゅうデパートに行く、という人種ではない。でもやっぱりなんとなく昔からデパートの雰囲気に惹かれて、大学生の頃は2年ほどデパ地下の洋菓子店でアルバイトをしていた。そのときにデパ地下という場所により親近感を持ったのもあるかもしれない。

ということで目的の食品店エリアに到着すると、事前候補も含めていろんなお店を見て回った。ただ見て回っているだけでなんだかウキウキ楽しい。じっくり吟味した結果、最終的には事前に調べてきた候補の和菓子屋さんで水羊羹の詰め合わせを選ぶ。内容金額ともになかなかナイスチョイスではないかと満足する。ただ、羊羹の詰め合わせを三つ購入して、荷物はなかなか重量感があり、持って帰るのはちょっと大変そうだった。でも、納得のいくギフトを手に入れられた満足感と安堵感のことを思えば、多少の持ち運びの労力くらい別に気にならない。

無事買い物を済ませて時間を確認すると、今日立ち寄ろうと思っているカフェのオープンまで少し時間がありそうだったので、少し寄り道して駅近くにある本屋さんに立ち寄ることにする。本好きな私は、特にお目当ての本がなくても、時間があるとつい出先で本屋さんに吸い込まれてしまう(そしてちゃっかり買ってしまうこともある)。

訪れるのが少々久々のその書店、いざ店頭に立ったら、真っ先に目に飛び込んできたのは村上春樹氏の新刊だった。そうだ、今日は村上春樹の書き下ろし新刊が数年ぶりに発売される日だった。新刊が出るたびにものすごく注目度が高い村上春樹の本の発売日、きっと日本各地の本屋さんにとってはビッグイベントなはず。私が数年前に出版取次にいた頃にも村上春樹の新刊が出るタイミングがあり、その時はやはり社内含め出版業界全体がバタバタしていたのを思い出す。

と、村上春樹に思いを馳せながら、実は私は彼の著書はあまり好みではなく、手にとったタイトルも数少ない…ぼそり。本は、誰でも好みがあるもんね、ねっ。今回も新刊を前にして「おぉーこれが!」と思いつつ、他の本に目を向けた。店内をゆっくり一周しつつ、今日は購入に至るまでの本はなかったので、カフェのオープンの時間に合わせてお店をあとにした。

お目当てのカフェは本屋さんから歩いて5分ほどの距離だった。表通りから一本入った路地裏のような場所にあるビルの2階にそのカフェはある。店内の雰囲気も提供されるメニューも大人なナチュラルテイストがかわいらしいカフェ。しょっちゅうではないけれど、数ヶ月に一回はランチやお茶のために訪れている。おひとり様でもウェルカムな雰囲気が心地よい場所だ。今日は実は具体的にお目当てのメニューがあった。毎年4月頃限定で出てくるレモンのタルトだ。私がレモンタルトが大好物なのだけど、人生で食べた中でももしかしたらここのレモンタルトが一番自分の好みに合うのではないかと思う。期間限定なので、毎年この時期を狙って少なくとも一度はそのレモンタルトを食べに来ている。

オープンとほぼ同時にお店に到着したのだけど、私の前に既に二組お客さんが入っていた。店員さんが感じよく応対してくれて、窓際のいい席に案内してもらえた。私が一番お気に入りの席、ラッキー!店員さんがメニューを持ってきてくれたときに「お食事ですか?」と声をかけてくれる。「いえ、お茶で」と答えればよかったのに、あまりにお目当てのレモンタルトのことばかり考えすぎていて、とっさに「お茶」という言葉が出てこず、「あ、えっと、えっと」としどろもどろになる。「あ、お茶でよろしいですか?」とフォローしてくれる店員さんに、慌てて「あ、はい、そうです」と頷く私。レモンタルトを楽しみにしすぎて挙動不審。

食べるものはレモンタルトで決まっていたけど、飲み物をどうしようかとメニューに目をやる。そのときの気分で、ホットのロイヤルミルクティーにした。無事店員さんに注文を伝え、お水をいただいたり、持ってきた文庫本を開けて読みはじめていたら、しばらくして注文したものを店員さんが持ってきてくれた。

はぁ…!これぞ私が求めていたもの!

愛しのレモンタルト!見た目からして魅力的。


お目当てのレモンタルトがかわいくお皿に乗ってやってきた。そのオシャレな見た目からして心が満たされる。続いてタルトの横に白い布のナプキンが敷かれ、その上にロイヤルミルクティーのカップが置かれた。おぉ、なんだかおしゃれなセッティング!

…と、最初はナプキンとマグカップの組み合わせもときめいて見ていたのだけど、ふと疑問が湧く。このナプキンは、コースター代わりみたいな位置付けなんだろうか?仮にミルクティーが少しカップを伝って下に落ちた場合、この真っ白なナプキンに染み込んでしまうけれど、それはそれでコースターだからそういう用途として気にしなくていいのだろうか。でも、こんなにまっさらで真っ白なナプキンにお茶の茶色い染みがついてしまうと、きっとあとで洗うのも大変だろうからなんだか申し訳ないし、そもそもなんだかお茶がまっさらなナプキンに染み込んだ絵というのは、あまり美しくない。若干ナプキンの正体はわからないまま、とりあえず極力お茶がカップを伝って下に落ちないよう気をつけようと心の中で誓う。

まずはロイヤルミルクティーを一口。お、おいしい!紅茶の程よい苦味にミルクのなめらかさが相まって、とても優しい味わいだった。お砂糖を入れなくてもそのままで美味しくて、つい何口も飲み進めてしまう。しばらくミルクティを味わったあと、いよいよ念願のレモンタルトをいただく。

はぁ…!これこれ!
これが食べたかったんだー!!

酸味が強いレモンクリームの上に少し甘みを足したレモンクリーム、そして一番上に生クリーム、と何層かになった酸味と甘みのハーモニー。そこにサクサクで香ばしいタルト生地が加わって、もう口の中が幸せの頂点だ。約一年ぶりの好物の味に感動して、目の前が窓なのをいいことに、目を瞑って思う存分意識を舌に集中させて味わう。一度口にしてしまったら、美味しすぎてもっともっととついつい食べ進めてしまって、食べ終えてしまうのご惜しい気持ちになる。合間にミルクティーを挟みつつ、できる限り目の前のレモンタルトを味わった。

惜しみながらも最後の一切れを食べ終えると、ミルクティのほうはまだ残っていたので、ちょびちょび口にしつつ、しばらくゆっくり本を読んだり。この日持ってきていたのは「満月珈琲店の星詠み」という文庫本だった。私がお店に入ってきて以降はお客さんは増えておらずまだ空席もあったので、気兼ねなくゆっくりさせてもらうことができた。

しばらくしてミルクティも飲み終えてしまうと、荷物をまとめて席を立った。レジでお会計をしてもらうとき、「レモンタルトすごく美味しかったです!」と店員さんに思わず声をかける。すると店員さんもニコッと笑って、「ありがとうございます!まだ一ヶ月くらいはレモンタルトやってますので、よかったらぜひまたいらしてくださいね」と返してくれた。店員さんのとの温かいやりとりもなんだか嬉しく、心地よい気分でお店をあとにした。

よい気分のまま駅に向かい、帰りの電車に乗ろうとしたら、何やら改札付近に人だかりができてざわざわしている。さらに近づくと、改札前に臨時の掲示板のようなものが出ていて、「人身事故より当駅発着電車はすべて運行中止」との文字が!電車は20分ほど前に止まったばかりで、復旧には一時間以上かかる恐れがあるらしい。

あらあらと思いつつ、正直焦る気持ちはなかった。というのも、この日は在宅勤務の夫が家にいたので子どもたちが学校から帰ってくる前に帰宅しないと!という焦りもないし、この駅から自宅の最寄り駅までは遠回りの経路にはなるけれどバスが運行しているのだ。たまたま安心条件が揃っていたので、焦るというよりむしろ予想外の展開がちょっと面白くなってくる。

とりあえず電車は早々諦めて、駅前のバスロータリーのほうに移動をする。時刻表を確認すると、10分後にはお目当てのバスが来るらしい。バスを待っている間、夫に状況を知らせるLINEだけ送っておいた。無事時間通りにやってきたバスに乗り込むと、少し奥のほうの席に腰を下ろして、重い水羊羹の荷物は足元に下ろした(お持たせ用の袋は別途もらっているからいいだろう)。

この路線のバスには以前何回か乗ったことはあるので、進む道のりは知っていた。とはいえかなり久々に乗るので、なんだかバスの外に流れる景色がとても懐かしい感じがした。途中自然公園の脇を通るのだけど、桜が散ったあとの新緑がすごくきれいで、思わず車内からスマホで写真を撮った(シャッター音は消してあった)。

バスに乗ったから見れた景色。


電車だと10分程度で移動できるところを、かなり遠回りしながら30分近いバスの旅。ここまで長くバスに乗る機会はあまりないので、面倒に思うどころか、実は結構楽しかった。好きな音楽をイヤホンで聴きながら、流れていく景色をひたすらぼーっと眺めている時間は、なんだかとても穏やかで、心地がよかった。

ようやく自宅がある地域に差しかかり、バスを降りる。とはいえ自宅からは少し離れたバス停なので、そこからまた10分ほど歩いた。歩きは大したことないのだけど、水羊羹の入った袋の取っ手が手に食いこんできたのはちょっとしんどかった。

無事家に着くと、ギリギリ子どもたちはまだ帰宅していない時間だった。当たり前だけど、人身事故があって電車に乗れなかったハプニングも、慣れないバスで帰宅したことも、何事もなかったかのように、家は普段通りだった。このハプニングのことを口にしなければ、子どもたちは日中私の身に起きたことなど知る由も無いということが、なんだか不思議というか、面白いなぁと思った。

その後長男が先に帰宅して、次男と一緒にゲームをやりたいからと、次男が帰ってくるのを今か今かと待っていた。しかし、しばらく経っても長男と同じ時間に学校が終わっているはずの次男がなかなか帰ってこない。もちろん帰る時間は学年差、クラス差はあるだろうけど、どうかしたのだろうか。木曜日だから、もしかして補習があるのだろうか(ある日とない日があっていつも分かりにくいのだ)。でもまだ新学期だし、補修があるという話も特に聞いていなかったよな…。あと可能性としては、放課後の校庭開放にそのままお友達と参加しているのかもしれない。でも昨日、校庭開放に行く可能性はあるけど、とりあえずは一度家に帰ってきてから校庭開放に行くと次男は言っていた。次男は結構真面目な子だから、約束はちゃんと守りそうだけれど、もしかしたらお友達につられて、そのまま校庭開放に行ったのだろうか…。

ちょっと不安になりつつも、補習の可能性もあるので、その時間が終わるまでは待機してみることにした。長男は次男がすぐ帰ってくる可能性を諦めてゲームを始めた。私はパソコンを開いて、noteに日記を書きはじめつつ、やっぱりどうも次男のことが気になる。まだ外は明るいし、学校から我が家まではかなり近くて危ない道もないし、登下校の子どもたちで人通りもあるので、この時間帯に何かあったという可能性は低い…とは思うけれど、でも、わからないよなぁ…。

それからしばらくは長男はゲーム、私はパソコンに向かっていたのだけど、補習終了の時間を過ぎて午後4時くらいになってくると、さすがにちょっと心配になってきた。これは、学校に電話をしてみたほうがいいだろうか、それともどうせ近いし学校のほうまで歩いて行ってみるか、いやでもそもそも心配しすぎだろうか…。夫の意見も欲しくてオンライン会議を終えたばかりの夫に状況を伝えてみると、「ちらっと学校のほうまで見に行ってみたら?」と言う。

おぉ、マジか…どうしようかな…でもまずは学校に電話してみたほうが早いか…?そんなふうにソワソワしていたちょうどそのとき、家のインターホンが鳴り、次男が「ただいまー」と帰ってきた。よ、よかったー!心配したのはもちろん、これからどう対応するのがいいだろうかとソワソワしていた戸惑いが一気に安堵に変わる。

帰ってきた次男を玄関まで出迎えると、「帰り遅かったね!大丈夫だった?何かあったの?」とつい食い気味に聞いてしまう。すると次男曰く、やはり放課後の校庭開放にそのまま参加していたらしい。一度帰ってくると前日に私に伝えてはいたものの、やはり一緒にいたお友達につられて、まぁいいだろうと帰らないまま遊んでいたらしい。しかも約束を守らなかったことを特に気にせず、「楽しかったー!」とテンション上げ上げだ。

私は非常にモヤっとした。校庭開放に行くこと自体は全然構わないし、事前に「学校から直接参加する」と伝えておいてくれたら、別にそのまま行ってくれてもよかった。でも今日に関しては、「一度帰ってきてから校庭開放に行く」と次男は言っていたのだ。私はそれを信じて、その時間帯に帰ってくるだろうと待っていたのに、その時間に帰ってこないなんて、心配するではないか!

単純に予定と違うことをされると、本当に子どもたちに何かあったときに気づけなかったり対応できないという怖さもあるし、そもそも約束を破って心配をさせられた私は心配させられたことに若干怒っていた。いっときでも我が子を思って不安な思いをして、若干傷ついていたのかもしれない。

そういったことを、一通り冷静に次男に伝えた。私の真剣な様子に、テンション上げ上げだった次男も、やっちまったと気づいたらしく、神妙な面持ちに変わり、「ごめんなさい」と謝ってきた。今度からは校庭開放に行くときは行き方や時間を事前に一緒に決めて、決めたことはちゃんと守ろう、と約束をして終わった。会話を終えたときにはもうだいぶ時間も遅くなっていたので、息つく暇もなく夕飯の準備をした。

なんだかデパートに水羊羹を買いに行ったことも、素敵なカフェでレモンタルトを食べたことも遥か昔のことのように感じる。それは確かに起きたことで、そのときに感じたワクワクや幸福感は消えないのだけれど。

夕飯の時間をなんとか終えて子どもたちがパパとお風呂に入っている間、私はソファに沈みこみながら、生きていると、こうやって、日々、いろいろあるよねぇ、とじんわり思うのだった。


いいなと思ったら応援しよう!

涼元風花 Suzumoto Fuuka
応援嬉しいです✨いただいたチップは本の製作、イベント出店など、執筆と本の製作活動に活用させていただきます!