『スリル・ミー』について
残しておいたほうが面白いなと思ったので過去ブログから引っ張ってくっつけてみました。2019年と2021年はチケット取りのタイミングを逃して観られていません。最初に確保しておかないと絶対に観られない、それがスリル・ミー…。
2023感想 09.13. 池袋芸術劇場シアターウエスト
キャスト
尾上松也/廣瀬友祐
廣瀬さんは所見かもしれない。尾上さんはメタルマクベスで拝見しました。しっかり聞こえるところと、ちょっと「か」「さ」「た」行が怪しいように聞こえなくもないような…それが余計に不気味感を出しています。わざとなのかな。
廣瀬さんはもの凄く「キマって」ました。顔が小さく手足が長い。だから手を広げたり足を組み替えたりが、なんか、スタア感…?それが、もしかしたら、すべて尾上「私」の頭の中で作り上げられたキャラクターなのかなと思わされる感じでした。立ち振る舞いとか話し方とか全部。「私」の一人芝居みたいな。良知×小西ペアでもそう思っていたようでしたが、そちらは根っこが同じっていてた。今回は根っこが違います。違うキャラクターなの。
それなのに、想像の産物…?と思わせちゃう尾上さんが底知れなくてえぐい。
廣瀬「彼」は感情の振れ幅にびっくりさせられました。みんなあんなに感情を振り回してたかしら…してなくはないんだろうけど…。スタイルが良いので余計に大きな所作に見えたのかも。
歌はお二人共もちろんクオリティが高いです。デュエットのときのほうが響いた気がしました。ここ歌い上げてくるか…?と思ったところで台詞になったりと、ちょいちょい期待を裏切ってくる感じが良い。とても良い。
2014感想 11.16. 天王洲銀河劇場
キャスト
田代万里生/伊礼彼方
松下洸平/小西遼生
今回は興味があったのと一日で観られたので2ペア観てきました。ほかの舞台との兼ね合いで尾上柿澤ペアが観られないのが残念……。大きな感想としてはこれまでとすごく変わるわけではありませんでしたが、役者が違えばものが変わる。今回の田代「私」はとんでもない曲者!!と鳥肌が立ちました。前回は「彼」が新納さんだったためわりと変態×変態の構図が出来上がっていてある意味バランスが良かったんです。言い方を選んでいないだけで貶してません。すごくよかったからね。でも、今回は田代さんが圧巻でカナさんの「彼」が手のひらの上だったように見えました。カナさんの彼からはいびつな香りがしなかったからでしょうか。完全に「陽」の人でした。誘拐のナンバーも妖しく誘うというよりは少年に近づいて警戒を解く感じ。それはそれでいい。でも、だからこそ田代さんの私がもの凄く歪んでうつりました。明らかに異質。そんな「私」が「彼」に執着する意味も分からなくて、説明されてもきっと分からないだろうから最終的には新聞が書き立てる程度の理解にしか落ち着かないんだろうと思います。あれが超人だと言われたら納得するな。
小西松下はどことない透明感があり、共感を呼ぶようなスタンダードさがあったと思います。後半結構すすり泣きが聞こえてきて、松下くんの持って行き方がそうなんだなあと。愛が異常ではなく、多少なりとも理解できる形になっている。多少ね。親愛的な。それがコニタンの彼のことも若干人間的に見せているのかもしれません。単体で見ると人間味があるのはカナさんの方なのに、不思議だなあ。
2013感想 03.20. 天王洲銀河劇場
キャスト
良知真次/小西遼生
昨年7月に田代×新納で観て衝撃を受けました、今回は良知さんとコニタン。
何だか得体の知れない二人を観た、という感じでした良知小西ペア。1回聴いた曲なので(しかも半年前)わりと耳なじみはよく、でも前回と今回では引っ掛かる場所がまったく違いました。前回ぎゃ!と思ったところは今回スルーで、今回戦慄したところは前回気にも留めていなかった部分。具体的に何が違う、というよりもその引っ掛かりでまるきり違うペアだということを知りました。
コニタンは新納さんのように色気を駄々漏れさせておらず、かっちりとしたどこか健全ささえ漂わせている「彼」でした。だからこそ彼の傲慢さや自己愛にぞっとする。良知さんの「私」は被虐的さを見せつつ焦点の合わない目を垣間見せる。プライドが高そう。田代さんの「私」はやはりあの圧倒的な歌唱力が作用する強かさが印象的だったので、これもまた不思議な感じ。お互いがお互いのことをどう思っているのか、どう必要なのかが最後まで曖昧なままで、だから観客も世間も最後まで「私」と「彼」との関係が理解できなかったんだろうと。バランスなのかな、ふたりで歌うシーンはどこも聴き応えがありました。やさしい炎も「思い出せない」と繰り返すところも、99年一緒だと歌うところも(特にここが)、板上にいるのがひとりなのかふたりなのかが定められない感覚に陥りました。「私」の奇妙な存在感と「彼」の歪んだ健全さが融合して半分くらい溶け掛かっているような気がしました。極端に言うと、「彼」は「私」の頭の中の存在じゃなかったですか?という感じで。
それくらい、根っこは同じものなのかも知れないと思わせる部分でした。田代新納ペアでは、どちらかといえば個々の主張する部分が非常に印象的で、誘拐の時に「彼」が口ずさむナンバーの妖しさと「私」のスリル・ミーのラスト、あとは護送車の中で「弁護士になりたかった」「……知らなかった」と呟くシーンなど、エゴとエゴのぶつかり合いやら激しさやらがとにかくわたしの中の"スリル・ミー"だったんですが、今回は判決が出てからの99年がとにかくおそろしくてたまらなかったです。2人揃っているシーンが強く残っています。駆け引き感があまりなくて、「私」の優位性が最初から根底に漂っている気がしました。
でも、一度観てしまったものだったので多少事前知識が影響してるのかな……と思うと、まっさらな気持ちで良知小西ペアも観てみたかった。ラストでは良知さんの「私」は涙をぼたぼた落として「彼」を観ていました。もはや愛なのか憎なのかその他なのか分からない。全部で4度あったカーテンコールでは3度目からオールスタンディングオベーションになり、お二人はがっつりと肩を組んで捌けていきました。複数回すでに観劇済みのかたもたくさんいた開演前の雰囲気でしたが、2時間緊張感が途切れることのなくいい空間を過ごさせていただきました。
2012感想 07.19.天王洲銀河劇場
キャスト
田代万里生/新納慎也
興味はあり、機会と予定が合ったので出掛けてきました銀河劇場。行って良かった……!
たいへん濃厚な1時間45分を過ごさせていただきました。事前知識がまったくないままだったんですが、実際にあった事件をベースにしているミュージカルなんですね。舞台は2Fのつくりで、2Fにピアノが一台。昨年観た欲望という名の電車と同じような配置。前数列を潰していたので、だいぶ近いどセンターで観られたので、劇場の広さはあんまり気にならなかったな。もうちょっと後ろだったり2,3Fになるとまた観方が変わるかもしれない。
「私」の田代さんは、よくもまあサンセット大通りから10日あまりでスイッチの切り替えをされましたよね。両方とも大分に強烈なお芝居だと思うんですけど……プロだなあ。19歳青年と50代男性の姿が全然違う。照明もとてもうまいこと表情を変えるような感じだったんですけど、表情から声色から姿勢まで何もかも違うので、服装が変わらなくても暗転がなくても混乱しない。「彼」にすがったりひたすら求めたり狼狽したりが弱弱しいかと思えば、契約を持ちだす時にとたんに高圧的な話し方を覗かせたりもする。その部分がきちんと見えていたから、移動の車の中で変貌した「私」に驚きつつも納得できる。サスペンスではなくて究極の愛だった……。収容されて、自己保身に走った「彼」を詰ったのさえもひとつの道として組み込まれていたとしたら、なんとおそろしい。ただ、応用出来るっていうのが本当に頭の良い人ですもんね。死ぬも生きるも、一緒ならどちらでもいいと決めてしまえば道は更に広がったのかも。
「彼」の新納さんは、怪しい魅力。結構分かりやすくその場しのぎだったり弟や「私」にコンプレックスを持っていたりするんですけど、「私」の方はきっとそれも理解していたんだろうなあ。むかつく奴を殺す、と言った時に「僕?」と間髪いれずに驚いていた「私」にちょっと驚きました。あっ分かってるんだ!って思った。あとから考えたら、分かってない筈なかった。誘拐時のナンバーがとんでもなく美しい。高音がきれいに響いて、その後の不穏さが一層増しました。色気もだだ漏れていらっしゃいました。車の中での「ああいう弁護士になりたかったんだ」「知らなかったよ」のやり取りは何だか物悲しくなる。傲慢で美しい男。へし折られても自らは死ねない男(一番最初は「彼」は「私」に殺されたのかな?と思い、「私」の愛の揺るがなさを知ってからはじゃあ自殺したのかな?と想像して観ていたので、第三者に殺されたというのに驚きました)(それが「彼」らしいと言うならそれにも納得できるなあ)
それから、二人芝居ならではなんでしょうか。シンメトリーとアシンメトリーの緻密さがたいへん好みでした。お二人の息がとても合っていて、お互いを見ている時も見ていない時も動きが計算されていたように見受けられました。そういうの好きです。座席を潰している割には舞台そのものはあんまり広くないな二人だからな、と思っていたら、最後に解放されて広がりを増した舞台に鳥肌が立ちました。歌は言わずもがな。ラストシーンも引きずらずに好きなタイプです。1回目のカーテンコールで出てきた時に、田代さんから「私」が全然抜けてなくて、ぎゃ!となりました。あの、熱いのに冷たい視線ね。
全体的に、緊張がくせになるような舞台でした。これがゆがんでいるから結末がこうなってしまった、という明確な原因があるわけではなくて、本人たちですら認識できていないような歪みが蓄積して大きく道を変えてしまったんだろうなと思いました。あの「私」の浮かべる笑みや視線を観てしまうと、「彼」が少しかわいそうになる。それくらい田代さんの「私」は得体の知れないものでもありました。他にも3組の公演があり、どのペアも気になる次第です。公演としての答えが出ないダブルトリプルキャストは好きじゃない!と言っているんですけど、これは好きな役者さんだったらどう演じるんだろう……というのが気になる作品かも知れないと思います。キスシーンがあったりもして、描写が露骨な部分もあるので好き嫌いはあるのかもです。ただ、不要なシーンは全体としてどこにもなかったと思います。むしろ結構ぎりぎりまで削られている印象。だから想像してしまうんでしょうねえ。
余談ですが、同じ列で加藤和樹さんも観劇をされていて、10分前にはご着席され3度のカーテンコールもしっかりと拍手をされていたので、なんて好青年なんだ……と思いました。あの人が「彼」をやるならそれはそれで面白くなりそう。観てみたいかも。